表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/212

一緒に『お風呂』

「もー、だめよ。小雪ちゃん」


 そこに夕菜が割って入ってきた。

 ふたりの手をやんわりとほどき、小雪の頭を撫でてにこにこと笑う。


「パパはつかれてるんだから、ママといっしょにあそびましょうねー」

「えええっ!? で、でも、私もパパと……」

「わがまま言って困らせちゃだめよー、小雪ちゃん」

「うううっ、ママのいじわる……!」


 有無を言わせぬ夕菜の威圧に、小雪はたじたじだ。

 子供役のロールプレイと言うよりも、完全に素である。

 そこに直哉は慌てて助け船を出した。


「えっと、夕菜。俺は平気だから。たまには小雪と遊んでやりたいなーって」

「パパ……!」

「もう! あなたったら、いっつもそうやって小雪ちゃんを甘やかすんだから!」

「それ絶対、夕菜のところのお父さんが言われてる台詞だろ……」


 板に付いた台詞に、夏目家の家庭事情が浮き彫りになってしまった。

 夕菜は頬を片手に当ててため息をこぼし、やれやれとかぶりを振る。


「ほんとに小雪ちゃんには甘いんだから。でも、それならいいわ。ふたりで一緒におふろに入っちゃいなさい」

「ああ、了解…………風呂!?」

「えええええ!?」


 直哉も小雪もぎょっとして凍り付く。

 しかし夕菜はどこ吹く風で、和室の隅を示してみせた。


「ほら、はやく入っちゃって。そこがおふろね」

「あ、風呂ってそういうことか……」

「よ、よかったあ……」


 これがごっこ遊びだということを、一瞬完璧に忘れてしまった。

 指示された『風呂場』に向かいつつも、小雪はげんなりと肩を落としてみせる。


「もう……いつまで続くのよ、このおままごとは」

「夕菜が満足するまでかな。もうちょっとで終わると思うからさ」

「仕方ないわねえ。まあ、小さな子に付き合ってあげるのも大人の務めよね」

「ああうん。そうだな。うん」


 髪をかき上げて鼻を鳴らす小雪に、直哉は生返事をするしかない。

 大人と言う割には子供役がとても板に付いている……なんて素直な感想をこぼしそうになったが、怒られるのが分かっていたので胸の内にしまっておく。


 ともかく『風呂』に入ることにした。

 和室の隅に体育座りして、直哉は大仰な吐息をこぼす。


「はー。いいお湯だなー」

「えーっと、それじゃあ私は体を洗って……」


 その隣に小雪もちょこんと腰を下ろして、二の腕をこする。

 お風呂のシーンとしてはそれらしいものだろう。だが、しかし――。


「こら! 小雪ちゃん!」

「ふぇっ!?」


 そこで怒声が飛ばされた。

 びくりと身をすくめた小雪のことを、夕菜は目をつり上げて叱る。


「ちゃんとしっかり洗いなさい! めっ!」

「えっ、えええ……しっかりって言われても……」

「ママの言うこと聞かないと、おやつ抜きにするよ!」

「うう、や、やるわよぉ……」


 小雪は戸惑いつつも、真面目にちゃんと洗うふりをする。

 まずは髪留めを取って、シャワーを取って髪を濡らす……ふり。手のひらでシャンプーを泡立てて、髪を洗う……ふり。トリートメントのふりも入念だ。


 それを直哉は隣でぼんやり見つめてしまう。


(最初は頭から洗うのかー……)


 そのまま小雪は体も洗い始める。腕や腋、首筋や耳の裏……。

 

 ちゃんと服を着ているし、そもそも場所は和室だ。

 それなのに本当に風呂を覗いているような、妙なやましさを覚えてしまう。ドギマギしている内に、小雪はひととおり体を洗い終えた。


 それを見届けて夕菜が満足げにうなずく。


「よろしい。それじゃ、ちゃーんと百数えてからあがるのよー」

「わ、わかったわよ……ほら、直哉く……パパ、ちょっとどいて」

「うぇっ!?」


 当然のように小雪がやってきて、直哉の足の間に収まった。

 おままごと的には親子仲良く湯船に入る図式だ。

 だがしかし実際には、好きな子を後ろから抱きすくめるような形になって――。


(何だ、このシチュエーションは……!)


 直哉はごくりと喉を鳴らし、両手の置き場に困った末に膝へと乗せる。

 後ろから見る小雪の耳は完全に真っ赤に染まっていた。


 最近プールやお見舞いなどのイベントで急接近することが多いものの、やっぱりまだ慣れることはない。それは直哉も同じで――。


「えっと、いーち……にー……」

「さーん……しー……」


 ふたりはぎこちなく数を読み上げていった。

 三十半ばで夕菜が飽きたので早めに解放されたが、それが救いでもあり、残念でもあった。

 ともかく『風呂』から上がって、小雪はがっくりとうなだれる。


「うううっ、恥ずかしかったあ……もうおままごとなんて、絶対やらないんだから!」

「ま、まあまあ。小雪はよくやったよ」


 直哉はぽんっと肩を叩いて慰めるしかない。

 そこに夕菜がとてとてと近付いてきて、満面の笑みで小雪の頭を撫でてみせた。


「うん、ばっちり! いい子ねー、小雪ちゃん」

「えっ、いい子?」

「もちろん。ママとパパの、じまんの子よー」

「そ、そう?」


 小雪は目を白黒させていたものの、すぐに照れくさそうに頬を赤らめる。


「えへへ。聞いて、パパ。ママに褒められちゃったわ!」

「小雪、戻ってこい小雪」


 道を踏み外しかける小雪のことを、直哉は軽く揺さぶって諭した。

 子供役がはまりすぎていて、これ以上はまずい。


「ほら、おままごとはもういいだろ。次は何して遊ぶ?」

「うーん。それじゃ、夕菜お外に行きたいかも」

「外って公園か?」

「ええ……暑いんだからおうちにいましょうよ」


 小雪は窓から照りつける日差しを見てげんなりと言う。

 しかし夕菜は「公園じゃないよ」と首を横に振った。


「えーっとね、ここなんだけど……」

「なんだ、ショッピングモール?」


 夕菜がごそごそと取り出すのは、近所のショッピングモールのちらしである。

 先日、小雪と初デート(妹同伴)をした場所だ。

 それを裏返して、夕菜は顔を輝かせて言う。


「今日はここに、にゃんじろーが来るの! 結衣おねーちゃんは、直哉おにーちゃんに連れてってもらいなさいって言ってたよ!」

「行きましょ、直哉くん!」

「子守かける二かあ……」


 キラキラ顔でせがまれて、直哉は苦笑するしかなかった。先日一緒に見たお子様向けアニメ映画の主人公が、小雪はよほどお気に召したらしい。

続きは明日更新します。

あと五十ブクマほどで一万ブクマ突破!ありがとうございます!

書籍版も絶賛発売中!電子書籍もありますので、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 小雪ちゃん...なんか...行っちゃいけないところに行きかけた気が...
[良い点] なんだこの感覚はw着衣での入浴シーンは誰得だw ままごとってその家庭の内情がよくわかりますねw [気になる点] 意外に子供趣味な小雪 そいえばえいがで大泣きしてたな シェパードとブルのお…
[良い点]  子供役がとても板に付いている小雪ちゃんわろた。 このまま夕菜ちゃん家の子になってしまいそうな勢い。 直哉くんは小雪ちゃんの洗う順番を観察するのをおやめなさい。なんか、その、アレだから。笑…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ