握手会の行列にて
その日のショッピングモールは、いつも以上の賑わいを見せていた。
特に盛り上がっていたのは一階のイベントスペースだ。
親子連れの姿が多く、小さな子供たちが目を輝かせて壇上を見つめている。
そこには猫耳と肉球手袋を装備したコンパニオンのお姉さんがマイクを握っていて――。
「本日はようこそいらっしゃいました! ただいまより、人気キャラクターにゃんじろーとの握手会を開催いたしまーす!」
「わーーっ!」
ステージの裏から現れたきぐるみを見て、子供たちが一斉に歓声を上げる。
三等身くらいの猫だ。眠たげに目を細めており、ぼんやりした雰囲気をまとっている。
それを遠くから見て、小雪の顔がぱっと輝いた。
「すごい……! ほんとににゃんじろーが出てきたわ!」
「よかったなあ」
キラキラした目で壇上を見つめる小雪に、夕菜が小首をかしげてみせる。
「小雪ちゃんも、にゃんじろーが好きなの?」
「もちろんよ。だってすっごく可愛いじゃない」
「わかる! かわいい! じゃあねえ、このまえやってた映画は見た?」
「当然見たわ。ブルーレイディスクも予約済みよ!」
「すごーい! ねえねえ、今度いっしょに見よ? うちに、他のぶるーれいもあるから!」
「ほんとに!? それじゃあ約束よ!」
「うん!」
小雪と夕菜は無邪気にはしゃぐ。
すっかり意気投合したふたりのことを、直哉は温かい目で見守った。
(『小雪おねーちゃん』じゃなくて、『小雪ちゃん』なんだな……)
どうやらすっかり同等の相手だとみなされてしまったらしい。
最初はどうなることかと思ったが、おままごとを経て距離は縮まったようだった。
ほっと胸をなで下ろす直哉だが――夕菜がぎゅうっと手を握ってにっこり笑顔を向けてくる。
「あくしゅかいだって! いっしょにならぼ、直哉おにーちゃん!」
「あっ……! ず、ずるい! 私だって直哉くんと一緒に並ぶもん!」
「うん、三人一緒に並ぼうなー」
結局ふたりが対抗心をメラメラ燃やすので、直哉はため息をこぼすことになった。
本命は小雪だ。それだけは天地神明に誓う。
しかし、それを夕菜に告げるのは……何事も直球勝負の直哉といえど、非常に躊躇われるものだった。
(こんな小さい子を泣かせるのはさすがに厳しいものがあるし、かと言ってこのままだと小雪にも悪いし……どうしたものかなあ)
珍しくモテ主人公のような苦悩をしつつも、握手会の列へ並ぶ。
どうやら写真撮影もOKらしく、ひと組ひと組の所要時間がそこそこ長い。
握手コーナーの隣に併設された物販コーナーではステッカーやぬいぐるみといったグッズが所狭しと並んでいて、そこも人が詰めかけて大盛況となっていた。
おかげで列は遅々として進まなかったが、なんだかんだで意気投合した小雪と夕菜にはうってつけのおしゃべりタイムとなったらしい。
小雪はきぐるみを遠目に見つつ、夕菜に話しかける。
「ねえねえ、夕菜ちゃんも何かグッズ買ったりする?」
「うん! ぬいぐるみとか、ぶんぼーぐ! ぶんぼーぐはね、学校でつかう用とほぞん用を買うつもり!」
「いいわねえ。やっぱり学校でもにゃんじろーは人気なの?」
「うん、みんな大好きだよ。お昼休みはみんなでにゃんじろーの話をするんだ!」
「いいわねえ。お友達とにゃんじろーの映画を見に行ったの?」
「……ううん。結衣おねーちゃんについてきてもらったよ」
「そうなの?」
夕菜は少し口ごもってから、控えめに笑う。
その不思議な反応に、小雪は首をかしげるものの――。
(あー。なるほど、学校で友達と……)
それだけで直哉はだいたいの事情が読めてしまった。
とはいえ夕菜が隠したそうにしていたので、大人しく口をつぐんでおく。
小学生もいろいろ大変なんだなあ……なんてしみじみしていたところ――。
「それより……小雪ちゃんは、ほんとに直哉おにーちゃんのことが好きなの?」
「ふぇっ……!?」
「ぶふっ!?」
夕菜が直球を投げ込んできたので、ふたり同時におかしな悲鳴を上げてしまう。
続きは明日更新します。
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