好意の辞退
「でも……これで謎が解けたわ。どうしてあなたがそんな変人なのか」
「孝行息子だって言ってくれよ」
「変人なのには違いないでしょ」
小雪は呆れたようにコーヒーをすする。
そうして不敵な笑みをうかべてみせた。
「でも残念だったわね。あなたのそのスキル、私には通用しないんだから」
「え、マジで?」
「そうよ。なんで私があなたとお茶して、喜んだりしなきゃいけないんだか。家で水道水でも飲みながら勉強していた方がはるかに有意義よ」
やれやれと肩をすくめてみせてから……小雪はそっと声をひそめて、うかがうような目を直哉に向ける。
「でも、とりあえず参考までに聞いておきたいんだけど……私の考えてること、ほかにもわかったりするの?」
「うーん、まあいろいろと」
直哉は鷹揚にうなずいてみせる。
強がってはいるがわりと怖がりなこと、ブラックコーヒーを無理して飲んでいるけれど本当は甘いココアの方が好みなこと……いろいろ読み取ることができるものの、特筆すべきなのはひとつだけだろう。
「俺に惚れたってこととか?」
「ぶふーーーーーーっ!!」
小雪が勢いよく噴き出した。
そのまましばし苦しそうに咳き込むものの、直哉はそれを見守るしかない。へたに手を出したが最後、ブチギレられるのは火を見るよりも明らかだったからだ。
「げほっ、がはっ、うっ、ぐ……う、お、面白い冗談じゃない……私が誰を好きだって……?」
「え、違うのか?」
「あっ、当たり前でしょ!」
小雪は震えた声で叫ぶ。
顔どころか指の先まで真っ赤で、綺麗な日本人離れした青い瞳も羞恥の涙でうるんでしまっている。
「いくら危ないところを助けてもらったからって……私ほどの完璧美少女があなたみたいな変人、好きになるわけないでしょ! 自惚れないでちょうだい!」
「ああうん、それならそっちの方が全然いいんだけどな」
「……へ?」
小雪がぽかんと目を丸くする一方で、直哉は頭をかいてため息をこぼす。
「実はさ……こうして白金さんについて来たのには理由があるんだよ」
「理由……って?」
「うん。簡単な話だ」
直哉はあらためて小雪に向き合い、こう告げた。
「白金さん、もし俺を好きになったのなら……やめといた方がいい」
「…………」
その瞬間、小雪の綺麗な顔がくしゃっと歪んだ。彼女は途端に勢いをなくしてうつむいてしまい、消え入りそうな声で問う。
「それって……彼女がいるってこと?」
「いや、彼女いない歴イコール年齢だ」
「……じゃあ、私みたいな気の強い女、お断りって?」
「それも違う」
直哉はゆっくりとかぶりを振る。
今現在彼女もいなければ、小雪のことが嫌いなわけでもない。むしろ見ていて面白いし、ちょっと好意を抱いてもいる。
だがしかし、直哉には譲れない事情があった。
女の子を悲しませている申し訳なさに胸が詰まりつつも、慎重に言葉を選ぶ。
「俺ってさ……こういう性分だから、女子から『気遣いのできる人』だと思われてよくモテるんだよな」
「なにそれ、自慢……?」
「ここで話が終わればな」
射殺しそうな目でにらむ小雪に、直哉は肩をすくめる。
そのまま自嘲気味に薄く笑い、打ち明けることには――。
「でも、すぐにみんな離れていくんだよ……『察しがよすぎてキモい』って言ってさ」
「ああ……なるほどね」
全力で納得した相槌だった。
酷いとは思ったが、自分でも妥当な流れだと自覚もあるので反論できない。
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