光属性2
名前も知らぬピチピチスーツのセクシー先生は─というか、授業の前に名乗りなさいよって話だけど─外見の濃厚さに反して、わりとあっさりした授業だった。抑揚がなく淡々と発する声は、眠気を誘いやすいのかと思いきや、そこは目の覚めるようなボディーのおかげで回避できた。
一つ一つの内容に深く入りこむことなく、それがかえって理解のしやすさに繋がったのかもしれない。うん、この人の授業は分かりやすい。外見さえ当たり障りなくしてくれれば。
「この世界には様々な国、そして種族が存在しています。シルベニアにいる精霊のように、人と共存しながら生きている種族もいれば、それを望まない種族もいます。例えばエルフやドワーフは、我々とは比較的友好な関係と言えるでしょう。まだ珍しいことではありますが、最近では人間とエルフ、または人間とドワーフが夫婦となっているケースもあります」
その言葉に少し視線を動かす。ここカルヴィナータは、人間が魔法を学ぶために設立された学園であり、どうやら種族ごとに学ぶ場所や環境が違うみたいだ。けれど、この教室に1人、耳の尖った美少女──絶対エルフだろって分かるくらい独特なオーラを纏った子がいる。彼女はきっと、人間とエルフのハーフなんだろう。あとでお近づきになりたいなぁ。……耳触ったら怒るかな?思わず食指が動く。
「そして、人との共存を望まない種族──まぁ我々も望んではいませんが、その代表といえるのが魔族です」
魔族。その言葉を聞いて、思わず背筋をピンと伸ばした。もしかして───。
「ユニハザール。魔族が暮らし、我々が決して足を踏み入れてはいけない国です」
きた!フゥちゃんが言っていた。シーはユニハザールの王だ、って。ここで何かシーちゃんの情報が聞けるかもしれない。自然とゆるむ口角を、思案げに口元へ手を運び隠す。
真っ白でふわふわな犬のフゥちゃんとは正反対の、真っ黒でサラサラな猫のシーちゃん。物静かで落ち着きがあるけど、人一倍警戒心が強く、なかなか心を開かなかった。だけど本当は優しくて、寂しい時はいつも寄り添ってくれた。そんな温かい日々を思い出す。
「ユニハザールは我々の常識が全く通用しない国であり、道徳的な話──そうですね、例えば、無闇に殺してはいけない、物を奪ってはいけない、──そのような子供でも分かるような社会のルールを持ち合わせていません」
つまり、無闇に殺してもいいし、略奪もアリってことか。いかにも魔族っぽい印象だ。そんな一族の王があの美しい黒猫だなんて、全く想像がつかない。
「彼らは気分次第ですれ違う者を突然襲い、欲しい物があれば誰かの所有物であろうと奪います。彼らとしては、奪われる方が悪いのです」
確かに、と隣から聞こえた囁きは、きっと私以外の誰にも聞こえなかっただろう。よって、私も聞こえなかったこととする。先生の話は尚続いた。この人魔族に対してやたら熱弁するな。
「恐ろしい魔族の頂点に立つのは、言うまでもありませんね。そうです、魔王シークハラン」
身震いをしたのは、先生だけではなかった。魔王の名前が出た瞬間、空気が冷たくなる感覚がした。10人、15人……いや、20人以上は顔が青ざめている。平然としていた者を数える方が早い。
「現魔王は君臨して30年ほどとまだ日が浅いですが、驚くべきはその魔力量。全ての魔族を支配した歴代最強といわれる初代魔王のアルガデル、それに匹敵する力を持つと言われています」
誰かがごくりと唾を飲み込む音がした。
「けれど心配はいりません。全てを飲み込む闇属性には、対抗できる力があるのです」
「光属性ですか?」
「その通りです!」
生徒が声を発したことに咎めることなく応じたのは、初めてかもしれない。だんだんと先生に熱が篭るのが見て取れた。
「闇属性に対抗できるのは光属性のみ。そして近々、光属性を持つ生徒が入学することが決定しています」
!!!
これには教室内がざわついた。私の心もざわつく。
きた、きたぞ、光属性が。ヒロインといえば光属性でしょ。
物語が動き始める予感がした。いや、予感しかしない。




