光属性1
魔法に関する授業は、私の期待を遥かに上回る面白さだった。元々この世界は魔力の開花が遅く、ここにいる皆が等しく初心者である。それこそ子供が足し算やひらがなを教わるように、基本から学ばせてもらえていると思う。
幸いにもレイビーとイリスは授業態度は真面目なのか、今のところ二人へのツッコミで授業に集中ができない、なんていう事態はなさそうだ。
魔法の間違った使い方がいかに危険であるか、そして魔力が開花していない者に魔術を教えてはいけないという法律があることも知った。お母様を含めうちに何人か魔力持ちがいるが、魔法は見せてくれてもやり方は一切教えてくれなかったのはそのためか、とここで納得する。ただのケチではなかったのか……。
授業は午前中に座学3時間、午後に実技3時間といった具合で、2年生はその反対となる。3年になると別の敷地で学ぶことになり、それぞれ得意なものや目指す職に合わせて専門的に学んでいくようだ。つまり、2年が終わるまでには自分の進路を決めなければいけない、ということになる。進路、ね──。公爵令嬢って仕事とかするのかな?
「本日は魔法史についてお話していきたいと思います」
これまた王道のような女性教師が教壇に立つ。体のラインが分かるようなピッタリとしたスーツ、短いタイトスカートからすらりと伸びた足、スーツで隠された部分はほどよい肉付きで異性を煽るような体型をしている。そして赤い縁のメガネに、口元のホクロ。実にけしからん。ほら、男子生徒なんて聴力は捨てて全力で視力に集中してる。
ちらりとレイビーを見れば、まるで興味がないという様子で授業を受けていた。そして私と視線が合った瞬間、ゆるりと目を細め片方の口角を上げる。うん、あの先生よりレイビーの方が断然セクシーだわ。なんだよ、そのフェロモンは。
見ていたことがバレて恥ずかしくなり、慌てて教壇へ視線を戻した。
今日の授業は、魔法史か。魔法史──確かマンドリル学園長が入学してすぐやるって言っていたけど、これのことかな。
「魔法の歴史は大変長く、そして奥深いものです。今回は魔法史を学ぶ上で重要な聖獣について学んでいきましょう。世界史入門の15ページを見てください」
ビンゴ。
「皆さんはすでに属性検査を終えているため、自身の属性はご存知ですね?例外を除き、属性検査では火、水、風、地、空の5つに分けられます」
「例外とは?」
一人の生徒が声をあげる。先生は開いていた唇を閉じ、発言した生徒を見た。その目は決して温かいとは言えない。どちらかといえば、鬼のような形相だ。いや、どちらかといわなくても鬼 だ。教室の空気が一気に冷めていくのが分かった。
「ガキの分際で私の話に口を挟むな。説明するには順序ってもんがあるんだよ。鼻の下伸ばしてる暇があんならとっとと15ページ開け」
…………。声低っ。
教室が静寂に包まれたことは、言うまでもなかろう。
クセ強い人しか採用しないんか、ここの学園は。
「コホン、では15ページのイラストを見てみましょう。このイラストに描かれている獣達が聖獣です」
何事もなかったかのように再開したよ。このあとは誰一人、先生の話を遮る者はいなかった。
火の聖獣、不死鳥。
風の聖獣、麒麟。
空の聖獣、ドラゴン。
地の聖獣、ケルベロス。
水の聖獣、マーメイド。
これらが聖獣だそうだ。なるほど、頭が3つに見えたあの犬って、ブレてた残像じゃなくてケルベロスだったのか。確かにどれも伝説の生き物っぽい。これもソウシが考えたのかしら。今度手紙で聞いてみよう。
「聖獣は、我々の前に姿を見せることはありません。しかし、主と認めた者の前に現れることがあります。最初は属性検査の時と言われており、最近ですと200年ほど前にケルベロスを召還した生徒がいました。その者は卒業後、地の聖獣と共に我々人類が住むための豊かな土地を増やしました」
なるほど……地の聖獣は土地を増やすことができるのか。ケルベロスは私の前にも姿を見せた。それなら、つまり私も同じことができるようになるってことか。きっと他の聖獣も、それぞれできることがあるんだろう。なんだろう、めっちゃ気になる。
「ちなみに、他の聖獣は1000年以上現れたことがないため、詳細は分かっておりません。どのような姿をしているのかさえ、もはやお伽噺のようなレベルです。ですが、どうやら実在したようですね」
ん?今先生と目が合った?
瞬きをしてもう一度見たけど、気のせいだったのか……もう先生はこちらを見ていなかった。
「みなさんに聖獣に関してお伝えすることができるのは、これくらいでしょう。一般的には聖獣は伝説のままであり、みなさんが詳しく学ぶ必要のないことです。聖獣に選ばれた者のみ知るべきことですので、次は我々人間以外の種族についてお話します」
聖獣に選ばれた者──私はまだ知るべきことがあるのか。
というか、人間以外に種族とかあるの?ソウシは一体この世界をどうしようと……いや、何も考えてなかっただろうな、あいつ。きっとソウシの夢がてんこ盛りに詰まった世界なんだろう。
思わず口角が上がってしまった。




