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黒い髪に青い瞳の人形

 慌てて時計の針を反対方向に回そうと思ったものの、未来方向には進めないという注意書きを思い出す。必死で別の魔法を探すと成長促進というものがあった。使おうとしたものの、体はうんともすんとも反応しない。こんなことは初めてだった。


「……ちょっと待て」


 あまりの手応えのなさ。おかしいと思って簡単な魔法を使おうとする。指先に念を集中して、呟く。


「ルークス」


 最初に習う初歩的な魔法だ。だが指先はうっすらと光るだけ。魔力が弱まっているのは明らかだった。


『簡単に使ってはいけませんよ? 魔力を使い果たしたら回復には最低でもひと月はかかりますからね。殿下の場合は、もともとの魔力量が多いからもっとかかるかもしれませんし』


 魔術の師の言葉が頭に蘇る。どうやらダニエルは膨大な魔力を己の姿を小さくするために使い果たしてしまったらしかった。

 間抜けさを呪うものの時すでに遅し。

 それでも果たさねばならないことがある。時を戻すのが無理ならば、あとはスカーレットのラスボス化をなんとしても防がねば。


 ダニエルは誰かに姿を見られ、騒ぎになる前にと行方をくらますことにしたのだった。



 *



 そしてひと月があっという間に経った。漫画で情報を得ていたため、居場所はだいたいわかっていたが、たどり着くまでに時間がかかったのだ。


 ここ――竜の谷は王都から馬で一週間ほど離れていて、隣国へと続く街道から外れると道も整備されていない、山ばかりの険しい土地だったからだ。

 しかも詳しい居場所は特定できていなかった。だが麓の村で聞き込みをすると、絶壁に若い娘が一人住んでいると噂になっていた。それでようやくたどり着いたというわけだ。



 スカーレットは突然の来客にも親切だった。

 立ち話もなんだから、と入れてもらった小屋の中は良い匂いが漂っていた。狭いけれど、整理整頓されこざっぱりした部屋だ。壁にはハーブが吊り下げられている。匂いの元はそれらしい。

 手早くお湯を沸かし、甘いがスッキリした香りのお茶を出される。どうやら自家製ハーブティーのようだった。

 テーブルの上にはクッキーも出てくる。空腹だったダニエルは勧められるままに手に取った。期待していなかったが、かなり美味しい。


「で、悪い魔女ってなに? 未来が見えるって、予知魔法なんてあるの?」

「……話せば長くなるんだけど」


 どう話せばわかってもらえるだろうか。

 ダニエルはためらう。自分の素性を話してしまうべきかどうか。

 自分が他の世界の人間で、しかもこの世界が創作物であると告げて、誰が信じてくれるだろうか。

 馬鹿にしていると怒るかもしれない。


 それならば、小細工などせずに、自分がダニエルであることを告げて、許してくださいと頭を下げるのが一番なのではないか。

 非を認めて、償うしかないのではないか。


(誠心誠意謝ったら……)


「スカーレット、話が――」


 口が緩んだ瞬間だった。何気なく部屋の窓際に置かれていた人形を見てダニエルは固まった。


「レイ? どうかしたの?」

「い、いや、その」


(まて)


 だらだらと冷や汗が流れていく。全身がびっしょりと濡れていく。


(まてまてまて)


 窓際にあったのは黒い髪に青い瞳の人形フィギュア。西洋人形というよりは、色付きのねんどで作ったようなつるりとした人形だった。


 そしてそれは似ている。小さくなる前のダニエルに。しかも婚約破棄をしたあの場で着ていた礼服をまとっている。

 どこをどうやったらこれほど似るのかというくらいによく似ていた。

 そして、ダニエルが一番驚いたのはそこではない。


(こ、焦げて――)


 問題は人形が所々焼け焦げていたことだった。しかも大事そうに飾ってあるところがまた。一度燃やしただけでは足りなかったのだきっと。


(の、呪いの人形!? そりゃあ、恨んでるよな、当然!)


 呪いの藁人形、丑の刻まいりなどが頭に浮かぶ。この世界にそういった禁厭まじないがあるかどうかは知らないが、スカーレットが魔女と噂されていたことを思い出してゾッとした。


(いや、あれはただの噂話……のはずだろう!)


 言い聞かせてみるものの腰が浮きそうだった。今すぐここから逃げ出したい気分になったが、責任感がダニエルを抑え込む。今、逃げたら破滅が待っている!

 ダニエルの喉に詰まった謝罪は別の言葉にすり替わる。


「あのっ」

「なあに?」

「おれを、少しの間ここに置いていただけませんか! お、おれ、じつは訳あって家に帰れないんです!」

「ええっ?」


 スカーレットはあからさまに困惑している。それはそうだろう。見ず知らずの男を家に置くなど考えられないはず。

 だが、今、ダニエルは男ではなく、子供・・だった。


(時の逆行魔法は一般的じゃないし、バレることはない……だから危険はない……多分!)


 そう念じて恐怖を抑え込む。


「お願いします! 行くあてもなくて困ってるんです。そうだ! 弟子にしてこき使ってください!」

「弟子? で、でも……あなた見たところ王都から来たんでしょ? 何にもないところだし、全部自給自足で大変よ? 普通、すぐに音をあげると思う」

「大丈夫です! 丈夫にできてますから!」


 貴族の令嬢であるスカーレットができていて自分ができないということはないはず。体力も魔力も彼女よりたくさんあるのだから。


(うん。ちょっとこの姿で様子を見よう。そうしよう。そしてこの姿で信用を勝ち得て王都に帰ってもらって……彼女の傷が癒えた頃合いを見てから本当のことを言って……ちゃんと償おう)


 呪い人形の効果は絶大。ダニエルは臆病風に吹かれていた。

 スカーレットは渋っている。だが、ここで追い出されれば行きつくのは大戦だ。なんとか齧り付かないと。そしてフラグを折らないと。

 じっと見つめていると、


「じゃあ、お試ししてみようか」


 スカーレットは目線を合わせるように屈み込むと、ニッコリと笑った。


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