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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はしかし傍観者でいたい
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闇の中【episode???】

 


 風もなく、星もない。窓ガラスがカタカタと揺れることもなければ、優しく差し込む光もない。足元を照らすのは、この長い道の途中にぽつんと吊り下げられた燭台1つ。窓の向こうからは、闇の中の何かと目が合った気がした。震え上がりそうな体を擦り、視線を前へと移す。前を歩く背中を追いかけて1時間。ここで迷えば終わりだ。

 闇夜が得意なわけでも、恐怖という感情が欠落しているわけでもない。ほとんど先の見えない道に1歩ずつ足を踏み出す度に、躊躇いと覚悟が繰り返される。ただこの無光も無音も、これから会う人物を思えばただの静寂でしかない。リラックスできる空間とさえ思えた。

 この道は、闇そのものへ続いているのだから。

 けれどその闇が、目的を果たすために必要不可欠であることを知っている。覚悟が恐怖に負けることなどあり得なかった。




 追いかけた背中は、大きな扉の前で立ち止まる。ノックは必要ないのだろうか。声をかけることもなく、ただ異様な──今すぐここから逃げ出したくなるほどの威圧感を放つ扉の前に立つだけ。

 しばらくすると、中から「去れ」と下腹に響くような低い声が聞こえた。震えるな。自身の手をギュ、と握る。


「失礼致します」


 背中の主─ポルカという男は、臆することなく慣れた様子で入室した。扉を開けておくなんていう気遣いは期待していない。遅れないよう、閉じそうな扉の隙間をするりと抜けて部屋へ足を踏み入れた。無言で入るのもどうかと思い「失礼致します」と発した声は、自分でも驚くほど小さく掠れて消えた。入室に対する返事はない。歓迎されないことなど百も承知。

 入った部屋は、廊下よりさらに深い闇が広がっていた。自分が目を開けているのか閉じているのかすら分からなくなるほどに。

 (おのの)くな。殺されることはない。自身の体に言い聞かせた。

 扉がバタンと閉まると同時に、近くの燭台に火が灯る。突然の光に咄嗟に目を庇った。灯りのおかげでポルカと少し距離ができていたことに気付き、慌ててその背中に近付く。明るくなったのはすぐ近くのみで、室内の暗闇は変わらず続いていた。

 ポルカは闇が得意なのだろうか。躊躇うことなくある方向へ向き、姿勢を正している。そこに、いるのだろうか。


「誰が許可した」


 闇から聞こえた唸るような声からは、心の底からの拒絶や嫌悪がひしひしと伝わった。暗闇で姿は見えないが、ポルカに倣い声を頼りに頭を下げる。顔を上げることができない、という方が正しいのかもしれない。


「本日はあなた様に有益な情報をお持ちいたしました」


 ポルカのその一言で、闇からの強い視線を感じた。ポルカがこの暗闇でも目が使えるように、相手もこちらの姿が見えているのだろうか。もしかしたら、こちらに灯りがある分、より鮮明に見えているのかもしれない。


「先日、カルヴィナータで聖獣が現れたことはご存知で──」


 ポルカが言い切る前に、声が止んだ。反射的に顔を上げようとするが、ボトッ──と何かが目の前に転がり、視線は床へ戻る。

 暗くてよく見えない。けれど、蝋燭の灯りを頼りに目を凝らして見ると、慣れてきたのか形が分かるようになり、そしてそれは自分が知っているものだとハッキリ認識する。



 ──耳だ。


 悲鳴を上げそうになる口を両手で塞ぐ。強く押し付けた手には、叫びにならない叫びが振動として伝わった。

 闇の向こうにいる者は何もしていない。いや、何かしたのだろう。そのような素振りを一切見せることなく──。

 ポルカは戸惑う様子も見せず、ただ真っ直ぐな姿勢を保っていた。落ちた自身の耳には欠片の興味も示さない。


「私がお前から学ぶことなど一つもない」


「申し訳ございません。その通りでございます我が王」


 背筋を伸ばしたまま、美しい所作で頭を下げるポルカ。


「まさかそいつが、とでも言うつもりか」


「いえ、まさかそのような」


 間髪を入れずに否定する。鼻にかけた笑いが癪に触るが、もちろんその感情は絶対に表には出さない。


「光の魔力を持つ者が現れたな」


「作用でございます。始末しますか」


「手を出すな」


「───かしこまりました」


「お前が守れ」


「───は?」


 王と呼ばれたその男を、ポルカがどれほど敬愛しているのかヒシヒシと伝わるなか、それでも呆気にとられるほどの命令だということは分かる。


 闇が、光を守れと言う。やはりあの情報は本当だったのだ。それが分かっただけで、ここへ来たことへの正解と成功を確信した。恐怖の震えが、喜びのそれへと変わる。


「───かしこまりました」


 ポルカは闇の意図が理解できないまま、けれど決して探ることなく、ただ了承をした。彼にとって、王が全てなのだ。


「なお、聖獣が現れた件については、この者から説明させていただきます」


 ポルカがこちらに視線を合わせる。話せ─と。早まる鼓動を落ち着かせるよう、肺にたっぷり空気を吸い、恐怖と共に吐き出した。そして一歩、一歩、闇へと近付く。闇からは、突き刺すような視線を感じた。


 間違えるな。言葉の一つ一つ、声の抑揚やボリューム、目の動きや口角の上げ下げ、動かす筋肉全てに集中した。

 そして闇の王から得た返答に、人生で一番の歓喜を覚える。いや、まだだ。本当の幸福はこれから始まるのだ。


「「かしこまりました」」


 ポルカと並んで頭を下げる。これで私が恐れるものは、何もなくなった。

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