幼馴染みの強み
こうして通学メンバーが四人に増えた。
「えー、白金さんって帰宅部なんだ。運動できるのに勿体無いなあ」
「あ、あんまり部活って得意じゃなくて……」
「そうなの? うちのバレー部に入ってほしかったのになあ」
女子ふたりは歩きながら、わいわいと盛り上がる。
とはいえ結衣がはしゃぐばかりで、小雪の方は戸惑い気味で表情もすこし固い。
それでも話をすること自体が嫌なわけではなさそうだ。ぎこちなくも受け答えして、かすかな笑みをうかべてみせる。
ゆえに直哉は見守ることを選択して、ふたりから少し離れた後ろからそっとついていく。
その隣では、巽が訝しげに唸ってみせる。
視線の先にいるのはもちろん小雪だ。
「昨日も聞いたけどさあ……マジでどうやったら白金さんと知り合いになって、朝一緒に登校する仲になれるんだよ」
「まあ、いろいろあったんだよ」
「いろいろって……まさかおまえ、いつもの読心スキルで白金さんの弱みを握って……!?」
「ねーよ。俺をなんだと思ってるんだ」
「え、そういう妖怪?」
「せめて魔法使いとか綺麗な単語を選びやがれ」
結衣と同じく、巽との付き合いもずいぶん長い。
ゆえに遠慮がないし、直哉の性分も熟知している。
そんな話をしていると、小雪がこっそりとこちらを振り返り、結衣にそっと耳打ちした。
「えっと……彼、河野くんだったかしら。夏目さんが彼と付き合ってるって、ほんとなの?」
「ああうん。そうだよー」
結衣はあっさりと首肯する。そうして、いたずらっぽくウィンクしてみせた。
「だから安心してよね、直哉にはこれっぽっちも興味ないから」
「……いったい何の話かしら?」
「えっ? 白金さん、直哉と付き合いだしたとかじゃないの?」
「ふふ、面白い冗談ね」
小雪は髪をかきあげて、不敵に笑う。
「私があんな変人と付き合うわけないじゃない。ちょっと興味深い相手だから、からかってあげてるだけよ」
「へー。そうなんだ」
結衣は雑な相槌を打ってみせて、にやりと笑う。
「ところで私、直哉と幼馴染みって言ったじゃん」
「え、ええ。それがどうかしたの?」
「だから……直哉の昔の写真とかいっぱい持ってるんだよね」
「っ……!」
「幼稚園のお遊戯会でうさぎの役やってる直哉とか、小学校の運動会リレーに出てる直哉とか……いろいろあるよ。見たい?」
「ふっ……そんなの、興味あるわけないでしょ」
小雪はクールに言ってのけてから……そっと結衣の耳元に口を寄せ、蚊の鳴くような小声で告げる。
「…………見た……い、です」
「オッケー! 明日いろいろ持ってくるね!」
小さくうなずく小雪に、結衣は満面の笑みを返してみせた。
(おお、もう扱い方がわかったか)
直哉はこっそりと感心する。
あまり話したことがないと言っていたが、これなら心配なさそうだ。
しみじみする直哉の隣で、巽は首をひねるばかりだ。
「え、なんか盛り上がってるけど、なんの話をしてるんだ?」
「さあな」
「嘘つけ。おまえの地獄耳なら聞こえる距離だろ」
じろりと睨む巽だった。
そんなやりとりを振り返り、結衣は肩をすくめてみせる。
「でも、白金さん大変でしょ。あいつ変なやつだからさ、いろいろ言われたりしたでしょ」
「まあ……いろいろとね」
「あはは、でしょーね」
結衣はけらけらと笑う。しかしそうかと思えばふっと目を細めて、空を見上げるのだ。
「私たちも直哉にはほとほと手を焼いててさ。でも私とあいつ……巽が付き合うきっかけをくれた、キューピッド様でもあるんだよねえ」