宣戦布告……のはずが?
ぽかんとする直哉のことを、会長はじーっと見下ろす。頭巾の奥から注がれるのは、値踏みするような冷めた眼差しだ。
「……あなたが白金小雪の彼氏?」
「えーっと……彼氏に立候補中というか、なんていうか……」
「ふうん」
会長は気のない相槌を打ち、手近なパイプ椅子に腰掛けて足を組む。たったそれだけで王者のオーラが溢れ出した。
ほかの面々もそれに当てられるようにして、部屋にピリピリした空気が満ちる。
一気に邪教集団めいてきた。
直哉はハラハラするしかない。
(うわ……この子は読みにくいな。声に一切感情が乗ってねえ……)
たいていの人は、発声だけでも多くの情報を直哉に与えてくれる。
しかしこの会長は違う。まるで機械音声のように平板なのだ。こういう人もごくごく稀にいるが、長く付き合ううちに読めるようになってくる。
だが一言、二言だけの情報では目的も何も察することはできないのだ。
(くそっ、白金さんよりこっちの方がよっぽどクールキャラじゃねえか……!)
直哉は歯噛みする。相手の目的は一切不明で、こちらは縛り上げられている。絶体絶命だ。これでは下手なことは言えない。
そんななか、会長は静かに語りかける。
「あなたに聞きたいことがある」
「聞きたいこと……?」
会長はじっと直哉の目を見つめ、こう問いかけた。
「あなたは本当に白金小雪のことが好きなの?」
「は……?」
「私たち白金会は、白金小雪を影から見守る者たち」
一同をぐるりと見回し、会長は朗々と――威圧を込めた声で紡ぎあげる。
「生半可な覚悟で彼女に近付くなら、それ相応の報いを受けることになる。でも、もしも諦めるのなら――」
「好きだ」
その言葉を遮って、直哉はまっすぐに告げた。
おかげで周囲がざわりとどよめくが、気にしてなどいられない。
敵を刺激するのは得策ではないと理性ではわかっていても……どうしても、この場で言わねばならないことがあった。
「俺はあの子の、全部が好きだ。素直になれないところも、それに悩んじゃうところも、ちょっと……いや、だいぶズレちゃってるところとかも」
口にすると、思いはますます膨れ上がる。
直哉は小雪が好きだ。
それはもう、なにがあっても変えられない。一同をねめつけて、きっぱりと言ってのける。
「だから俺は、あんたらがどれだけ邪魔しようと白金さんを諦めない。煮るも焼くも好きにしてくれ」
そうして直哉は堂々と、縛られたままふんぞり返った。
しかしハッと気付いてごにょごにょと付け足す。
「あっ、でもそっちの野球部先輩はちょっと勘弁してもらえますかね……どっちかっていうと、漫研の吉野あたりの一発ならなんとか耐えられなくもないかなって……あれ?」
そこで違和感に気付いた。
会長ならびに白金会の一同が、じっと押し黙ったまま突っ立っているのだ。直哉の発言に怒りを覚えているのかと思いきや……どうやらそうでもないらしい。
やがて彼らは異口同音に、示し合わせたように口を開く。
曰く――。
『なにそれ尊い……!』
「………………は?」