令嬢の呟き【episodeシャルロッタ】
シャルロッタ・スラスター。私を知らない者はこの学園にはいない。その言葉が自意識過剰でも何でもないと断言できるのは、この美貌、権力、そして魔力があるから。
スラスター家はサネルという由緒正しき魔法使いの一族で、シルベニア王家直属の魔術師として活躍している者も数多くいる。そのサネルのトップに君臨する父を持つ私は、例に漏れず圧倒的な魔力、センスを備えて生を受けた。
サネルの血は、黒髪が深ければ深いほど血が濃いとされ、闇のような黒を持つ私はサネルの至宝として、それはそれは大切に育てられてきた。
けれど、何も知らない我儘なお姫様に育つほど甘やかされてきたわけではない。サネルの至宝として恥じぬよう、ありとあらゆる勉学に励んできた。それこそ血の滲むような努力をして、今ここに胸を張って立っているのよ。
媚び諂う間抜けな顔した大人、美貌や権力に妬む女、ただの負け犬男──くだらない人間ばかり。
媚びる前にやれることがあるでしょう。
妬む前にやれることがあるでしょう。
吠える前にやれることがあるでしょう。
下からは何を言っても響かないわ。それなら同じ土俵まで上がってきなさいよ。なんて、言ってあげないけど。
私はまだ上へ行くの。下に構っている暇なんてないのよ。
今朝もまた羨望や嫉妬が入り交じる視線を浴びながら、友と呼べるのか分からない者達を引き連れて学園へ向かっていた。
「そういえばシャルロッタ様、本日は特別な者が入学するそうですわ」
右側にいるハレンがそう告げた。ハレンは噂や情報を集めることが好きな、チェナウン家の一人娘だ。お高くとまっている割には品のない趣向だと思うけれど、それが中々役に立つ。そしてチェナウン家は格下ながらも、シルベニアにおいて高位の血統にあたる。繋がっておいて損はしない娘だ。
「あら、誰ですの?」
さほど興味はないが、とりあえず素振りをしておいた。それが嬉しかったのか、ハレンは高揚した様子で一歩距離を縮めた。
「それが、あのリリー様のご息女のようですわ」
思わず歩みを止める。リリー・カルティア。いえ、今はリリー・ユーキラスだったわね。カルティア家は我がスラスター家と肩を並べる優秀な魔法一族。周囲から比べられることも多く、必然的にライバルのような競い合う関係となっていた。
そしてリリー様にも娘がいると知ってから、お母様は執拗に私とその名前も知らぬ娘を比べるようになっていった。
『シャルロッタ、あなたはとても優秀だわ。ええ、ええ、リリーの娘より遥かに』
『こんな美しい子、リリーには生めないでしょうね。今回は圧倒的に我々スラスターの勝利ね』
そんなことを言っては高笑いするお母様を、私はどうしても好きになれなかった。なぜなら、お母様は圧倒的にリリー様に負けているから。
一度お目にかかったことのある女性。とてもお母様と近い年齢には見えず、人形のように愛らしい方だった。愛らしく微笑み、愛らしく手を振る。まるで老いる術を持たぬかのように、彼女は可愛らしく存在していた。きっとお母様は彼女と比べられ、嫉妬にまみれて生きてきたのね。彼女を見るお母様の顔は全てを物語っていた。
お母様だって、決して醜くはない。むしろ十分美しい顔立ちをしている。やはり表情だと、私は思っている。
表情、それは年を重ねれば重ねるほど、人生や思考が映し出されるものよ。美しい母が美しくいられないのは、その心が原因なのだろう。
我が母ながら、なんて愚かな。せっかくの権力、美貌を兼ね備えて生まれたにも関わらず、それを負の感情によって台無しにしてしまうなんて、私のまわりに群がる者達と同じところまで堕ちたも同然。
闇の黒髪を持つ私は美しい。それは紛れもない事実。
けれど、私はあのお方の娘と自分を比べることなどしない。嫉妬は人を下げてしまうもの。
「リリー様のご息女とあれば、とても可愛らしい方でしょうね」
これは本音。彼女の娘が美しくないわけがない。けれど予想外の反応だったのか、ハレンは拍子抜けした様子だった。
「まぁ、そうかもしれませんが……」
「それとも、私とリリー様のご息女が争うことをお望みかしら?」
「いえ!そんなことは決して!」
図星を指摘され、ハレンは慌てて両手を振って否定した。
「入学するなら、いずれすれ違うこともありましょう。わざわざ見に行く必要もありませんわ」
「シャルロッタ様、参りましょう」
左側にいたケイティが促し、それに従い私は歩みを進めた。ハレンはしばらく思考が停止していたのか、我に返り慌てて追いかけてきた。
リリー様のご息女。貴族の令嬢は、社交界デビューの前にあまりお披露目をする機会はない。そのため、この学園への入学で世に知れ渡る形となる。きっと注目をしている者は多くいるだろう。そして、皆の期待を裏切らないデビューを果たすのだろうと、私は確信している。
「仲良くしましょうね」
ぽつりと呟いた声は、誰の耳に届くこともなく空へ消えていった。




