重めの嫉妬
ともあれ衝撃の事実を知り、小雪はあからさまにガーンと蒼白になる。
「そんな……すーちゃんったら喜んで聞いてくれてると思っていたのに……本当は嫌だったのね……ううう……気付けなかったなんて飼い主失格だわ……」
「ちなみにどれくらいの時間聞かせてたんだよ」
「えっ、そこまで長くないわよ。お風呂を出てから寝るまでの二時間くらい?」
小雪は非難されて心外だとばかりに眉を寄せる。
たしかにその程度なら些細なことだろう。しかし、直哉は一応尋ねておく。
「……それを毎日?」
「…………毎日してたわね。一日家にいるときはずっとかも」
神妙な顔でうなずく小雪だった。
そうなると、累積のろけ時間はかなりのものになるだろう。
改めてすなぎもの心労が察せられた。膝の上でボールのように丸くなったすなぎもを、直哉は優しく撫でる。
「ごめんな、すなぎも……俺たちのイチャイチャに巻き込んじゃって」
「なーん、なう、なん」
「うんうん、そうかそうか。俺のことは許してくれるのか。すなぎもは猫が出来てるなあ」
「心を通わせないでくれる!? すーちゃんはうちの子なのよ!?」
和やかに語り合うふたりを前にして、小雪はギリギリと唇を噛んで悔しがった。
しかしそうしたところで飼い猫の気を引けないと悟ったのか、しょぼくれた顔をクッションに埋めてごろんと横になってしまう。
「だってだって仕方ないじゃない……こんなの朔夜とか夏目さんに話すのは恥ずかしすぎるし、かといって一人で抱えてるのも厳しいし……すーちゃんなら誰にも他言しないからちょうどいいと思ったんだもん……」
「だったら当事者の俺に直接言ってくれた方が良かったんじゃないかなあ」
「はあ!? 嫌に決まってるでしょ! 感触とか匂いとか味とか……そんな細かい感想、直哉くんに言えるわけないじゃない!」
「食レポかな……?」
どうやらあのキスのことも、つぶさに語って聞かせたらしい。
直哉が苦笑を浮かべるのにもお構いなしで、小雪は膝の上に鎮座するすなぎもに目線を合わせて頭を下げる。
「ごめんなさいね、すーちゃん。これからは直哉くんの話を控えめにするから許してくれる……?」
「なーん……」
すなぎもは飼い主のことを半目でじーっと見つめる。
そうしてゆっくりと立ち上がったので、小雪の顔がぱあっと輝くのだが――。
「なーうなうなん」
「わっ、こらこら。ざりざりして痛いっての」
「むぐううううう……!」
すなぎもが直哉の頬をぺろぺろと嘗め始めた。
そのせいで小雪は鬼の形相になってしまうのだった。せめてもの憂さ晴らしなのか、ぺしぺしと直哉の肩を叩いてくる始末。
「ふんだ! あなた、私の彼氏でラッキーだったわね……! そうじゃなきゃ今ごろこの私にボコボコのギッタギタにされて、ボロボロになってたはずなんだから!」
「彼氏に言う台詞じゃないと思うんだよなあ」
叩く力は弱いが、殺意はとてもまっすぐだった。
直哉はため息をこぼし、なおも顔を嘗め続けるすなぎものことを抱っこする。
「まあでも、こうなったのは俺にも責任があることだし……俺が小雪とすなぎもとの仲を取り持つよ。ふたりの関係を修復しよう」
「ほ、ほんとに協力してくれるの……? そう言って本当は、恋に破れた私のことをあざ笑う気なんじゃ……」
「そんなことしません。なぜなら彼氏だからです」
「そうなの……? 彼氏って便利なものなのね」
小雪はしみじみとうなずいてから、ぐっと拳を握って決意する。
「そういうことなら分かったわ! 私、すーちゃんともう一度仲良くなってみせる!」
「うんうん、その意気でがんばれよー」
「なーん?」
こうして飼い猫との関係修繕プログラムが、急遽実施されることとなった。
もちろん宿題は二の次だ。ちょっと残り日数的にヤバいのでは……と思いはしたが、このズタボロメンタルのままでは勉強どころではないだろう。
本日書籍版二巻発売!
書店特典などもございますので、活動報告をご確認ください。
次回はおそらく次週木曜日。おかげさまでイケナイ教コミカライズ一巻も重版かかりました!応援ありがとうございます!






