白金会の恐るべき活動内容
直哉は目を瞬かせるしかない。
過激派ファンクラブの前で小雪への愛を語る……そんな死亡フラグをがっつり踏み抜いたはずなのに、返ってきたのは謎の感想。
これで戸惑わない方がおかしかった。
(尊いって、なにがだ……?)
ぽかんとする直哉をよそに、会員メンバーたちは一斉に口を開く。
「いやあ、白金さんをここまで思ってくれる男が現れるとは……我らの会もさらに忙しくなりますな!」
「ほんとほんと! これから新鮮な供給がいっぱいありそうでたまんないよぉ……!」
「この回答なら、会長もご満足ですか?」
「悪くない」
会長も、小さくこくんと頷いてみせる。
なぜか和気藹々ムードだ。黒頭巾をかぶっていても、全員が喜んでいるのが見て取れた。
「あ、あのー……」
そん中、直哉はおずおずと声を上げる。
「……俺のこと、ボコったりしないんすか?」
「なんでだ?」
副会長、ならびに他の面々がきょとんと首をひねった。
「なんでって……俺、白金さんを狙う悪い男なんですけど……」
「俺たちは白金会。白金小雪を静かに、こっそりと見守る会だ」
副会長は堂々と言ってのける。
「活動内容は週一で集まり、白金小雪のエピソードについて話し合い『尊い……』と言い合うだけの平和な会合だぞ。暴力的な手段になど出るものか」
「ちなみに最近、同好会に昇格した」
「そんな胡乱な活動内容で!?」
大月学園は自由な校風が売りの学校だ。
ゆえに奇妙奇天烈なクラブや同好会があるのは知っていたが……こんなものを承認するあたり、審査がザルなだけである疑惑が浮上する。
「つーか、非暴力集団っていうんなら……なんで俺は縛り上げられてんですかねえ!?」
「それは私がリクエストした。おもしろそうだったから。でももういいかな。放してあげて」
「了解です!」
会長が悪びれることもなくそう言うと、黒頭巾の中からひとりが出てきて直哉の縄をぱぱっと解いてくれた。
おかげで自由が取り戻せたが……かわりにその黒頭巾が、興味津々とばかりに直哉の顔を覗き込んでくる。
「ねえねえ、白金さんとの出会いは? 出会いはどんな感じだったの?」
「はあ……? 特に面白いものでもないと思うけど……」
直哉はせがまれるままに、小雪をナンパから助けたこと、お礼をしたいと言われたこと、喫茶店であれこれ話したこと等々をざっくりと説明してみせた。
すると一同は天井を見上げ、噛みしめるようにしてこぼす。
「なにそれ最っ高……」
「胸キュンエピソードすぎる……」
「そりゃあの白金さんも落ちますわ……」
「えええ……」
すすり泣きすら始める一同に、直哉はますます戸惑うしかない。
コメント内容はもちろんのこと……彼らがそれを本心から言っているということが、嫌というほど読み取れたからだ。
そこに直哉への敵意は一パーセントも含まれていない。
ただ純粋に、直哉と小雪を応援する奇妙なあたたかさに満ちている。
「え、まさかとは思うんだけど、あんたら……」
直哉はおそるおそる、一同に向けて質問を投げ掛ける。
「俺と白金さんの恋路の詳細を聞くために……俺を拉致したのか?」
「そのとおり」
会長があっさりとうなずいてみせた。
ほかの一同も「ほかにどんな理由が?」といった反応で、そこに嘘は一切見当たらなかった。
「いやいやいや!? だったらさっきのなんだよ!? 『生半可な覚悟なら相応の報いを受けてもらう』っつーのは!?」
「覚悟して臨まないと、白金小雪にバッサリ振られて傷つく。そういう意味で聞いた。でも大丈夫そうね」
「ただ単にふつうの忠告かよ!?」
直哉はツッコミを全力で叫ぶ。
(こいつらマジだ……! マジで白金さんを見守りたいだけなんだ……!)
外見はともかくとして、わりとふつうのアイドルのファンクラブ会合だ。
しかし直哉はキッと一同をねめつける。
「いやでも、女子はともかく野郎は信用ならないぞ!? 付き合いたいとか思ったりしてるんだろ、どうせ!」
「それはないよなあ。白金さんはちょっとほら、遠目に見てる方がいいっていうか」
「ライオンは外から見てるぶんには可愛いけど、檻の中に入って一緒に遊ぶのは勇気がいるだろ。おおむねそんな感じだ」
「ぐうっ……どいつもこいつも本心かよ……!?」
嘘を見抜ける自分の個性が、地味に嫌な事実を暴く。
つまり彼ら、白金小雪がただ単に好きなだけなのだ。
そこに恋愛感情は一切含まれてはおらず、テレビの向こうのアイドルを応援するような純度百パーセントの好意で見守っている。
(それはそれで怖いけどな!?)
どうやら小雪、直哉だけでなく変人を寄せ集めるフェロモンか何かを出しているらしい。