見知らぬ双子2
私は現在、両サイドから満面の笑みを浴びています。
「いやぁ、それにしてもお美しい!」
「惚れ惚れする完成度ですね!」
「このアングル!ひゅーう♪」
「もはや芸術!」
軽い。言葉が軽すぎて街中でナンパに出くわしたような感覚だ。されたことないけど、ナンパ。美人な友達目当てで声をかけられたことはあるけど。……何か?
レイビーもイリスも叫び出しそうな勢いだが、それなりに抑えた声量で騒いでいる……つもりなんだろうけど、さすがに耳元でやられるのはうるさいって分かってんのかな、この二人。
「ちょっと静かにしてくれる?」
幸いにも他の生徒との距離はそれほど近くなかったので、聞こえない程度の音量で話す。
「いやぁ、すみません、こんなに近くで見たのは初めてだったもので」
照れ臭そうに頭をかくレイビー。
「あのお慕いし続けていたプリンセスが目の前にいるってなれば、そりゃ浮かれてしまいますわ!」
イリスがフンフンと鼻を鳴らす。こんな可愛い子が鼻息荒くして……ってよく見たら、この子さりげなく私の匂いを嗅いでるわ。え、ちょっと引く。身の危険を感じ、少しだけ体を傾けて距離を取ることにした。
そんなことより、二人には聞きたいことがあるんだよね。
「あなた達、走って学園まで馬車を追ってた二人でしょ」
「「!!」」
ビンゴ。途端に空気が変わった。やっぱりあの忍者か。さっきからヘラヘラヘラヘラしているけど、和やかな空気を作りながらも周囲への警戒を怠らない。弛んだ様子を見せながらも、大事な1本の糸だけはピンと張らせたまま。その糸は恐ろしく冷たく、決して触れてはいけないように感じた。触れようとする者は、多分殺される。これは勘じゃなくて、多分本能。
「おかしいなー。普通の人には気付かれたことないのに」
当の本人達はケロッとしてるけど……。
「二人とも……何者なの?」
正直こえーです。
「ちょ、ちょっと姫様!そんな警戒しないでくださいよ!」
レイビーが慌てて両手を振る。いや、警戒するなと言っても、バリバリ現役の暗殺者みたいなオーラ出してる二人に挟まれてリラックスできるわけがない。言うなれば、虎に囲まれた豚だ。エサになった気分だよ。
「私、食べても美味しくアリマセンヨ」
「いえいえ!とんでもなく美味しそうですよ」
背後からイリスの細い腕がするりと伸びる。その腕はローブの中に侵入して見えないが、お腹を抱き寄せられていた。
「はぁ、細くて柔らかくて最高の抱き心地」
そう言ってイリスは抱きしめたまま、さわさわと私を撫で回し──って、ねぇ、胸揉まれてない?私。
思わず思考が停止した。こういう時ってどうすればいいの?女子校とかだとよくある光景?いやでも同性のセクハラとかもあるよね?これどっち?友情?セクハラ?
もみもみもみ。くんくんくん。
「はぁ…やば。興奮してきゃう」
「おまわりさーーーーん!!!!!!」
危険な香りマックス!友情はそんな舌舐めずりしない!間違いない!こいつ変態だ!女だからと言って油断してはいけない!
「おいイリス、お前いい加減に──って……は?」
イリスの腕を離そうとしたレイビーが、突然固まった。目を丸くして、私を凝視している。いや、目は合ってない。
「な、何?」
目線の先を辿ると、そこにはローブからちらりと例のアレが見えていた。
そう、ロイにつけられたシルベニアのエンブレムが。
「なんだよこれ!!」
この叫びは、声量が抑えられることもなく教室全体に響き渡った。突然の大声に他の生徒達から注目が集まる。そして、気付いた一人の生徒が立ち上がる。
「あ、あれは!シルベニアのエンブレム!?」
悲鳴にも似たその声で、教室のざわつきが最大になる。
「あれは、王族の、しかも王太子にしか使えない……つまり、ロイ様が!?」
「じゃぁ、あの方は、ロイ様の!?」
「でも、ロイ様に婚約者がいるなんて話……!」
そんなに人数が多くない教室内が、こんなにもざわめいている。まぁそうだよね、エンブレムだもんね。やっぱりみんな、このシステム知ってるんだ。あぁ、めんどくさいことになりそう。
「何これ!?どういうこと!?」
もみもみを堪能していたイリスも驚いて立ち上がり、私の服をぐいと広げて鎖骨を露にした。イリス、こんなに可愛いのに、すごい豪快な子なんだよなぁ。もはや抵抗は諦めた。
「いつですか姫様!?いつ契約を交わしたのですか!」
詰め寄り方の激しさよ。あ、ちょっと待って揺すらないで。頭、頭揺れる目が回る。無理、おえ。
「はっ!」
何かに気付いたように、イリスが口を手で押さえた。
「ま、まさか……無理矢理」
「くそ!あいつ!」
心底悔しそうに叫びながら、レイビーが机に拳を叩きつけた。
おい、なんだこの茶番は。しかも今、小さく「殺してやる」って聞こえたけど。やだもうおうち帰りたい。