海辺の遊歩道
降りた駅は無人駅で、あたりにはコンビニもなかった。
それでも辛うじて自動販売機はあったので、冷たいお茶をふたり分購入。
そこからのんびりと海辺の遊歩道を歩いた。
夏の日差しがそこそこ厳しいものの、海からの風が気持ちいい。
「いやあ、それにしても楽しみだなあ。小雪の弁当」
スーツケースを二人分引きながら、直哉はニコニコと上機嫌だった。
何しろ人生初彼女の、初のお手製弁当だ。
男ならまず間違いなくテンションの上がるシチュエーションである。
「朔夜ちゃんと一緒に作ったクッキーとかは食べさせてもらったことあるけどさ、小雪ひとりの手料理は初めてだろ」
「うっ、ハードル上げないでよ……」
小雪は眉をへにゃっと下げてみせる。
麦わら帽子をしっかり被って、件のリュックサックを背負っていた。
海へ視線を向けながら、どこか気まずそうに言う。
「言っとくけど、あんまり期待されても困るからね。自分で言うのも何だけど、あんまり見栄えはよくないし……」
「いや、そんなの関係ないって。問題は味だろ」
「味も……どうかなあ……一応味見はしたけど」
小雪はなおも難しい顔をしたままだ。
作ったはいいものの、どうやら自信がないらしい。直哉が言い出さなければ、弁当を持ってきたなんて言い出さなかったことだろう。
だから直哉はにこやかに言う。
「俺は小雪の舌を信じるよ。それにさ、小雪って美少女じゃん?」
「なっ……急に何!?」
「こんな美少女が作ってくれたってだけで、何倍も美味く感じるに決まってるだろ。付加価値ってやつだよ」
「そ、そういうものなの……?」
「もちろん。だから自信持てって。小雪が作ってくれたものなら、俺には消し炭だってご馳走になるからさ」
「そこまで下手じゃありません!」
直哉の軽口に、小雪は目をつり上げてツッコミを入れる。
そのままつーんと澄ました顔をしてみせるのだ。
「ふん、そこまで言うのなら心して食べなさいよね。それで誠心誠意褒め讃えないと許さないんだから」
「うん。とりあえず弁当の写真、めちゃくちゃ撮るからよろしく」
「朝の仕返しのつもりね……!?」
そんな話をする内に、とうとう公園に到着した。
他にも家族連れが何組かいるものの、基本は静かな場所だ。波の音が響き、海が一望できる。
どうやらこのあたりの海は遊泳禁止らしく、遊びに来る人は少ないらしい。
「あ、あそこなんかいいんじゃない? 屋根になってるし」
「いいな、行こうぜ」
公園の片隅に、東屋のような場所があった。
屋根の下には大きめの机と椅子が置かれていて、わりと綺麗だ。
小雪は手早く準備を始める。テーブルの上にピクニックシート、椅子にはハンカチを敷く。
保冷剤もたっぷり中に入っていたし、取り皿と箸もふたり分持ってきていて、けっこう準備周到だった。
(これ、昨日の夜くらいから準備してたんだろなあ……)
そういえば、昨夜日程の確認がてら連絡したところ、ずいぶん返信がそっけなかった。
旅行の準備に追われているのだと思っていたが……どうやら違っていたらしい。
さすがに携帯のメッセージだけでここまで見抜くのは直哉には無理だ。法介ならできるかもしれないが。
そんなこんなで、あっという間にセッティングは完了した。
机に鎮座するのは二段分の重箱だ。
小雪は直哉の対面に座り、どこか緊張したような面持ちで口を開く。
「最近お料理の練習したし、せっかく遠出するんだし……で、思い切って作ってみたの」
「うん。本当にありがとう。どんな弁当だろ、楽しみだなあ」
「そうは言っても、直哉くんなら入ってる物とかだいたい分かるんじゃないの。私の指の怪我とかで」
「まあ分かるけど。実際見る楽しみってあるじゃんか」
「ふうん……ま、いいけど」
小雪はちょっと覚悟を決めるように、ごくりと喉を鳴らし――。
「それじゃあ……どうぞ」
ゆっくりと重箱の蓋を開いていった。
続きは明日更新します。
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