打ち明ける2
覚悟を決めたなら、潔く。
前世─結城マナとしての記憶があること、この世界は弟のソウシが考えた世界かもしれないこと。私が乙女ゲームの悪役令嬢かもしれないこと、どこかにヒロインが存在するはずで、バッドエンドとは如何なるものか、隠したいことから不安なことまで、堰を切ったように話した。
レイビーとイリスは相槌を打つこともなく、ただ黙って話を聞いていた。私の邪魔をしないための気遣いなのか、驚きで声にならないのか。時折握る拳に込められているのは怒りか、恐れか──俯いたまま話し続けている今は判断ができない。そのことが、さらに私の不安を助長させた。けれど私の口が止まることはない。どうせ話したなら、全部言ってしまった方がいい。人生で大切よね、開き直りって。長いのか短いのか分からないけど、結局話し終えるまでに30分かかった。
「──と、いう感じなんだ」
──言いきった。言ってやったぞ、私は。あんなに喋っていたのに口は乾くことなく、飲み込んだ唾はわざとらしくごくりと音を鳴らした。
しばらく静寂が周囲を支配し、つい二回目のごくり。
「姫様…」
イリスの声に、思わず肩が揺れる。何を言うつもりなんだろう。声色からは全く予想ができない。変に勘繰るのは無駄だと思い、黙って言葉を待つことにした。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「………え、な、なに!?怖いんだけど!」
まさかのだんまり!耐えきれずに思わず顔を上げれば、イリスと目が合う。けれど何を考えているのか、無表情すぎて読み取ることなんてできそうにない。
「…………」
いや何で真顔やねん!目を見開いたとか口がポカンと開いてるとか、眉を寄せるとか色々あるでしょ!無って!証明写真でさえもう少し感情出るよ!無理無理、何か喋れ!
「イリス?」
「あー、えっと」
私の圧を察知したのか、何か喋ろうと声を洩らすイリス。頬をポリポリかきながら、言葉を探すように視線を上げる。それが尚更心臓に悪い。
「姫様、あのね、私あんまり長い話聞けないからほぼ聞いてなかったけど──」
「いやそこは聞いとけよ」
勇気と覚悟がたっぷり詰まった告白だぞ。
「あ、大丈夫ですよ。姫様の声は毎回ちゃんと録音してありますから」
ほら、と謎のスティックのような金属製の物を取り出したイリス。あれが何なのか、どう使用するのかは分からないが、恐らく盗聴器のような物であろうということは理解できた。
「いやぁ、こんなに長く撮れたのは初めてだ──って、姫様姫様。そんな汚物を見るような目で見ないでくださいよ。こんな場所で興奮させるつもりですか」
「……いや、なんか、ごめんなさい」
人って、恐怖を感じると思わず謝罪の言葉が出るものなのね。初めての感覚を知ったわ。1週間くらい鳥肌消えなそう。
イリスは昂る感情を落ち着かせようと、自身を抱き締めながらスーハーと深呼吸している。もうなんかそれすら少し嫌悪感。女の子なのに。
「俺達はさ」
今まで黙っていたレイビーが口を開く。振り向けば、何か考え込んでいる様子だ。
「俺達は、姫様そのものを愛してるんですよ」
「そのもの?」
愛という言葉に、心臓が大きく脈を打つ。言われ慣れていない言葉は、そういう意味じゃないとしてもドキドキしてしまう。
「そのものです。何て言えばいいかな……俺達は、マナリエル・ユーキラスだから愛してるんじゃないんですよ。もし姫様が公爵家でなく平民として生まれていても、俺は姫様のことが分かりますし、姫様を愛します。俺達には容姿や出自は全く関係ない、入れ物は何だっていいんですよ、姫様なら」
「レイビー……」
こういうのが無償の愛って言うんだろうか。何だかくすぐったい。こんな顔面偏差値最強クラスの男に言われて照れない女性などいるのだろうか、いやいないだろう。
「あ、姫様の顔赤くなった、可愛い」
からかうような声で、けれど慈しむような手で私の頬を包むレイビー。どうしよう、もうこれは結婚しちゃってもいいレベルだわ。
「あ、レイビーばっかりずるい!私なら人間じゃなくて、ライオンとかに生まれても姫様のこと分かるからね!」
後ろから抱きついてくるイリス。可愛い姉妹のような関係になれそうなのに、あと一歩のところでその感情が消えてしまう。首元に顔を埋めてスーハー匂い嗅いでるからね。
「ふん、俺ならウサギでも分かる」
「は?私ならトカゲでも分かるし!」
「蜘蛛でも分かるね」
「蟻でも分かる!」
「ミジンコ」
「プランクトン!」
「ええい!なんであんたらはいい感じの雰囲気をキープできないの!」
あまりにも幼稚な言い争いに、思わず叫んでしまった。突然の大声に、レイビーとイリスはピタリと制止する。
「ほんと、すぐぶち壊すんだから!……ふふっ」
そんな空気は嫌いじゃない。むしろ、私にとっては心地良い。
あ、姫様が笑った、なんて呟いて嬉しそうに笑うイリスと、優しく微笑むレイビー。それが温かくて、つられて私もさらに笑った。あー、笑いすぎて涙出るわ。これは笑いすぎ涙だわ。
こうして二人に振り回されつつ、何だかんだ救われているんだな、私。
「はぁ、依存しちゃいそう」
「え、俺と結婚したい?」
「どこを聞き間違えた」
「ダメだよ、姫様は私と結婚するんだからぁ」
「イリス、あんたはいつまで胸揉んでるの。むしろいつから揉んでた!」
「はぁ、この弾力、大きさ、たまんなすぎるよ姫様」
「ハァハァすんな!」
離しなさい!と腕を振りほどこうとした瞬間。
──バリン!!!!
何もないはずの空気中にヒビが現れ、それは突然弾けた。
あれ、これすんごいデジャブ。しかも記憶に新しい。
ひび割れた先に見えるのは、これまた予想通りのフゥちゃんだった。レイビーが苛立った様子で深いため息を吐き、そして大きく吸い込んだ。
「またお前か!邪魔ばかりしやがって!」
「それはこっちのセリフですわ!お前さん!」
フゥちゃんも負けじと苛立ちを隠すことなく叫ぶ。レイビーとフゥちゃん、思った以上に相性が悪いわ、これ。




