食卓の準備
買い物を無事に終えて、白金邸に帰宅。
そこから調理に一時間ほどかかって……ようやくカレーが完成した。
「わあ。美味しそう」
「なーう」
湯気のたつ鍋をのぞきこみ、朔夜が平坦な声でこぼす。
抱っこされたすなぎもも、称賛らしき鳴き声を上げてみせた。
鍋の中はできたてのカレーでいっぱいだ。
具材はすこし大きめだが、じっくり火を通したのですっかり柔らかくなっている。
「まったくもう。朔夜もちょっとは手伝いなさいよね」
小雪はお皿を準備しつつ、そんな朔夜をじろりとにらむ。
「全部私と笹原くんで作っちゃったじゃない。」
「お邪魔虫になりたくなかった」
「楽がしたかっただけでしょ。まったくもう。末っ子はこれだから……」
やれやれと肩をすくめる小雪だ。
朔夜はそんな姉をじーっと見つめ、そっと背後を振り返る。
その先にいるのは直哉だ。姉妹がわいわいやる間にも、直哉は台所でとある作業に徹していた。
朔夜はこてんと小首をかしげて問いかける。
「お義兄様。ちなみにこれを翻訳すると?」
「『朔夜グッジョブ! おかげで付きっきりで包丁の使い方を教えてもらえたわ! あとで特別にビスケットのうさぎさんをあげちゃう!』ってとこかな」
「そこ! ご飯中は翻訳機能をオフにしなさい!」
映画館の注意CMのようなことを一喝する小雪だった。
そんな会話をするうちに準備ができる。姉妹は炊きたてのご飯にカレーをよそって、食卓につく。
ルゥの海でごろっと転がる人参を見て、小雪がへにゃりと眉を下げてみせる。
「むう……やっぱり少し大きかったかしら」
「そうかなあ。俺はこれくらいの方がすきだけど」
「そ、そう? ふふん、やっぱり私は完璧ね」
直哉がフォローすると、小雪は胸を張る。
小雪にはジャガイモの皮むきと、ニンジンの乱切りにチャレンジしてもらった。危なっかしい手つきだったが、なんとか指も切らずにやりきってくれた。
具材を炒めるのも、灰汁を取るのも、全部小雪の仕事で、料理教室一回目としては十分な成果だ。
直哉もカレーをよそって姉妹の正面に座る。
その前に――。
「それと、白金さんには特別におまけがあるんだ」
「へ?」
「お手伝いしてくれただろ。はい、どうぞ」
小雪のカレー皿に、先ほどから作業していたものをそっと載せる。
なんということはない。冷蔵庫に余っていたスライスチーズだ。それをちょっと細工させてもらった。
それを見て、小雪の顔がぱあっと輝く。
「すごい! チーズのうさぎさんだわ!」
「そんなトッピングもありなの?」
「ありだけど、デコレーションはセルフサービスだからな」
「ふふ、お手伝いした人の特権なのよ」
「ちぇー」
無表情で唇を尖らせつつ、朔夜はスライスチーズのフィルムをはがしていく。
その足元では、すなぎもが仏頂面でカリカリを頬張っていた。
平和な食卓の光景ができあがりだ。






