手紙
『拝啓、ソウシ様
初夏の風が清々しい季節となりました。皆様は変わりなくお過ごしでしょうか。
カルヴィナータへ入学して1ヶ月が過ぎました。初めての外での暮らしは戸惑いや不安がありましたが、ナディア率いる皆のおかげで快適に過ごせています。ただ一つ、アイマックの作る食事が恋しいですが…。
貴方の兄君であるロイ殿下も、学園の会長として日々ご活躍なさっておりますよ。
フワリマルは大精霊らしく視野を広くもっていただきたいのですが、主である私の傍を離れません。けれど本来契約を交わした精霊はそのようなものであるそうです。
そうそう、この世界の学園はシステムが少し変わっていて、誕生日が来たら学年が上がる、という形になっているんです。必要な授業は各自その教室へ赴く──大学の講義に近いような感覚と言えます。そこはいいのですが、やはり4月入学としてまとめて生徒を受け入れた方が…とも思いました。けれどカルヴィナータは義務教育ではなく、15歳になり魔力が発現した者のみ入学ができる学園。4月に誕生日を迎えた者と、3月に誕生日を迎えた者では約1年ほどの差が出てしまいますし、4月に魔力が発現したあとに1年間も放置するわけにはいきません。やはり魔力が解放された生徒から学園で保護、そして教育していく必要があると思います。平等な教育というものは難しいですね。
実は魔力を解放する時期というものは、フワリマルがある程度調整することができるようなんです。
そのため、今は学園長とロイ、そしてフワリマルと共に学園の運営について議論しています。
貴方が入学する時には、今とかなり変わっているかもしれませんね。楽しみにしていてください。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回手紙を書こうと思ったのは、ある件をソウシにも報告しておこうと思ったからです。
聖獣は知っていますか?私も最近ハロッド学園長から少しだけ聞いたので詳しくはないのですが、不死鳥、麒麟、ドラゴン、ケルベロス、マーメイドと5つの聖獣がこの世界には存在しているそうなのです。
そして私はどうやら全ての聖獣に選ばれたようで、学園長は私を【聖獣王】と言っていたかしら。
あとはレイビーとイリスという二人が現れて、私を姫様だとか女神だとか呼びます。二人は聖獣を呼び出した女神を守るために生まれた存在みたいなの。私は聖獣王、女神、どちらなのかしら。命を狙われるらしいけれど、まだ実感はありません。
もう一つ。やはりこの世界、乙女ゲームの要素も入っているようです。スキルで好感度のようなものが見れる時点でその可能性は感じていましたが、私が入学して少ししてから、光属性の女の子が入学してきました。光属性はとても珍しく、平民から男爵家の養子となったという設定から、これは間違いなく彼女がヒロインだと思うんです。
だからと言って、私も大人しく悪役を演じるつもりはありません。ヒロインとはなるべく関わらないようにしようと思います。
ざっくりと状況を説明したけれど、こうして文章にするとイマイチ現実味がありませんね。空想の話でもしているみたい。
私も全てを把握したわけではないので、もし今回の報告で何か分かることがあれば教えて下さい。
それでは、体には十分気を付けて。我が家に入り浸ることなく、ロイ殿下が不在の分しっかりと王子としてのお務めを果たしてくださいね。
かしこ』
「──よし!」
思ったより長くなっちゃったけど、伝えたいことは全部書けたわね。ペンを起き、軽く肩を回す。とりあえず学園の現状は創造主であるソウシに伝えた方が良いだろう。何か分かることがあるかもしれない。
「マナリエル様、書き終わりましたらお預かりいたします」
近くに控えていたナディアが丁寧に両手を差し出す。屋敷に住んでいた時も手紙はよく書いていた。まぁ出す相手はロイとソウシしかいないけど。
ふふふ、でも今回はナディアに預ける必要はないのよ。
「大丈夫よナディア。私には優秀な配達係がいるの」
「えっ?そのような担当は………ま、まさか」
「はいその通り!おいでフゥちゃん!」
「はいですぅ~♥️」
名を呼べば、どこからともなくフワリと登場するフゥちゃん。うん、いいね。フゥちゃんはニコニコ楽しそうにしているその笑顔がたまらなく可愛いよ。私が笑顔を向けると、さらに花開くように笑うところも大好き。
「フゥちゃんフゥちゃん、これをうちまで届けてくれるかな?ミュートンに渡してくれれば大丈夫だから!」
「執事長のミュートンさんですね!分かりました!行ってきます♪」
「ありがとう!よろしくねー!」
ブンブンと大きく手を降りながら、またフワリと消えるフゥちゃん。よし、これで手紙は完了だ!
「マ、マナリエル様……大精霊をそのように使うのは……いや、マナリエル様にとっては契約した精霊ですから……そもそも大精霊と契約できるなんて知りませんでしたし……」
私に伝えたいのか、自問自答しているのか。ナディアは途中からブツブツと「え、私が間違っている?」なんて自分の常識を疑い始めていた。
フゥちゃんは解放を司る大精霊であり、解放は地の力だ。地の力、つまり大地や植物のあるところならどこへでも現れることができる。瞬間移動のようなことができる、まさに有能な配達係!本人も「はいたつがかり……素敵な響きです!」と喜び、お願いすれば喜んで引き受けてくれた。
これは命令じゃない。お願いだ。ソウシもフゥちゃんに会いたいだろうし、何よりずっと森の中に閉じ籠っていたフゥちゃんに、外の世界を体感してほしい。まぁ依頼しても、結局寄り道せずに真っ直ぐ帰ってきちゃうんだけどね。
「それなりに考えがあってのことですよー」
そう言えば、まだ何かの答えを導きだそうと迷走しているナディアがこちらを向く。
「マナリエル様のお考え……封蝋を押したり、検閲を通したりする手間が省けるということではないですか?」
「あ、バレてる!あははは!」
「マナリエル様……」
私が勢いよく笑えば、ナディアは呆れたようにため息を吐いた。




