嵐の前の静かな登校日
夏休みまっただ中でも、学校に行く日というものは当然ある。
八月頭の月曜日がちょうど大月学園の登校日だった。
小雪も久しぶりの学校ということもあって、すこし緊張しながら教室のドアを開く。
一学期の間で話せる相手ができたとはいえ、ぼっち歴がすこぶる長いためちょっとしたブランクでもドキドキだった。
しかし一歩足を踏み入れた途端、満面の笑みが小雪を出迎えてくれた。
「おはよう白金さん!」
「お、おはよう鈴原さん……?」
鈴原恵美佳である。三つ編み&メガネという委員長スタイルは今日も一切変わることがない。
しかし今日の彼女はひと味違っていた。
いつも以上に笑顔がキラキラしているのだ。
まるで誕生日とクリスマスが一度に来て、宝くじに当たったかのような輝きっぷりである。
おかげで小雪はきょとんとしてしまう。
「ど、どうしたの、鈴原さん。何かいいことでもあった?」
「だってだって久しぶりに白金さんに会えるんだもん! いろいろ話も聞きたいし、テンションはうなぎ登りで当然でしょ!」
「話、って……?」
「それは当然、笹原くんとのラブラブ新婚旅行についてだよ!」
「し、新婚旅行ぉ!?」
おもわぬ単語が飛び出して、小雪は裏返った悲鳴を上げてしまう。
そんな折、後ろから呆れたような声がかかった。
「こらこら、恵美佳。白金さん困ってるでしょー」
「な、夏目さん! 助けて!?」
直哉の幼なじみでもある夏目結衣だった。
彼女の背中にささっと隠れて小雪は助けを求める。
一方、恵美佳は口を尖らせてみせるのだ。
「えー。だって彼氏と泊まりの旅行でしょ、新婚旅行って言う以外にある?」
「直哉くんだけじゃないわよ! うちの家族と直哉君の家族、みんな一緒に行ったんだもん!」
「それはそれで難易度めちゃくちゃ高いって分かってる?」
「…………そうかもしれないわね」
新婚旅行と合同家族旅行。
たぶんどちらも相当関係が進まないと発生しないイベントなのには違いないだろう。
付き合ってまだ二ヶ月から三ヶ月といったところである。よくよく考えると相当進んでしまっているような気がした。
神妙な顔で考え込む小雪のことをのぞき込み、恵美佳はニコニコと尋ねる。
「まあこの際家族旅行でもなんでもいいや。とりあえずどうだった?」
「どうって……色々遊んだけど?」
「そういうことを聞きたいんじゃないんだけどなあ。でもそういう天然なところも可愛いよね! 好き! 家につれて帰りたい!」
「え、えんりょします……」
「恵美佳は白金さんが絡むと本当にダメダメだよね」
ぐいぐい来る恵美佳にたじたじになる小雪。
それに呆れつつも、結衣はにやりと笑ってみせた。
「でも、それは私も聞きたかったんだよね」
「ええ……ふたりともいったい何が知りたいのよ」
「そんなの一つしかありえないじゃーん」
結衣は手をぱたぱたさせて、あっけらかんとこう言った。
「ズバリ、旅行で直哉との仲は進展した?」
「………………」
ド直球の質問に、小雪はぴしっと凍り付く。
進展したか、していないか。
その二択で聞かれると……小雪はさっと目をそらし、顔を真っ赤に染めてぷるぷる震えながらこう言う他なかった。
「も、黙秘します……」
「そっか、進展したんだねー。おめでとう」
「おめでとう白金さん! お赤飯でも炊く!? あっ、ケーキの方がいいかも!? おっきいホールでお祝いする!?」
「黙秘したのに!!」
涙目で叫ぶ小雪であった。
続きは明日更新します。
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そして引越し作業でバタバタしていて感想返信遅れております……!申し訳ない!
全部読ませていただいておりますので、どうか気長にお待ちください!






