賑やかな朝1
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
お願い。
何か喋ってぇ~!!!
遡ること──というほどでもない、ほんの数分前。
*
「ん……」
ナディアがカーテンを開けたのだろうか、部屋に眩しい光が差した。突然の陽光に思わず眉を寄せ、開きかけた瞼を反射的に閉ざす。
どうやら、今度こそ本当に朝が来たようだ。私は大きく伸びをしようと腕を上げた。
「んぅ~。…………って、え?………………は!?」
驚きのあまり、バンザイをした状態で固まる。え、なんで?
「なんでここに、ロイが……?」
枕元にロイの姿が……いやそこは幽霊の立ち位置でしょ。
「おはよう、マナリエル」
うわぁ~朝から爽やかな笑顔が眩しい!イケメンは太陽よりも輝けるのか……って違う!よく見て!目映いほどのキラキラスマイルをしているロイの背中を!背後から禍々しい真っ黒なオーラが見え隠れ──いや、全く隠れていないけど──これは誰が見ても分かるぞ……ロイ王子はお怒りだ。
「お、おはようございます?」
何で怒ってるのか分からないけど、とりあえず基本の挨拶はしておいた。それが正しかったのかは分からない。ロイは変わらず爽やかスマイル~背後に暗黒オーラを添えて~をキープしている。
「おはようマナリエル。昨夜はよく眠れたかな?」
「え?ええ、まぁ……はい。………………………あ」
ようやくロイが言わんとすることを理解した。
両サイドには、すやすやと眠る2匹のペット──もとい2人がいる。フゥちゃんだけなら、まだよかっただろう。問題はこっちだな。仮にも婚約者が他の男と寝るなんて……いや、寝るって本当に寝ただけで、やましいことは何もないんだけど……あぁ、でも同じベッドで寝るだけでもアウトか。そりゃそうですよね。
「えっと……ごめんなさい?」
「マナリエル様、そこで疑問系は望ましくありません」
すぐナディアに突っ込まれた。そ、そうか……そうだよね。案の定、誠意のない謝罪でロイの暗黒オーラが浄化されるはずもなく、ゴゴゴゴ──なんて雷鳴のような響きさえ聞こえる気がした。そんな状態でアイドルも霞むほどの美しい笑顔を保てるんだから、侮りがたし、本物の王子様。
さて。挨拶もした、謝罪もした、残るは言い訳かしら。ロイに言い訳が通用するか?そもそも言い訳する必要ある?いっそ開き直って──いや、それは最悪の選択肢だな。そのまま破滅エンドに進みそうだわ。やっぱりここは言い訳を聞いてもらおう。
でもその前に──。
「私のこと主人だと思ってるなら、この状況で爆睡はやめなさい!」
察知して!主人のピンチを!そう願いをこめて、両サイドで健やかに眠る二人を起こした。
「あ、ちょ、まっ、姫さ──起きた、起きました!」
もちろんレイビーは激しめに揺する。そもそもお前が夜中に忍び込んで来たことが原因なんだよ!
「んぅ……あ、マナ様だぁ~♥️」
「おはよう、フゥちゃん♥️」
フゥちゃんには、もちろん優しく起こす。昔よくしていたように、頭や背中を撫でてやると、気持ち良さそうに伸びていた。はぁ、可愛い。
「あれ、何で王子様が?ここは男子禁制のはずですよ」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ」
すっとぼけたレイビーの発言のせいで、ロイの声がワントーン下がった。同時に室温も下がったんじゃないのかしら。ホントやめて。これ以上怒らせんなよ。レイビーを睨んでみるけど、彼の目は私を見ることはなく、すでに男二人で火花を散らしているようだった。
「君は見たことがないね。学園の生徒ではないのかな?」
「最近入学しました。姫様と誕生日が同じなのでね」
「姫様?もしかしてマナリエルのことかい?」
ぴくりとロイの眉が上がる。それでも故意か過失か、レイビーはぐいと私を抱き寄せた。
「俺にとっては、姫様は世界で一人だけですよ。やっぱり王子様には色んなお姫様がいるもんなんですかね」
ちょ、レイビー!なんでケンカ打ってんの!?見なさいよ、ロイの顔!めっっっっっちゃキレてるよ!?見りゃ分かるだろ!!『刺激するな、危険』って張り紙貼ってあるようなもんでしょ!ロイはもはや、ブラックホールを発生させそうなほどオーラが黒い。
「その手を離してくれるかな」
「イヤですね」
「分かった、言い方を変えるよ。離せ」
「断るっつってんだろ」
デジャブだわ、これ。何なん?これ恋愛イベントなの?私を巡って争うイベントなの?そういうのはヒロイン相手にやってくれ!
この寝起き数分で、今日1日のHPを使い果たした気分だわ。




