白金会
「なんだよこのハードな展開は!?」
「黙っていろ」
直哉は全力で叫ぶが、主犯の男子生徒はにべもない返事を返すばかり。
縄で縛り上げられ、そのまま荷物のように担がれて今である。
直哉が連行されたのは視聴覚室だ。この学校にはいくつもそんな部屋があり、クラブや同好会が申請すれば借りることもできる。
遮光カーテンを引いた薄暗い部屋の中には、頭巾姿の生徒たちが居並んでいる。その数およそ二十。教室中央にあぐらをかいた直哉を取り囲むようにして、じーっと押し黙っている。
かなり異様な光景だ。
そんな中、拉致の音頭をとった男子生徒は平板な声で告げる。
「貴殿には少し聞きたいことがある。しばし静かに待つといい」
「なんだよ、リンチでもしようってのか」
「それは貴殿の態度次第だな」
「……だったら俺にも考えってもんがある」
直哉はため息混じりに、自分を取り囲む一団をねめつける。
「そこの右から三番目。おまえ、俺と同じクラスの吉野だろ」
「は!?」
覆面のひとり――吉野がびくりと体を震わせる。
「ちょっ、ちょっと待て! なんでわかったんだ!? 俺、さっきここに来てから一言も喋ってないよな!?」
「背格好と、歩き方の癖でわかるっつーの。あと、その隣は五組の原田。さらに三つ隣は二組の斎藤」
「げえっ!?」
原田と斎藤もまた似たような反応を返してみせた。
そうして直哉は最後に、たじろぐリーダー格をじろりと睨む。
「そっちのリーダーっぽいあんたは三年かなあ。あいにく名前は知らないんだけど、体格からしてたぶん部活はスポーツ系……野球部あたりだろ」
「ぐっ……どうしてそれを……!?」
「よし、図星だな。その声と体格、覚えたぞ。あとで簡単に調べられる」
直哉はニヤリと挑発的に笑ってみせる。
この程度の推理は朝飯前だ。顔を隠したところで、その人間のパーソナリティすべてを隠すことはできない。
「だから、顔を隠したって無駄だ。ここはお互い冷静に話し合おうぜ、な?」
一同をぐるりと見回して、直哉はからっと笑いかける。
おかげで全員が覆面のまま顔を見合わせるのだ。
「噂には聞いてたけどマジで怖いな、こいつ……」
「あれだ、現代のシャーロック・ホームズですね」
「ほんとドラマの主人公みたい! 今度ホームズがピックアップされたとき、代わりに引いてもらおうかなあ」
「あっ、ワンチャンあるかもしれないわね! 石貯めとかないと……!」
覆面たちはこそこそと話し合う。
そしてどうやら、中には女子もいるらしい。
(マジでこいつら、なんで俺を拉致したんだ……?)
直哉は首をひねるしかない。
冷静な話し合いを、と申し出たものの、正直言って彼らが何を目的としているのかまるで読みきれていなかった。
彼らから感じ取れるのは、やたらと強い好奇心。それだけだ。
見た目と行動は過激な邪教徒そのものだが、すぐに危害を加えるつもりもなさそうだし。
じーっと一同を眺めていると、リーダー格が肩をすくめてみせる。
「……だが、ひとつだけ読みが外れたな。あいにく俺はリーダーじゃなくて副会長だ」
「はあ……それじゃ会長はどこにいるんだよ」
「ここに」
「へ、うわっ!?」
突然、背後で気配が生まれた。
見れば直哉のすぐ後ろに、新しい黒頭巾が立っている。小柄な女子生徒だ。おそらく一年生だろう。
それが現れた途端、黒頭巾たちが一斉に頭を下げる。
「お疲れ様です! 会長!」
「うん。おつかれ」
小柄な女子生徒――会長はそれに淡々とうなずいてみせた。
どうやら本当にこのリーダーらしい。