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遊園地の楽しみ方

 小雪に連れられてやってきたのは、とあるアトラクションだった。

 ドーム状の建物はファンシーな見た目で、入り口から多くの人々が吸い込まれていく。

 客層は親子連れが多いようだ。

 

「これは?」

「ふふん、直哉くんは『ほしょく☆めいと』をよく知らないみたいだからね」

 

 首をかしげる直哉に、小雪はいたずらっぽく笑う。

 

「ここはカートに乗って、あの子達のお話を楽しむアトラクションなの。これで勉強して、遊園地をさらに楽しんでもらおうってわけ!」

「おおー。思ったよりまっとうだった」

「『思ったより』……?」

 

 直哉の物言いに、小雪の眉がぴくりと動く。

 しかしすぐに気を取り直したように不敵な笑みを浮かべるのだ。

 

「そんな生意気な口が利けるのも今のうちよ。噂によると大人でも引き込まれちゃうくらい、すっごく感動的なお話らしいんだから。出てきたときには直哉くんもあの子たちの虜になっているに違いないわ!」

「うんうん。楽しみだなあ」

 

 直哉は鷹揚に笑って、小雪とともにアトラクションへと向かった。

 乗り物自体が楽しみ……というよりも。

 

(自分からフラグをガンガン立てていくんだもんなあ……)

 

 完全に先の展開が読めていたからだ。

 

 

 

 桐彦からもらったチケットは特別なもので、乗り物の優先券が何枚かついていた。

 それにより、ろくに並ぶこともなく乗り場へと案内されて、ふたりはメルヘンなカートに乗り込んだ。

 そこからアトラクションは約十分。

 しっかり楽しんで――出口で青空を拝んだ瞬間、小雪がその場で泣き崩れた。

 

「うぅ、ぐすっ……よ、よかった……すっごくよかったあ……」

「ほんと期待を裏切らないよな」

 

 ボロボロと泣き続ける小雪に、直哉は用意しておいたハンカチをそっと差し出す。

 見ればほかの家族連れも似たようなものだった。

 付き添いで来たらしいお父さんの方が号泣している……なんて光景も多々見受けられる。


 ぐすぐす嗚咽を上げつつも、小雪はじろりと直哉をにらみ上げた。

 かなりの怒気が感じられたが、季節外れのトナカイみたいに鼻を真っ赤にしていたので、怖さより可愛さの方がだいぶ優った。

 

「なんで平然としてるのよぉ……とらくんの恋人が実は生きてたって判明したところとか、自分が本当は猫だってみんなに打ち明けるところとか……どこも胸熱展開だったじゃない!」

「そりゃもちろん面白かったけど」

 

 恋人の仇を探し、肉食獣のコミュニティに潜り込んだとらくん。

 そこから二転三転するストーリー。

 やがて顕となる、人間という真の敵。

 仲間たちに真実を打ち明け、力を合わせて立ち向かう最終戦。


 ハリウッド超大作と言われてもすんなり信じてしまうくらいの濃厚展開の連続で、直哉ももちろん手に汗握った。

 しかしアトラクションよりも――。 

 

「一喜一憂する小雪の方が、見てて楽しかったしなあ」

「もう! 私なんていつでも見れるでしよ!」

 

 ぷんぷん怒る小雪だった。

 しかしすぐに肩を落とし、唇を尖らせてみせる。

 

「むう……これじゃ私の方が楽しんでるみたいじゃない。勝負はいきなり不利ね……」

「俺だってちゃんと楽しんでるって。小雪を」

「遊園地を楽しみなさい」

 

 軽口を叩く直哉を、小雪はじろりとにらむ。

 その目はひどく冷たくて、恥じらいが一切含まれていなかった。からかうのはこの辺で切り上げた方がいいだろう。

 直哉は軽く笑って話を変える。

 

「それじゃ次は俺の番かな。全力でエスコートさせてもらおうか」

「むう。言っとくけど、絶叫系は苦手だからね?」

「だと思ったよ。大丈夫、遊園地の楽しみ方はアトラクションだけじゃないからな」

「はあ……」

 

 首をかしげる小雪を連れて、直哉はとある場所に向かった。

 奥の区画に存在するレストランだ。

 ちょうど時刻は昼前ということもあって、長蛇の列ができている。園内にはいくつも食事のできる店があるものの……ここの混み方は群を抜いていた。


 おかげで小雪も不安そうにする。

 

「ここはダメよ。人気が高いから、半月くらい前から予約しないと入れないって、ネットに書いてあったわよ」

「へーきへーき。すみませーん。予約してた笹原ですけど」

「はい。確認いたしますのでお待ち下さい」

「へ?」

 

 店員に声をかけると、あれよあれよという間に席へと案内された。

 しかも園内の様子が見渡せる、二階の窓側特等席だ。

 中は園のマスコット――『ほしょく☆めいと』の人形やイラストであふれている。いわゆるコンセプトレストランだ。ふたりが向かい合って座るボックス席も、ポップなデザインで統一されている。


 直哉は単に人気の店だということしか知らなかったが、小雪は目を輝かせて店内をきょろきょろする。どうやらお気に召したらしい。

 

「すごい! 行くのが決まったのは先週なのに……どんな魔法を使ったわけ!?」

「ははは、そこは企業秘密ってことでよろしく」

 

 直哉は笑ってごまかした。

 ここを予約したのは、実は自分ではないからだ。

 

『こんなこともあろうかと、園内で一番人気のレストランを予約しておいたわよ〜。小雪ちゃんと行ってきなさいな』

『……ひょっとして桐彦さん、巽たちとグルだったりする?』 

『あーら、なんの話だかさっぱりだわ〜』

 

 ほくそ笑む桐彦の顔が脳裏をちらつき、むず痒い気持ちになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 恋人の反応楽しむのは当たり前だよなぁ? 直哉は出来る男だから遊園地も楽しんでいるはず。 でも割合的には8:2くらいで小雪だろうな~(*´ω`*) [一言] 多くの肉食獣が居るみたいなので…
[良い点]  これも、桐彦さんの御加護か··· [一言]  恋人(猫)が、生きている、だと···?なんと言うことでしょう。今のうちに食べておきます。美味しかったです。お礼に残った骨をお渡しします。
[良い点] 桐彦さん 真田さん説w こんなこともあろうかとぉ~! [一言] 一喜一憂する小雪 画像で見たい! 書籍化まだですか?
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