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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はそして世界を知る
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違和感

 


 ソワ。


 ソワソワ。

 

 ソワソワソワソワソワソワソワソワ。


「マナリエル様、少し落ち着いてくださいませ」


「へぇ!?あ、ごめんね!何か落ち着かなくて!」


 ナディアに注意されたのはこれで何度目だろう。今日は起きてから朝食の間も、そして学園へ向かう支度をしている間も、どうにもジッとしていられない。


 べ、べつに嬉しいとかじゃないんだから!


 寂しくなんてなかったし!


 手紙だって書いてたし!返事は来なかったけど!


 でも突然フゥが伝言を持ち帰ってきて!


【そっち行くわ】


 って、その一言だけかーい!


「なぁ、今日の姫様、何か変じゃね?」


「え、いつもあんな感じじゃない?」


「まぁいつも変だけど」


 そんなレイビーとイリスの会話も気にならない。


「私と会う時もそれくらい楽しみにしてくれてたら嬉しいんだけどなぁ」


 とか言っているロイだって、抑えてるつもりだろうけど指先がソワソワしてるからね。それに、別に楽しみとかじゃないし!


 いつも通りナディアに見送られ寮を出発し、学園へ向かう。いつもならこの後そのまま教室へ向かうが、今日は違う。少し早歩きなのは認めよう。だって、私がいない間に何か粗相したらいけないじゃない?


 小さく息を切らしながら足早に向かうは、学園長室。


 ノックを3回し、3秒待ってドアを開ける。学園長室はこれで良しとなっている。だってあの人、返事するまでが長いのよ。

 ドアを開ければ、エンダー学園長は自身の椅子に腰かけていた。その前に立っている人物がゆっくりと振り返る。


 見慣れた艶のある黒髪、少し吊り上がった赤い目。生意気そうに口角を上げる薄い唇が動く。


「よ、久しぶり」


「バーーーーーーカ!!!!」


「はぁ!?会っていきなりなんだテメェ!!」


「テメェって言う方がテメェですぅー!!」


「また訳わかんねーこと言いやがって!!」


 久しぶりの再会だが、そうとは全く感じさせない。ソウシがソウシであることに、心のどこかで安堵した。


「まぁまぁ、マナリエルは会えて嬉しいんだよね」


 ロイは慣れた様子で間に入る。


「え、別に嬉しくはなくなくなくないよ?」


「どっちだよ」


 ソウシのツッコミも慣れたものだ。寂しくないと言えば嘘になるが、かといって別に寂しかったわけでもない。つまらない、その言葉の方がしっくりくる。


 会えて嬉しい、なんて言葉をかけるのはお互い気持ち悪いし、元気だった?なんて聞くのもむず痒い。ソウシへの挨拶はこれが精一杯だし、受け止めてくれるのも分かっている。これも一種の甘えだろう。


「兄さんも久しぶり」


「あぁ、元気そうで良かったよ」


 いつの間にかロイを兄と呼ぶようになったソウシ。まぁ本当に兄なんだけど。私のことは一度も姉と呼んだことないくせに。まぁ今は違うんだけど。


「マナは聞くまでもなく元気だな!」

 

 ニカッと歯を見せて笑うソウシ。


「はぁ!?あんたに言われなくてもご覧の通り元気よ!むしろこれで病気に見えるのかしら!?視力おかしいんじゃない!?」


「……こいつ、何でこんなにこじらせてんの?」


「はは、嬉しいのと恥ずかしいので、どう表現すればいいか分からないんだよ」


 若干引き気味のソウシに、ロイは微笑みながら説明をする。


「で、後ろにいるのが手紙で言ってたレイビーとイリスか?」


 自分の名前に反応した二人が、私の背後からひょっこり顔を出した。


「姫様が俺達のことを手紙に書いてくれてたんですか!?くぁー!嬉しいぜ!」


「書いてあったぜ!変態クソ野郎の二人組だろう?」


「ひゃー!そんな褒められてもー!」


「「「あははははは!!」」」


 ……え、初対面だよね、この人達。どうして会って数秒で肩抱き合ってんの。

 そもそも証拠は残さぬがモットーの私が、そんなあからさまに誰かのことを悪く書くことはない。決して。思わず唇が尖る。


「私、そんな事絶対書いてないけど」


「はっ!どんな丁寧な言葉並べたって、マナの言いたいことなんて手に取るように分かるわ!」


「え、やだ、結婚する?」


「それなら俺は修道院へ行く」


 いきなり表情筋死ぬなよ。冗談だわ。


「マナリエル?婚約者は私だよ?」


 そんな怖い微笑みがあってたまるか。だから冗談だって。


「いやぁ、イケすかない王子の弟って聞いてたからどんな生意気な野郎かと思ってたけど、案外気が合いそうですよ!」


 酒の入ったオジさんのような絡み方をするレイビー。彼が私以外の誰かに懐くなんて珍しいわね。


「あははは、ありがたいねぇ!まぁでも、マナのことを姫様って呼ぶ以上、こいつ守れなかったら殺すよ?」


「っ!!」


 ボカッ!!


「いてぇ!」


「コラ!人にそんな言葉を使うなっていつも言ってるでしょう!」


 私に叩かれた頭を押さえ、ソウシは恨めしそうに睨んでくる。この子、普段はヘラヘラ誰とでも接するのに、ふとした瞬間に相手を怖がらせることがあるのよね。見てみなさい、レイビーもイリスもポカンと口開けちゃってるわよ。


「なんだよ、心配してんのに」


「あんたに心配されるほど弱くはないわ」


「はい、もうおしまい。今日は話さなければいけないことがたくさんあるんだから」


 ね?とロイに微笑まれれば、私もソウシもこれ以上言うことはなかった。この微笑みがある内に終息させた方がいいことを理解しているからだ。


 そう、今日は感動の再会を果たすために集まったわけではないし、それこそふざけ合うために来たのではない。


「ここへ来れたってことは、魔力は解放されたってことでいいのかしら?」


「ああ、フゥがやってくれたぜ!」

 

 ほら、と見せてくれたのは、掌に現れた小さな炎の渦。なるほど、ソウシは火の属性ってことか。暴れん坊な弟にピッタリだ。


 しかし何だろう。妙な違和感を覚える。


「ソウシ、これ全力?」


「んなわけあるか。ここで全力出したら、さすがに部屋が吹き飛ぶだろ」


「そう、そうよね」


 こんな狭い部屋で、しかも少し魔法を見せるだけ。わざわざ全力を出す必要はない。


 分かっている。分かっているのに、この違和感は何なのだろうか。


 ソウシの魔力を見た時の物足りなさ。まるで止水栓を強めに締めたような、出るはずの物が出ないようにしているような、説明し難い窮屈さを感じた。


 しかし恐らく、まだソウシが魔力を上手く調整できない故に感じただけなのだろう。そう、調節が下手なだけだ。


「下手くそ」


 ふと呟いた言葉に、ソウシはうるせー、と返した。

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