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自分がまいたタネ

 膝の上で手を握って耐えていると、ジェームズがふんっと鼻を鳴らす。


「いいや、こういうのは今からきちんと話し合っておくべきだろう。いくら直哉くんが素晴らしい人物だろうと、所詮は年頃の青少年……」


 直哉のことをジロリと睨み、勢いよく言い放つ。


「いつ何時、可愛い孫娘に手を出すか分かったものではない!」

「はあ!? 何よその言い草は!」


 そんな祖父に、小雪は真っ向から噛み付いた。

 目を吊り上げて詰め寄って、真正面から凄む。


「この人は私の彼氏兼ペットなの。そんな不埒なことをするような、中途半端なしつけはしていないわ。それとも何? お爺ちゃんは孫娘のセンスを疑うわけ?」

「し、しかし、わしは小雪のことが心配で……」

「それが大きなお世話だって言ってるのよ!」

「なんじゃ! 祖父に向かってその口の利き方は!」


 売り言葉に買い言葉。ふたりの口喧嘩はみるみるうちにヒートアップしていった。

 それを横目に、朔夜がこそこそと直哉に耳打ちする。


「お義兄様、止めなくていいの? お義兄様が原因の喧嘩なのに」

「うっ……それもそうなんだけどさ」


 今し方、そういう爛れた妄想を抱いていたので反論しづらいにもほどがあった。

 おまけに、止められない理由はそればかりではない


 直哉は口ごもりつつも、そっとふたりの様子を窺う。

 大好きな直哉のことを悪く言われて、完全に頭に血が上っている。

 対するジェームズもジェームズで、引っ込みが付かなくなってしまっている。


 そんなふたりを放置しておけばどんな展開が訪れるか――直哉には分かりきっていた。


「このまま喧嘩が進めば、俺にとってはちょっと嬉しい展開になるんだよな……」

「へえ。デートしてお爺ちゃんに仲を認めてもらうとか?」

「うんまあ、そんなところなんだけど」


 小雪とデートして、直哉の人となりを知ってもらう。ベタな展開である。

 これから起こるのも似たような展開なのだが、直哉は深刻な顔でぽつりとこぼす。


「デートと違うのは……俺の身が持つか、持たないかってところなんだよな」

「そんなに過激なの?」


 朔夜が首をかしげた、そのときだ。


「そっちがそこまで言うのなら、試してみようじゃない!」


 小雪が声を張り上げてテーブルを叩く。

 直哉のことを指し示し、祖父に向かって言い放つのは――ある意味処刑宣告にも似た宣言だ。


「直哉くんはたとえ二十四時間二人っきりになったとしても、私に手を出してくることはないんだから! いかに誠実な人なのか証明してやるわ!」

「いいだろう! それができたら、この少年をおまえの許嫁に認めてやる!」


 ジェームズも勢い任せにそれを了承。

 直哉はこっそりと、薄笑いを浮かべつつため息をこぼすのだ。


「つーわけで……禁欲お試し同棲展開なんだよ」

「わお。かつてないほどにお義兄様が試されるイベントが来たね」


 朔夜は朔夜で、波乱の展開に目をキラキラと光らせた。



 ◇



 決行の日は、それから三日後の土曜日となった。


 午前十時。家のチャイムが鳴らされて、玄関を開ける。

 すると、大きなカバンを提げた小雪が立っていた。七分袖のカーディガンを羽織っていて、スカート丈も秋めいていて膝より少し下だ。


 小雪は真っ赤な顔で頭を下げる。


「お、お邪魔します……」

「い、いらっしゃい……」


 直哉も直哉で、ぎこちなく彼女を迎えた。

 笹原家に小雪が来るのは、もはや今となっては代わり映えのない日常と化している。


 しかし、今日は勝手が違っていた。

 ふたりともろくな会話もなく、ひとまずいつものリビングに移動する。


 小雪を座らせて、お茶を出す。

 その正面に腰を下ろし、直哉は硬い笑顔を作って頭をかいた。


「まあ、その……なんだ。明日の朝までよろしくな?」

「っ……何で誰も止めないのよ!?」


 そこで耐えかねたのか、テーブルをだんっと叩く小雪だった。

 目の端に浮かぶのは羞恥の涙で、もういっぱいいっぱいなのが見て取れる。小雪は全力の鬱憤を込めて声を荒らげる。


「年頃の娘が彼氏の家に泊まるって言ったら、普通は止めるはずでしょ!? なのに家族の誰も、全然心配しないし! それだけじゃなくって……!」


 そうしてカバンをガサガサと漁る。

 出てきたのは、丁寧に包装された菓子折だ。この辺りでは有名な洋菓子店で、お土産にするとたいへん喜ばれる。それを直哉に投げ渡し、小雪はテーブルに突っ伏してわっと叫ぶ。


「ママは手土産を用意してくれるし、パパは『直哉くんに迷惑をかけないようにな』って言ってくるし……朔夜は朔夜で『あとで感想を聞かせてね』って煽ってくるし! ほんとに、何でなのよ!?」

「何でって、そもそも小雪が撒いたタネだろ」

「正論禁止! 今は私を慰めるターンなの!」


 顔を上げ、キッと睨み付けてくる小雪だった。

 自業自得なのは理解しているらしい。

続きはまた秋から冬にかけて更新予定……!

また書きためて一気に更新しますので、のんびりお待ちください。


現在全国アニメイト様で、書籍版毒舌クーデレをお買い求めいただくとブロマイドがもらえるキャンペーンが行われております。ブックカバーキャンペーンもまだ一部店舗には残っているとのこと!

コミカライズもよろしくお願いいたします。直哉が自覚し始めるあたりです。キュン死してくれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] また小雪様が自滅しておられるぞ! また!!自滅したぞ!!
[良い点] さあ イチャイチャタイムの始まりだw して 忍耐の始まりだw [気になる点] 耐えきれる?w [一言] 膝枕ぐらいはいいよねw
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