普通(?)のカップル
こうして昼休みはつつがなく終わり、放課後となった。
三人がやって来たのは学校近くのファミレスだ。
春先ということもあってまだ日も高く、案内された窓際の席はさんさんと陽光が降り注いでぽかぽかしている。実にのんびりした雰囲気だった。
直哉はメニューを広げ、隣の小雪と相談する。
「小雪はどうする?」
「うーん、そうねえ……この桜パフェが気になるんだけど」
小雪が指さすのは、サクランボと桜アイスが盛られたパフェだ。
一番人気の限定商品らしく、他にも頼んでいる客が多い。
しかし小雪は眉をきゅっと寄せて、世紀の難問にでも挑むかのように悩むのだ。
「でもカロリーも高そうだし、夜ご飯もあるしで非常に迷うところなのよね……」
「だったら俺と半分こしようぜ。それなら問題ないだろ」
「あら、直哉くんったら気が利くじゃない。じゃあそれで」
小雪はぱっと顔を輝かせ、タッチパネルを操作する。
そのついで、正面に座る文乃へ尋ねてみるのだが――。
「二ノ宮さんはどうする?」
「そうですねえ……」
文乃はちらっとデザートの写真を見やり、そっと目をそらした。
「私はドリンクバーだけでお願いします」
「あらそう? お腹が減ってないんだ」
「そういうわけではないのですが……今はブラックコーヒー以外、体が受け付けなさそうなので。甘いものは遠慮しておきます」
「ふーん。だったら注文しちゃうわね」
小雪は三人分の注文をしつつ、ドリンクバーへ向かう文乃を見送った。
やがてパフェが運ばれてくる。桜アイスをひと口食べて、小雪はぱあっと顔を輝かせた。
「大当たりだわ! うんうん、頼んでよかったー♪」
「おめでと。俺にもくれよ、あーん」
「あっ、ダメよ。今日は二ノ宮さんがいるんだから、ちゃんと自分で食べなさい」
「ちぇー、流れでいけるかと思ったのに」
「ふふん、私はちゃんと学んでいるんだから」
直哉にスプーンを手渡して小雪は不敵に笑う。
あーんなんて披露したら最後、ここぞとばかりにシャッターを切られてしまう。
小雪もしっかり学んでいるのだ。
「それで、二ノ宮さん。取材もそろそろ終わりよね、どうだった? 私たちが清い交際を続けているって分かってもらえた?」
「そうですねえ……」
文乃はブラックコーヒーをすすりながら、メモ帳をぱらりと見返す。
その目は真剣そのものだ。思わず向かい合う小雪もごくりと喉を鳴らしてしまう。
しかし文乃はメモ帳を閉じて顔を上げ、にっこりと尋ねてくる。
「ところで、これからおふたりはデートですか?」
「ふぇっ!?」
目を丸くする小雪に、文乃は穏やかに続ける。
「さすがにお邪魔はしませんけど……どんなデートを予定しているのか、最後に聞かせていただきたいんです。せっかくですし、記事の締めくくりに使おうかと」
「で、デートとかじゃないわよ。やあね、もう」
小雪はほんのり赤くなった顔でぱたぱたと手を振る。
今日はデートというより事務的なお買い物なのだ。
それをざっくり文乃に説明すべく、口を開く。
「実は今度、直哉くんをうちに泊めることになっててね」
「……はい?」
「うちの両親が家を空ける予定なの。それで妹と夜ふたりっきりになるんだけど……ほら、女の子だけだと何かと物騒でしょ? 男の子がいてくれた方が安心だからって、来てもらうことになったの」
もちろん小雪の両親と直哉の両親、どちらも了承済みの案件だ。
四人とも『そっちの方が安全だね』と即決だった。
「それでこれから一緒に買い物に行くの。いろいろ見ながら、作る料理を相談しようかと思ってね」
「な、なるほどぉ……」
文乃は頬を引きつらせて、またそっとメモ帳を開く。
そこにざーっと文字を書き連ねていく彼女を見ていて、小雪はふとした不安に襲われた。
「……やっぱり、これも変だったりするの?」
「いえいえ、とんでもありませんよ。仲がよくて羨ましいです」
「ほんとに?」
「もちろんですとも」
文乃はやけに力強くうなずいた。
メモ帳を大事そうに懐にしまってから、にっこりと言う。
「これでよく分かりました。おふたりはキスとかそんなの関係なく、純粋に仲を深めているってことが」
「二ノ宮さん……!」
小雪はじーんとして、テーブルから身を乗り出して文乃の手をがしっと掴む。
「ありがとう……! やっぱり持つべき者は友達よね!」
「はい。記事は任せてくださいね、とびきりいいものに仕上げてみせますから」
「もちろん! 期待してるわよ!」
小雪は満面の笑みでうなずいた。
それを横目に、直哉は「よかったなあ」なんて軽いコメントとともにパフェをぱくついていた。
◇
それから一週間後、待ちに待った大月新聞が発行された。
「な、な、な……何よこれぇ!?」
文乃から受け取ったばかりのそれを教室で広げ、小雪はわなわなと震える。
そこには約束通り、大々的に自分たちの記事が掲載されていた。手をつないだり弁当を並んで食べたりする写真と合わせ、様々な煽り文句が添えられている。
曰く――。
『大魔王と白雪姫、胸焼け必須の交際模様を独自スクープ!』
『もはや完全に夫婦』
『キスを超越したイチャラブは必見!』
どこをどう読んでも『普通のカップル』なんて書かれていなかった。むしろ記事の内容はどれだけ小雪と直哉が無自覚天然にイチャイチャしているかが仔細にレポートされていて……。
そんな折、ちょうどクラスメートの女子が通りかかった。
先日の女子会で小雪に疑惑をぶつけた当人たちだ。小雪を見るなり彼女らは満面の笑みで声を掛けてくる。
「あ、噂の熟年夫婦さんだ」
「記事読んだよ、白金さん。想像以上にラブラブなんだねえ」
「なんていうか……キスなんて小さい尺度で見てた私たちが馬鹿らしくなったよ」
「これからも旦那とお幸せにね~」
そんなことを口々に言って去って行く。
みなもれなく春の日差しより温かな目をしており、それが以前以上に突き刺さった。
小雪はぷるぷる震えて、頭を抱えて叫ぶ。
「なんで!?」
「まあ、進んだカップルだって誤解は解けたしいいんじゃないかな。うん」
隣で直哉がのほほんとコメントする。
たしかにこれで、ふたりの交際事情は白日の下に晒されることになった。
ただしそれは『キスなんて滅多にしない慎ましやかなカップルの図』からはほど遠い。
みんなの目は、一般常識を超越したUMAを見るような目だ。
「また違う色眼鏡で見られているんですけど!? ちょっと二ノ宮さん! これはどういうこと!? 私たちは普通のカップルだって言ったわよね!? 完全に夫婦以上のナニか認定されてるんですけど!?」
「えっ、公平な記事を書いたまでですよ?」
文乃は悪びれることもなくのほほんと言う。
そのまま彼女はスケジュール帳を取り出して、にっこりと笑った。
「ところで今回の記事、かなり好評みたいなんです。第二、第三弾のおふたりの特集記事を企画しているんですが……次はいつごろがいいですかね?」
「未来永劫ありません!」
小雪はぴしゃっと言ったものの、以降可愛いペット写真をエサにちょこちょこインタビューに応じてしまい……大月新聞の一コーナーとして、卒業まで定着してしまった。
続きは明日更新。






