門番2
「ナディア、主人がこれから過ごす場でその行動は正しくないね。攻撃だけでは守れないものがあることを知っておくべきだ」
「申し訳ありません……」
ロイの言葉に、ナディアは萎れたようにナイフを納めた。
「マナリエルも」
ぎくり。気配を消そうと企む私に構わず近付いてくるロイ。距離が縮まる度に冷や汗の量も増していく。正面に向かい合った時、私の目は居場所を失ったように泳ぎ回っていた。
「ナディアをけしかけるのは感心しないね。それでナディアがケガをしたらどうするんだい?」
「……ナディアは強いもん」
小さく呟いてみても、ロイは笑顔をキープしたまま。反省してねぇなこいつ、って思ってる顔だな、これは。ロイは脳内の引き出しを漁るように言葉を探していたけど、すぐにそれらを全てため息と共に吐き出した。どうやら諦めたようだ。
「シビルレマウス先生は剣の達人だよ。もちろんナディアよりもね」
「痺れる……何だって?」
「シビルレマウス先生、だね」
1文字ずつ強調して伝えるロイ。
「シビルレマウス……って、まさかあの伝説の掃除屋!?」
突然ナディアが目を大きく開いて驚く。
「え、ジジイ起きてるよ?」
「違います、眠る人ではなく掃除屋と言ったのです」
ほほう。
「つまり、鳩のジジイは痺れる眠り人ってことですかね」
「何もつまってねぇな」
「この場合って、鳩ジィとシビちゃんとどっちにするべきなんだろう……」
真剣に悩む私をよそに、「こいついつもこんななのか?」とロイに問いかける失礼なジジイ。それに対して「これがマナリエルですよ」と笑顔で答えるロイも大概だけど。その後ロイは「愛らしいでしょう?」とか聞いているけど、知ってる?頷いてるのナディアだけだからね。
「お前が迎えに来たってことは、こいつがそうなんだろ?」
「はい」
頭を掻きながらの質問に、輝く笑顔を見せるロイ。
「いや……まさかこの国の王子様の婚約者がこいつとはね」
「お?なんだ、文句あんのか。やんのかポッポ先生。やんのか?ていうか、むしろやろう!早くやろう!」
「なんだ急に!?しかもなんだよポッポ先生って!」
「鳩ジィじゃ、ちょっと渋すぎて可哀想かなって。仮にも先生みたいだし、失礼じゃん?」
「その思考があって、なぜポッポ先生を採用した」
私の気迫におされて数歩下がるポッポ先生。
「ねぇ、強いんでしょう?やろう!」
「やるったって、何を」
「そんなの決まってるでし──「さぁ行くよ、お姫様」─え、あ、ちょ、ロイ!?」
膝裏に何かが当たる感触がしたかと思えば、足が地面から離れ、気付けばロイの腕の中。王子様にお姫様抱っこをされている。夢見る乙女ならヨダレもんのシチュエーションだけどね。
でもこれ、お姫様抱っこという名の強制連行だから。ロイは駄々っ子を抱き上げ「さ、もう帰りますよ」とスタスタ帰路に向かう母親のように、よく私を抱き上げてはその場から離脱させる。
「待って、ロイ。まさかこのまま学園へ行くつもり?」
「もちろん」
「いや、おろしてよ!」
こんな格好で入学を果たした日には、それこそ女子生徒からの視線が怖い。翌日には机上に花が!?体操服が隠されるとか!?もしくは上靴に画鋲!?いや、この世界は体操服も上靴もないか……。みんなどうやってイジメるんだろう……。まさか、ここでもう火炙りフラグが!?こっわ!こっわ!
ダメよ、落ち着きなさいマナリエル。私は悪役公爵令嬢よ。悪役がオロオロしてたら、それこそ負けてしまうじゃない。悪役は悪役らしく堂々としなければ。大丈夫、顔はキレイに生んでもらえたんだから、迫力は作れるのよ。
「マナリエル様、百面相してますけど……」
ロイの後ろを控えめに歩くナディアが心配そうに私を見るけど、ロイは歩みを止めることなく、楽しそうに笑っていた。
「きっと色んな思いを馳せているんだろうね。だいたいは的外れなことだから、好きに考えさせてあげとこう」
「私は悪役……迫力大事……」
こうして、私の入学は「王子に抱き上げられ尚、それが当然のように堂々たる態度で腕に抱かれていたすごい美女がいた」と尊敬や羨望、恐怖や嫉妬など様々な感情を添えながら学園中に広まった。




