二人の正体2
「つまり、こう言うことだ。暗殺者として誰かから依頼を受けて、私を暗殺するために近付いた──と」
「──と、じゃないです。護衛だっつってんでしょ、姫様。逆ですよ、逆」
「ナディアが暗殺者って言ったもん」
護衛と言われるより、暗殺者と言われた方が納得がいく。レイビーとイリスから漂うオーラは、騎士であるルジークのそれとは全く別物だ。何かを守ろうとする意思が感じられない。
「ナディアが嘘ついてるって言うの?」
「いや、ナディアの姉貴は間違ってませんよ。俺達は確かにアサシンの一族です」
「じゃぁ暗殺者が護衛ってどういうことやねん。て、一族で暗殺家業してるの?え、私死ぬの!?」
「だーかーらー」
ムキになったレイビーが思わず立ち上がる。
「姫様は殺しませんし、死にません!死なせないために俺達が来たんです!何ですか、姫様の理解力の低さは!」
「いきなり知らない人間が現れて『どーも、暗殺者です。今からお守りしますね♪』とか言われてハイそうですかと近くに置けるわけないでしょ!気付いたら首飛んでそうで怖いわ!」
「アサシンが護衛につくことがどういうことか分かってんのか!お前死ぬぞ!」
「そりゃ死ぬかもね!あんた達が殺しに来たんだから!」
「俺はお前を絶対に死なせねぇ!」
「えっ」
「お前をこの命に代えても守るって決めたからここにいるんだよ!」
とぅんく。
怒鳴り合いからの愛の告白のようなフレーズに、思わず声が詰まった。やだ、乙女ゲームみたいな展開。もしこれがゲームなら、こんなイケメンがこんな美声でこんなセリフ言っちゃったら、レイビー推しのレディが爆誕することだろう。
でも、でもね。
「私お前って言われるの、すっげー嫌いなの」
私の推しにはならなさそうだ。
しばらくの間レイビーと向かい合い、お互い火花を飛ばす。
分かってはいる。レイビーとイリスは私を殺すつもりはない。本気で殺すつもりなら、わざわざ顔を見せる必要もないだろう。きっと私にも誰にも姿を見せることなく、一瞬で仕留められる。それくらい強く、また私に足りない場数というものを踏んでいるはずだ。
二人とも、私の力量が分からないほど愚かではない。経験不足とはいえ、武器さえ手にすれば簡単には殺れない相手ということは承知しているはず。そういう相手なら、もし私だったらこのような会い方はしない。
分かってはいるけど、それでも前世とは全く違い、魔法やら剣やら所謂殺傷能力抜群の道具が身近に存在し、かつ暗殺者なんて職業もあるような世界で、誰と共にいるかは重要な選択だ。
私は昔から人を見る目はあると自負しているし、レイビーとイリスはその辺りは心配ないと思っている。納得のいく、というか、理解できるように説明してほしい。それだけだ。レイビーは視線を反らし考えるように目を瞑って唸り、頭を掻いた。どうやら言葉を探してくれているようだ。
「俺達、殺すのは得意ですけど、あんま頭使うのは得意じゃないんですよね。んー、ちょっと分かりにくいかもしれませんが、俺達の一族のこと知らないみたいなんで、少し説明してもいいですか?」
「はいどうぞ、最初からそうしてくれよ」
「っとに、何でそんな可愛げのな……くそっ、可愛い!」
目を細めて呆れたようにこちらを見たけど、なぜか悔しそうに両手で顔を隠したレイビー。しばらく呼吸をして落ち着いたのか、改めてこちらを向いた。
「いいですか、まず初めに、アサシン一族について話しますね。アサシン一族は、名前の通り暗殺を生業にしていた一族です。もちろんその一族に生まれた者は皆、幼い頃から人を殺すために必要な技術を学びます」
「幼い頃から……どんなことするの?」
「そうですね…例えば子供はまだ魔力がありませんから、見つからずに隠れる練習とか」
「忍者じゃん」
「あとは毒耐性の訓練は早いうちから始めますね。少量から少しずつ慣らしてかないといけないんで」
「忍者じゃん」
「にんじゃ?まぁ、暗殺ってのは正常な精神でできることじゃないんで、精神壊すことも修行としてありますね。拷問耐性とか。解剖とか。んー、修行で姫様に言える内容は少ないかもしれませんね。多分耐えられないですよ、聞くの」
「あ、いいです言わなくて。想像しただけで吐ける」
そういうリアルというか、グロテスクというか、苦手なのよ私は。ホラーより怖いわ。
質問を変えようと一息ついたところで、ふと視界の片隅にうつる二人に気が付いた。ナディアとイリスだ。見れば、ナディアがロープのようなものを持ち、イリスの体に巻いている。
「何してんの、ナディア」
「ああ、いえ。こちらの方はマナリエル様に近付けるには危険な様子でしたので、拘束しておこうかと」
「それは正しい行動だね、ナディア」
イリスはナディアに縛られているにも関わらず、抵抗する様子もなくキラキラと瞳を輝かせている。
「はぁ、最高だよ。ナディアさんに拘束してもらえるなんて!あ、そこもうちょっとキツめでお願いします」
興奮しているイリスに、汚物でも見るかのように軽蔑した目を向けるナディア。うん、間違ってないよナディア。イリスがどれだけ可愛らしい顔をした女の子でも、もう気持ち悪いとしか思えないよ、私。




