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不良少年に因縁をつけられる

 その日の昼休み。

 小雪は結衣やほかの女子たちとお弁当を食べるということで、珍しく直哉とは別行動となった。

 すこし寂しい気もしたが、たまにはそんな日があってもいいだろう。人見知りを自称していた小雪が、進んで人と付き合おうとしているのも好ましい変化だと思えた。


 それに、直哉も用事があったのでちょうどよかった。

 その用事とは――とある人物からの呼び出しだった。

 

「えーっと、とりあえず来たけど。話って何かな?」

「……」

 

 人気のない校舎裏。

 呼び出しに応じて、直哉はのこのこと出向いていった。

 これで相手が可愛い女子なら嬉し恥ずかしの告白イベント待ったなしなのだが、直哉を待ち構えていたのは同級生の男子生徒だ。


 伏虎竜太(ふすとらりゆうた)

 小雪と同じクラスで、不良という噂がある少年だ。

 その身にまとうのは猛獣じみた気迫で、鋭い相貌がギラつく光を帯びている。

 

 彼が直哉を訪ねたのは、休み時間のことだった。

 突然やって来たかと思えば一方的に「話がある」と言い放ち、返事も聞かずにとっとと帰ってしまった。


 そのとき一緒にいた巽は「おまえ何をやらかしたんだよ……」と呆れていたが、直哉は平気でその呼び出しに応じた。

 彼の用事などわかりきっていたからだ。

   

「……とりあえず先に言っておくけどさ」

 

 じっと押し黙ったままの伏虎に、直哉は人差し指をぴんと立てる。

 

「俺は白金小雪一筋だから、鈴原さんとは何の関係もない。そこんとこよろしくな」

「なっ……!?」

 

 すると伏虎が目をむいて驚いた。

 直哉に掴みかからん勢いで距離を詰めてくる。

 

「なんでおまえ、俺の話がエミ関係だってわかるんだよ……!」

「だって伏虎くんと俺の共通点なんか、鈴原さんしかないと思ったし……」

 

 鈴原恵美佳。

 小雪と同じクラスの生徒であり、そして――。

 

(白金会の重鎮メンバーだもんな、あのひと……)

 

 最初に白金会に拉致られたとき、小雪ともっと仲良くなりたいと言っていた黒頭巾の女子生徒――それが鈴原恵美佳だった。直哉のアドバイスがあったおかげか、今ではすっかり小雪との距離を縮めたらしい。

 

「小雪のクラスに行ったとき、鈴原さんと伏虎くんが親しげに話してるのは何回か見てたしさ。好きなんだろ、鈴原さんのこと」

「ばっ……!? お、俺は、別に、あいつのことなんて……!」

「強がらなくていいって。内緒にしとくからさ」


 真っ赤になってうろたえる伏虎竜太。

 直哉でなくても本心だだ漏れの反応だった。

 だから直哉はなるべく穏やかな声を心がけて続けるのだが――。


「鈴原さんとは、うん……ちょっとした集まりの関係で知り合いってだけだからさ。伏虎くんが心配するようなことはないから安心してほしいんだ」

「……竜太でいい」


 彼――竜太は大きなため息をこぼしてみせた。

 

「おまえが白金一筋なのはエミから聞いてる。そこは一切心配していない」

「へ?」


 てっきり牽制とか、脅しとか、そういう用事なのかと思っていた。

 しかし彼の言葉は本心だ。それと同時に、読み取れるのは痛いほどの苦悩だ。


(だったら用事ってなんなんだ……?)


 首をかしげる直哉に、竜太は鋭い目を向ける。

 

「エミから聞いてるぞ。おまえ、人の本心が見抜けるらしいな。その力を見込んで、エミについて聞きたいことがあるんだ」

「鈴原さんのこと? いやでも、俺もそんな親しいわけでもないし、わかるかどうか」

「はっ……おまえならわかるはずだろ。俺は……今のエミのことは何一つわかんねーけどな」

「はあ……」

 

 竜太は哀愁のこもった目で、空を見上げる。

 そのまま彼はぽつりぽつりと語り始めた。

 

 家が隣同士で、昔から仲が良かったこと。

 以前までの恵美佳はおとなしくて、本ばかり読んでいるような子だったこと。

 それが……ある日突然変わってしまったこと。

 

「そう。あいつが変わったのは、今のクラスになって……白金と出会ってからだ!」

 

 竜太は顔を覆い、嗚咽のような声を上げる。


「妙に明るく可愛くなったし、付き合いが悪くなったし、そうかと思えばやたらと白金の話ばかりするし……やっぱり、そういうことなのか!?」

「そういうことって……?」

「決まってるだろ!」

 

 戸惑う直哉の肩をつかみ、彼は大きな顔で叫ぶ。

 いわく――。

 


「あいつは……エミは、白金のことが好きなのか!?」

「…………はい?」



 直哉は目を瞬かせるしかない。

 その『好き』は……もろに恋愛感情的な意味だと察しがついたからだ。つまりあれだ。百合展開。


(いや、ないない。ないってば。間違いなくない)


 だがしかし竜太は本気だった。真っ青な顔でわなわなと震えながら、直哉にすがり付いてくる。

 

「たのむ! 本当のことを教えてくれ! おまえならエミの本心もわかるはずだろ!」

「いやあの、なんて言えばいいんだろ……」


 直哉は頭を捻る。

 単刀直入に言えば、完全に竜太の誤解だ。

 だがしかし、それを説明するのは非常に難しい。

 しばし考え込んでから――直哉はおずおずと提案する。

 

「えっと、それじゃ……のぞいてみる?」

「っ、な、なにをだよ」

「邪教集団の集会風景……?」

「はあ……?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 竜太も普通の恋する男の子だった 同性アイドルにあこがれる みたいな感じかしら? [一言] 連れて行っていいのか?←素直な感想w 連れて行って見せつけろ!←邪な感想w 次回も期待w
[良い点] まさか直哉の変人スキルを頼る人が出るとは
[良い点] 邪教集団は笑う さすがに百合は読心できないわなw [気になる点] じ、自分はねこじゃないですしゃーく? [一言] し、しゃーく!
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