白金会会長の驚くべき正体
「しっかしなんでまた……? 白金さん、表向きはけっこうキツい性格してると思うけど」
それこそ、彼女自身も気にしていたくらいだ。
直哉のように本心が読めるのなら別だが、普通の人からすれば単に性格のキツい女の子……に見えるはず。
しかし一同は顔を見合わせて、あっけらかんと告げる。
「でも白金さん、いい子だよな」
「そうそう。私同じクラスなんだけどね、いっつも花瓶の水を取り替えてくれるんだから」
「こないだうちの幼稚園の弟が迷子になってな……通りがかった白金さんが一緒に探してくれたんだ」
「はあ……」
彼らは口々に、小雪のことを褒め称える。
そうして最後に、同じクラスらしい女子がにこやかに締めくくる。
「けっこう誤解されがちだけど……ほんとはいい子だって、ここのみんなは知ってるんだから」
「……そっか」
「直接褒めたら固まっちゃうから、あんまり本人には言えないんだけどね。ここだけの話だよ?」
口元で人差し指を立てて、黒頭巾の女子生徒はいたずらっぽく笑ってみせた。
(なんだ、けっこう分かってくれる人がいるんだな……)
見た目は完全に邪教集団だが。
同好会まで昇格するほど着実な活動をしているのに、当人の耳にまるで入っていないらしいのがそら恐ろしいが。
まあとにかく、小雪の味方はわりとあちこちにいるらしい。そのことに直哉は少しだけ安堵する。
「でも私はせっかく同じクラスだし、もうちょっと本人と仲良くなりたいんだけどなー……ねえ、笹原くん。何かアドバイスない?」
「それなら猫が好きみたいだし、飼い猫の話でも振ってみれば……?」
「あっ、それいいかも!」
黒頭巾の女子はきゃっきゃとはしゃぐ。そんな折――。
キーンコーンカーンコーン。
ちょうどそこで予鈴が鳴って、副会長が手を叩く。
「よし、それじゃ解散だ。笹原くんは定期的にここに来て、俺たちに萌えエピソードを投下していってくれ」
「まあいいっすけど……そのときは拉致しないでくださいね」
「それは私の気分次第」
会長が椅子から立ち上がり、視聴覚室から出て行こうとする。
そこで、直哉は慌てて彼女を呼び止めた。
「あっ。ちょっと待ってくれ、会長さん」
「なに」
「えーっと、その……」
直哉はすこし言い淀む。
なにぶん経験に乏しいものだから、こういうときなんと言っていいものだか分からない。
だから……素直に頭を下げた。
「お姉さんのことは、絶対に大切にする。だから安心してほしい」
「…………」
会長はそれをじーっと見つめていた。やがて彼女はおもむろに頭巾を脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは――小雪によく似た面立ちの少女だ。銀の髪を肩のあたりで切り揃え、細いフレームの眼鏡をかけている。レンズの奥からは冷めた眼差しがのぞき、表情らしい表情は一切浮かんでいなかった。
彼女の声は感情がほとんど含まれていない。だがしかし何度も言葉を交わしていけば、見えてくるものがある。それは小雪への敬意と好意と……身内特有の親愛だ。そしてその読みはどうやら正しかったらしい。
「一年三組、白金朔夜」
白金会会長こと、小雪の妹は淡々と名乗って直哉に右手を差し出した。
「これからよろしく、お義兄さん」
「待て、そのニュアンスはちょっと気が早くないか」
「こういうのは早い方がいいから。それで私、結婚式は洋式がいいと思うの。だってご飯がおいしいし、お姉ちゃんのドレスも見たいし、なにより絵の資料になるし」
「うん。それはまたいつか白金さんとゆっくり相談させてほしいかな」
マイペース極まりない朔夜の手を、直哉はひとまずぎゅっと握った。
その背後では白金会の面々がしみじみと言葉を交わす。
「結婚式か……いいな、俺たち白金会としては押さえときたいイベントだよな……」
「でも参列はしたくねえな……」
「わかる……推しに存在を認知されるとか耐えられない……」
「ガチ勢こわ……」
害はないにせよ、ちょっと本気度が怖かった。
その日の放課後。
校門前で待っていると、小雪が喜色満面でやってきた。
「ねえねえ、聞いてちょうだい、笹原くん! 今日ね、クラスの女の子に話しかけられたの!」
「はあ」
「その子も猫を飼ってるんですって。うちのすなぎもの写真を見せてあげたら、かわいいって褒めてくれたの。ふふ……素直になるって決めてすぐこれよ! これならいくらでも友達ができちゃうかも……! さすがは完璧美少女の私よね!」
「よかったなあ、白金さん。ところでひとつ聞きたいんだけどさ」
「あら、なにかしら」
「和風と洋風、どっちが好き?」
「…………ご飯の話?」
小雪はきょとんと首をかしげてみせた。