二人の正体4
結局アサシンについては謎に包まれたまま、一つの情報も得ることはできなかった。正直拍子抜けだ。
「なによ、事が事とか言ってたくせに」
教える気ないじゃん。じとりと睨め付けると、レイビーは心外だとばかりに眉をひそめた。
「いや、俺が聞いて欲しいのはアサシンの実態じゃなくて、俺達が姫様を護衛することになった経緯なんですよ。いや、もうこの際そこらへんもすっ飛ばしていいんで、現在のあなたの立場を理解して欲しいんです」
「立場?」
繰り返せば、レイビーは頷いた後短く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。ピリッとした妙な緊迫感が周囲を包み、思わず息を飲む。どうでもいいから早く言ってくれ。こういう時間は苦手なのよ。
しばらくして意を決したのか、レイビーが顔を上げた。
「単刀直入に言いますと、姫様は命を狙われています」
「アサシンから?……あ、ちょっと待ってその顔。分かった、分かりました。黙ってるから全部言い切っちゃって」
「……もう俺がハイと言うまで声出さないでください」
先程よりも若干低くなった声に、大人しく手で口を押さえてコクコクと頷いた。ヤバイヤバイ、これ以上はからかうのはやめておこう。
「姫様は、自分がどういう存在で、現在どういう立場なのか分かりますか?」
………。
いや、黙ってろって言ったそばからのクエスチョン。どうしろと。声を出すなと言った本人はそれを忘れているのか、真剣な眼差しで疑問を投げかけている。バカだ。10秒前の発言くらい覚えてなさいよ。レイビーがまともなイケメンだと思ったあの瞬間の自分を殴りたい。
バカはさておき。存在……立場……その言葉には些か関心を覚えた。私自身、悪役令嬢なのだろうと自覚したものの、やはり心のどこかで「そんなこと言いつつ、何だかんだヒロインなんじゃなーい?」なんてご都合主義な思考が消えないのだ。いつだって自分の人生の主役は自分であることは当然だけど、ついでに世界の主役も自分ではないかと思ってしまう人は少なくないだろう。もれなく、私がそれだ。世間ではこれを「調子に乗る」というのだろう。そして大失態をやらかして、世界から見た自分がいかにちっぽけな存在かということを思い知るのだろう。私がそれだ。
黙っていろと言われたことに加え、この世界での立ち位置に悩んでいる状態なので、今回は首を傾げるだけに留めた。正しく伝わったのかは疑問だが、レイビーはそれを見てこくりと頷いた。
「姫様は聖獣をよみがえらせました」
これは身に覚えがあるから、今度は私がこくりと頷く。
「もう説明があったと思いますが、聖獣を召還できる者は数百年に一度現れると言われています」
これにも、こくりと頷く。確か学園長が物凄い勢いで語っていた中のフレーズにあった気がする。覚えてないけど。
「世界が変わる時、王の元に聖獣来る」
ふいにイリスがそう呟いた。
「世界が……なに?王?」
「あれ?逆だっけ?王の元に聖獣来る時、世界が変わる、だっけ?」
「いや、待てイリス。世界が終わるじゃなかったか?」
「そうだっけ?そこらへんあんま覚えてないんだよね」
「俺も」
あははははと楽しそうに笑うレイビーとイリス。この二人、説明する気あるのか?いや、ないだろ。
言ってる意味は果てしなく理解不能だが、つまり私は王ってことでいいのかな?
「まぁそこらへんはいいとして、アサシンは代々その王を守る役目を担っているんです。そして俺とイリスは、あなたを守るために生まれました」
「守るために生まれたって、どういうこと?」
「え、そのままの意味ですけど」
「え、だからそれがどういう……え?あんた達、私を守るために生まれたの?」
「はい、そうですけど」
そんな『当たり前のこと何聞いてんだこいつ』みたいな顔されても。思考が追い付かんわ。私がいまいち理解できていないことを察知したのか、レイビーが言葉を探すように唸った。
「んー、俺達にとっては当たり前なんですけど……そうですね。アサシンの中でも俺達は少し特殊で、人からは生まれていないんですよ。いません?木から生まれるやつ」
「いねーよ」
思わず突っ込んでしまった。いや、今まで出会った人全員に「どうやって生まれたの?」なんて確認していないから、いないとは言い切れないけど……それでも、ナディアのあの表情からして、多分いないんだろう。
「まぁ木から生まれるのはアサシンの中でも俺達だけなんで、世間的にも珍しいのかもしれませんね」
「でしょうね」
「アサシンの住む地には、生命の木があります。何百万年と生きている木らしいんですけど、王が誕生するのと同時期に、その方を守るための命を生み出します。それが俺達です。分かります?」
「未知すぎて想像がつかないけど、まぁ言ってることは理解した」
そう言えば、レイビーは満足して笑った。
「では、続けますね」
レイビーの話を理解するためには、自分の中の常識を一旦捨て去る必要がありそうだな。




