プロローグ~落第
教会が管理する神殿の奥、50年に一度しか開かれない『聖女選定の間』。
天の聖女を選定するこの場で高らかに宣言するのは、聖女を娶る事が生まれながらに決まっている王族。
第一王子その人。
「……以上の理由により、ジェシカ・ノースクラインは聖女候補生に名を連ねるにふさわしくないとして『落第』との判断が出た」
金髪碧眼、堂々とした美青年が、私、ジェシカを壇上から見下ろす。それを受け、私は候補生の証である制服姿でカーテシーをした。
16で教会に候補生として上がり、約3年間お世話になった制服。紺色の修道女風のデザインは割と気に入っていた。
もう着る事もないのだろうと、少し寂しさを感じる。
選定の間が水を打ったように静まり返る。
私は姿勢を元に戻して王子殿下を見上げた。彼の顔には何の感情も見えない。怒気も、哀愁も、喜色も。ただ、王族の義務として私へ落第を告げただけだった。
私は内心首を傾げた。
(変ですわね。ゲームでは王子はジェシカを毛嫌いしていた筈なのに)
特に、このルートでは。
公の場で王族として私情を挟まないようにしているのだろうか。ゲームと現実では、王子の立場というものは立ち回りも大きく違ってくるのだろう。
さて、落第を言い渡された私は。
「承りました。それでは、私はこれにて失礼致します」
もう一度礼をして、踵を返そうとしたら。
「待て」
壇上の王子が何故か私を呼びとめた。
ああ、面倒だ。
彼女に謝れ、とか言われるんだろうかと、うんざりした。




