表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/212

白金会会長の驚くべき正体

「しっかしなんでまた……? 白金さん、表向きはけっこうキツい性格してると思うけど」

 

 それこそ、彼女自身も気にしていたくらいだ。

 直哉のように本心が読めるのなら別だが、普通の人からすれば単に性格のキツい女の子……に見えるはず。

 しかし一同は顔を見合わせて、あっけらかんと告げる。

 

「でも白金さん、いい子だよな」

「そうそう。私同じクラスなんだけどね、いっつも花瓶の水を取り替えてくれるんだから」

「こないだうちの幼稚園の弟が迷子になってな……通りがかった白金さんが一緒に探してくれたんだ」

「はあ……」

 

 彼らは口々に、小雪のことを褒め称える。

 そうして最後に、同じクラスらしい女子がにこやかに締めくくる。

 

「けっこう誤解されがちだけど……ほんとはいい子だって、ここのみんなは知ってるんだから」

「……そっか」

「直接褒めたら固まっちゃうから、あんまり本人には言えないんだけどね。ここだけの話だよ?」

 

 口元で人差し指を立てて、黒頭巾の女子生徒はいたずらっぽく笑ってみせた。

 

(なんだ、けっこう分かってくれる人がいるんだな……)

 

 見た目は完全に邪教集団だが。

 同好会まで昇格するほど着実な活動をしているのに、当人の耳にまるで入っていないらしいのがそら恐ろしいが。

 まあとにかく、小雪の味方はわりとあちこちにいるらしい。そのことに直哉は少しだけ安堵する。

 

「でも私はせっかく同じクラスだし、もうちょっと本人と仲良くなりたいんだけどなー……ねえ、笹原くん。何かアドバイスない?」

「それなら猫が好きみたいだし、飼い猫の話でも振ってみれば……?」

「あっ、それいいかも!」

 

 黒頭巾の女子はきゃっきゃとはしゃぐ。そんな折――。


 

 キーンコーンカーンコーン。


 

 ちょうどそこで予鈴が鳴って、副会長が手を叩く。

 

「よし、それじゃ解散だ。笹原くんは定期的にここに来て、俺たちに萌えエピソードを投下していってくれ」

「まあいいっすけど……そのときは拉致しないでくださいね」

「それは私の気分次第」

 

 会長が椅子から立ち上がり、視聴覚室から出て行こうとする。

 そこで、直哉は慌てて彼女を呼び止めた。

 

「あっ。ちょっと待ってくれ、会長さん」

「なに」

「えーっと、その……」

 

 直哉はすこし言い淀む。

 なにぶん経験に乏しいものだから、こういうときなんと言っていいものだか分からない。

 だから……素直に頭を下げた。

 

「お姉さんのことは、絶対に大切にする。だから安心してほしい」

「…………」

 

 会長はそれをじーっと見つめていた。やがて彼女はおもむろに頭巾を脱ぎ捨てる。


 その下から現れたのは――小雪によく似た面立ちの少女だ。銀の髪を肩のあたりで切り揃え、細いフレームの眼鏡をかけている。レンズの奥からは冷めた眼差しがのぞき、表情らしい表情は一切浮かんでいなかった。

   

 彼女の声は感情がほとんど含まれていない。だがしかし何度も言葉を交わしていけば、見えてくるものがある。それは小雪への敬意と好意と……身内特有の親愛だ。そしてその読みはどうやら正しかったらしい。

 

「一年三組、白金朔夜(さくや)

 

 白金会会長こと、小雪の妹は淡々と名乗って直哉に右手を差し出した。

 

「これからよろしく、お義兄(にい)さん」

「待て、そのニュアンスはちょっと気が早くないか」

「こういうのは早い方がいいから。それで私、結婚式は洋式がいいと思うの。だってご飯がおいしいし、お姉ちゃんのドレスも見たいし、なにより絵の資料になるし」

「うん。それはまたいつか白金さんとゆっくり相談させてほしいかな」

 

 マイペース極まりない朔夜の手を、直哉はひとまずぎゅっと握った。

 その背後では白金会の面々がしみじみと言葉を交わす。

 

「結婚式か……いいな、俺たち白金会としては押さえときたいイベントだよな……」

「でも参列はしたくねえな……」

「わかる……推しに存在を認知されるとか耐えられない……」

「ガチ勢こわ……」


 害はないにせよ、ちょっと本気度が怖かった。



 

 

 その日の放課後。

 校門前で待っていると、小雪が喜色満面でやってきた。

 

「ねえねえ、聞いてちょうだい、笹原くん! 今日ね、クラスの女の子に話しかけられたの!」

「はあ」

「その子も猫を飼ってるんですって。うちのすなぎもの写真を見せてあげたら、かわいいって褒めてくれたの。ふふ……素直になるって決めてすぐこれよ! これならいくらでも友達ができちゃうかも……! さすがは完璧美少女の私よね!」

「よかったなあ、白金さん。ところでひとつ聞きたいんだけどさ」

「あら、なにかしら」

「和風と洋風、どっちが好き?」

「…………ご飯の話?」

 

 小雪はきょとんと首をかしげてみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ