精霊祭とは
精霊祭━━それは日々力を分け与えてくれる精霊に感謝し、その存在を祝い、もてなすために一年に一度行われる大切な祭典である。
精霊の恩恵なくして魔法は使えず。そのため、魔法使いは普段から常に精霊を尊重し、敬愛するものだ。精霊に嫌われるということは、すなわち魔法使いとしての素質を失うということである。
精霊祭は一週間開催し、その間シルベニア各地のゲートは解放され、様々な精霊が学園へ足を運び姿を見せる。彼らは精霊祭の期間中、学園内を自由に散策し、気に入ってそのまま学園へ残る精霊もいれば、反対に新たな地を求めて去る精霊もいるようだ。
「精霊と話すことはできるの?」
「もちろん。参加してくれる精霊は基本的にとても友好的で好奇心旺盛だからね。むしろ精霊の方から話しかけてくれることもあるよ」
時々イタズラを仕掛けてくるけどね、なんて笑みを溢すロイ。
話を聞く限り、精霊はランクと精神年齢が比例しているようだ。
普段私達に魔力を分け与えてくれている下級精霊は幼児くらいだろうか、好奇心旺盛で人の反応を見で楽しむところがある。泣き虫や怒りんぼうなど素直に感情を出す可愛らしい面もあるようだ。
中級精霊は恐らく青年期あたりだろう。話し方も下級精霊より流暢で知恵も個もあり、中には人間に反発する者もいるようだ。基本的に学園に住まう精霊は人間が好きだからこそ留まっているパターンが多いため、今のところ生徒と精霊の間でトラブルが起きたという話は聞いたことがない。
「私も精霊と話してみたいなぁ」
「姫様は私達とお話してた方が楽しいですよぉ」
イリスが腕に絡む。この子が出てくると話がややこしくなるんだって。静かにしてて、と伝えれば、唇を尖らせながらも大人しく言うことを聞いてくれた。
「マナリエルはすでに大精霊と話しているだろう?そして契約までしている」
大精霊。ロイにそう言われてもすぐ彼女を思い出せなかったのは、やはり私にとってフゥちゃんは大精霊ではなく家族なのだと身に染みる。
「フゥちゃんは私にとって、家族だからね。大精霊って言われてもピンとこないなぁ」
「マナリエルとフゥ様は、契約より深い絆で結ばれているからね」
「え、ちょっと待って」
制止の声に、ロイは首を傾げる。
「ロイさ、フゥちゃんのことフゥ様って呼んでるの?」
馬鹿にするように笑っているレイビーとイリスの頭に一発ずつ。
こんなに一緒に過ごしているのに、今まで全く気付かなかった。目を丸くする私に、ロイはああ、と小さく声を上げて苦笑する。
「マナリエルは魔法と触れ合って日が浅いから、少し理解し難い感覚かもしれないけどね。日々を妖精と共に生きるシルベニアの民にとって、解放を司る大精霊はとても━━いや、そんな言葉では表せないほどに偉大なお方なんだよ」
「ほう」
あのフワフワのハイパーウルトラスーパーラブリープリティーガールが、か。
確かに、思い返せばロイはフゥちゃんに対して攻撃的な態度をとったことがない。いや、そもそもロイが誰かを攻撃している姿なんて見たことがないな。
「そんなこと言って、バチバチ火花は散らしてるのに」
「いくら大精霊でも、マナリエルのことを譲る気はさらさらないからね」
そんな誇らしげに言わなくても。言葉で表せないほど偉大なお方じゃないのか。
対抗しようとロイに向かうレイビーとイリスの服を鷲掴みながら思案する。ロイもロイで、臨戦モードの笑みを浮かべるでない。
でも、そうか。事情はどうであれ、大精霊であるフゥちゃんと契約を結べたということは、下級や中級、さらに言えば上級の精霊とも契約を結べる可能性が私にはあるということではなかろうか。
「私も新たな精霊との出会いのチャンスってことよね!」
フゥちゃんが不満ということは全くない。だが、精霊のいる世界に生まれたならば、やはり精霊らしい生物と出会いたいし、なんなら力を拝借して魔法を使ってみたい!
「そうだね、今回マナリエルは披露目の儀にあたるから私も楽しみにしているよ」
「披露目の儀?」
「……マナリエル、講義はきちんと受けてるのかな?」
ギックーーー!!
「披露目の儀に関してはもちろん、そもそも精霊祭の講義もあるはずなんだけど」
「ももももももちろん!もちろんよ!講義は全て出席しているわ!!」
えらく速い脈拍を鎮めようと胸を押さえるが、余計に焦りを表現してしまう結果となる。
「安心しろよ王子様。姫様はちゃーんと全ての講義に出ているぜ。俺の隣で毎日、な」
「いやー、姫様の目を開けたまま寝るスキル、ここ数日で確実にレベル上がりましたよねー!誰も寝てるなんて気付いてませんよ!」
ここぞとばかりに対抗心を煽るレイビーと、空気読まずに真実を漏らすイリス。どっちもやめてくれ。
マナリエル。静かにそう囁くロイは一歩大きく私に近付き距離を縮め、そして頬に手を添えた。
「私は君を私の隣に置くだけの人形にするつもりはない。王妃としての教育を強要してしまっているのは申し訳ないと思っている。だからこそ私が王位に就くまでは、なるべく自由に好きなことを学んでほしいと思っているよ」
ロイは長男気質が強いのか、基本的には優しく紳士だ。
だがしかし、たまに思うことがある。
「でもね、マナリエルがもう学びたいことがなくなったのなら、今すぐにでもシルベニアの未来を築こうか?」
ここで、と低く囁く声と同時に、腹部に感じるロイの掌の熱。
うん。この人、成長の仕方によってはヤンデレ気質あるわ。
「わー!魔法って奥深いなぁ!まだまだ学びたいことがたくさん!」
あからさまな棒読みでも、ロイはそっか、と満足げに微笑んだ。ダメだ。普段穏やかなロイが怒ると一番怖いのは知っていたが、今後は特に気を付けよう。生まされる。
「結局、披露目の儀って何だよ」
レイビー、あんたも講義聞いてなかったんかい。生まされるぞ。
「披露目の儀というのは、貴族で言うと社交界デビューみたいなものだよ。精霊達に新しい魔法使いを見てもらうんだ」
ロイの声に三人の顔は縦に動く。
「初めて精霊祭に参加する生徒、つまり君達だね。初日には属性カラーの制服を着て式に参列し、精霊達にその姿を披露するんだ」
「あれ、私って結局属性ってどうなったの?何色着ればいいのかな?」
「あぁ、マナリエルは全属性だからね、白を着ることになるよ」
「なるほど……って、白は生徒会のカラーじゃなかった?」
ロイが身に纏っている制服は白く、それは生徒会のみが着られるものだと聞いた記憶がある。一種のステイタスであり、羨望の対象である。
「マナリエルも生徒会に入ることが決まっているから、問題はないよ」
……は?
「……は?」
思わず心の声と口から漏れた声がシンクロする。ちょうど良かったね、なんて嬉しそうに笑うロイを見ても、全く素敵だなんて思わない、何なら憎らしく見えるから不思議だ。
「初耳ですけど」
「そうだったかな?私の話も寝ていたんじゃない?」
「そんなわけあるか!」
からかうように口角を上げるロイの、何て美しく楽しそうな顔。頬をつねり回してやりたくなる。まぁ、こんな整った顔に傷なんてつけれるはずもなく、やり場のない怒りはレイビーの腕をつねることで発散した。
「痛い!なんで!?」




