届いた手紙1【episodeソウシ】
学園に入学したマナから初めて手紙が届いた。なぜかシルベニア城ではなく、ティスニーのメルモルト公爵家──つまり、俺んちじゃなくてマナんち。
俺宛なら俺んちに送れよ!いつもこっちにいると思ってんなよ!いやいるけど!割りといるけども!無事手元に届きましたけれども!執事長のミュートンも、何の躊躇いもなく手紙を渡すんじゃねーよ!という叫びたい気持ちは、ミュートンの後ろからひょっこり顔を出したフゥを見ていくらか落ち着いた。
「お、フゥじゃん。なんだ、お前が届けてくれたのか?」
「はいですわ♥️」
褒めて褒めてと全身でアピールするフゥの頭を撫でてやれば、嬉しそうに、けれど少し物足りなそうに微笑んだ。本当は背中もお腹もワシャワシャー!を希望しているのだろうが、さすがにそれは……「この変態ロリコン野郎が!」と罵る姉の顔が浮かぶ。
「ソウシ!お姉様からの手紙、僕にも来たよ!」
勢いよくドアを開け入ってくるのは、マナの弟のアルバート。生まれた頃から知っているから、もはや俺の弟みたいな存在である。
「おぉ、アル!……って、これまたすごい量だな」
アルバートのまだ幼い手には、抱えきれないほどの便箋が握りしめられていた。それを大事に抱え、いつものように躊躇いなく膝に乗ってくる彼は、とても愛らしい。
「お姉様、手紙だといつもと違って変なんだ」
手紙を覗き込めば、それはそれは達筆な字で書かれており、いかにも令嬢らしい丁寧な言葉遣いである。世間的には至って普通の手紙だ。お前の姉ちゃん、いつもの方が変なんだぞと伝えたい言葉は飲み込んでおこう。
「お前の姉ちゃんはな、手紙だけはやたら丁寧なんだよ」
「なんで丁寧なの?」
「証拠が残るものは慎重に、がモットーらしいぞ」
「モットー?」
首を傾げるアル。まぁ6歳には意味が分からないよな。代わりに部屋の片隅で待機しているルジークが噎せるように咳き込んだが、さすがに公爵家の令嬢に対して毒を吐くことはしないようだ。何事もなかったかのように澄ましている。
いや、今はそんなことはどうでもいい。先程から手紙で気になる言葉が目に入ってくる。
「聖獣……」
その言葉は覚えがある。俺がこの世界を設計してた頃に考えていたものだ。聖獣は全部で5体存在し、世界の各地に生息している。登場人物は考えた記憶が全くないのだが、聖獣王に関しては少し思い当たる節がある。
これは一度、マナと会って話をするべきだろう。
それに、フゥにも確認をしたいことがある。しかしそれはアルがいる前で話せることではないし、何よりマナの耳には絶対に入れたくない内容だ。恐らく、今聞くべきことではないのだろう。
「ルジーク。マナリエルに会いに行きたいんだけど、方法はあるか?」
「カルヴィナータに、ってことですよね。あそこは魔力の持たない者は入れないようになっています。ソウシ様はまだ解放されていませんので、行けるようになるのは15歳になられてからになるでしょう。どちらかと言えば、マナリエル様が休暇の際にこちらにお戻りになられるのを待つ方が早いと思われます」
なるほど。すぐには無理、てことか。焦れったいな。
「そもそも15歳になったからといって、俺に魔力がなければ学園には入れないんだよな」
「えっ?」
俺の呟きに素早い反応を見せたのは、ルジークだ。目を丸くしてポカンとこちらを見ているが、何か変なこと言ったか?
「なんだよ」
「あ、いえ、失礼しました」
ルジークは間抜け面を見せたことを恥じたのか口元を隠したが、それでも何か言いたそうにモゴモゴと動かしている様子だ。言いたきゃ言え、と無言の圧をかければ、気まずそうに口を開いた。
「いや……まさかソウシ様が魔力を持たない可能性を考えたことがなかったものですから」
「でもあり得ることだろう。王族でも魔力を持たない人間はいたはずだ」
「はい。王族は魔力持ちが多いですが、仰る通り必ずというわけではありません。しかし、ソウシ様は間違いなく魔力をお持ちですよ」
ルジークは躊躇いなく断言する。魔力を持っているのか、そしてその魔力量がどれほどのものなのか、解放される前は全くの未知数のはずだ。それをなぜ、ここまで言いきれるのか。
「俺がロイの弟だからか?」
ロイは歴代の王族の中でもかなり高い魔力の持ち主だ。しかし、血を分けた兄弟姉妹でも魔力を持つ者とそうでない者がいると聞いたことかある。その通りのようで、ルジークは首を横に振った。
「魔力があると断言するその理由は、ソウシ様のその髪です」
「髪?」
反射的に自身の髪に触れる。俺の髪はありきたりな黒髪だ。
……ありきたり?
いや、待てよ。それは前の世界での話だ。そういえばこの世界では、あまり黒髪を見ない気がする。
「髪が黒いと魔力があるのか?」
その言葉に、今度は頷きが返ってきた。
「はい。黒い髪は高い魔力の証とされ、サネルという派閥では特に黒髪であることが重視されています」
「確かに、髪の黒さは魔力の高さと言えますわ。けれど、それが全てでは決してありません」
口を挟むのは、フゥだ。
「どういうことだ?」
フゥはコホン、と一つ咳をし、得意気に人差し指を立てた。
「髪に魔力が宿っている者だけを集めれば、もちろん黒い髪の方が魔力が高いですわ。けれど、人間が魔力を宿す場所は他にもありますのよ。目、耳、口、手足、臓器で言えば生殖器が多いですわね」
「魔力が宿る場所……」
「現にマナリエル様の髪は黒くありませんが、魔力が高いですわ」
確かにそうだ。ルジークはどうやら知っているようで、フゥに同意するように頷いていた。
「全ての魔法使いの魔力を髪色で判断することはできません。黒髪が優位というものは、サネルの思想のようなものですね」
サネル。魔法使いの中でも黒髪至上主義の一派。
「そんなもの作ったかな……」
「え?」
「え、あ!いや!いやいやいや!何でもない!」
危ねー!誤魔化すように両手を大きく振る。嘘をついてまで隠すつもりはないが、だからと言って「この世界は俺が作ったんだぜ」なんて、わざわざ自ら言う必要もない。正直なところ、自分自身そうだと言い切れる実感がない。神だと名乗るようなものだ。頭がおかしくなったと思われるのがオチだろう。
「えーと、そうだな。とりあえず俺は魔力があるみたいだし、15になって……あ、そういえば」
思い出したように、マナの腹立つくらい丁寧に書かれた手紙を読み返す。確か……そう、ここだ。
【実は魔力を解放する時期というものは、フワリマルがある程度調整することができるようなんです】
「フゥ。15歳の誕生日を迎える前に魔力を解放することは可能か?」
「はい、もちろんですわ♥️」
これにはさすがのルジークも驚いた様子を隠せず、目を丸くしていた。
「ならよかった。どうしてもマナと直接話をしたいんだ。長期休暇を待たずに、なるべく早く。だから、俺に魔力があるなら解放してくれないか?」
「分かりました!ちょっとお待ちくださいね」
あっさりと承諾してくれたフゥは、何かを見定めるように俺を見る。全身を覗かれているような感覚だ。
「んー、んー?んぅー……これは……」
目を細めたり、頭を傾けたり、横から眺めたりと俺を観察しながら唸るフゥ。黒髪は~なんて言って、もしかして魔力がなかったなんてことはないよな?時間が経つごとに不安が増す。
「フゥ、どうした?」
「……ソウシ様、ごめんなさい。今ここではソウシ様の魔力は解放できません」
申し訳なさそうに、けれどハッキリと告げるフゥ。
「もしかして、俺に魔力がなかったのか?」
「いえ!そんなことは決してありませんわ!どちらかと言うと、その反対かもしれませんの」
反対?反対とは……。
「あのですね、ソウシ様。さきほど魔力は体の一部に宿るとお伝えしましたよね。これは魔法を扱う人間は必ず1つあるんですの」
「うん、そう言ってたな。俺は髪が黒いから、ここがそれになるんだろう?」
「はい、もちろんその髪には魔力を生み出す力がありますわ。でもね、ソウシ様……」
言いにくそうに唇をムニムニと動かすフゥ。
「ソウシ様、3つありましたの」
「………ん?」
「あのっ、だからね、ソウシ様。ソウシ様の体には、魔力を宿す場所が3つあるんです」
「……なんてことだ」
驚きが声として漏れたのは、ルジークである。目を丸くするどころではない。口は開き、体はよろめき、汗を垂らし、普段の冷静沈着な騎士の姿はない。
魔力を宿す場所が3つ。普通は1つだけど、俺は3つある、と。
「なぁ。それって3つあると何かあるのか?」
そんな俺の台詞に、二人がさらに驚愕したのは言うまでもない。自身を落ち着かせるためにも、話の流れが分からずにキョトンと見上げてくるアルバートの頭をそっと撫でた。




