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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はしかし傍観者でいたい
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会いたい【episodeロイ】

 

 星も静まる深い夜。辺りは静寂に包まれ、自らの足音だけがやたらと響く。学園へ向かう道は、マザーガーデンと似ていると感じた。魔力が満たされる場所、つまり精霊が好む場所はこのような所なのだろう。

 学園に入学してから数ヶ月経つものの外出は珍しく、特に夜は特別な許可がなければ出ることは叶わない。その特別な日を魔法で省略するのは勿体なく、未だ慣れない道をゆっくりと歩いた。

 深い森。今夜は風がなく、葉を揺らす音もない。


 しばらく歩き続けていると、優に3メートルを越える門が目の前に現れた。厳かで重厚感があり、これ以上の侵入は許さないとでも言いたげに、異様な威圧感を放っている。学園に入るためにはここを通る以外の道はなく、その砦を守っているのは、たった1人の魔法使い。

 シビルレマウス。見た目は荒れた風貌の男性、よく言えばミステリアスと言えなくもない彼は、気だるげに門付近の段差に腰をかけ、目を瞑っていた。眠ってはいない。けれど少し試したくなって、慎重に一歩一歩距離を縮めていく。


「なめてんのか、王子様よ」


 獣の唸り声のような音が響き、本能的に足は停止した。目の前にある眼光は鈍く、けれど微かに苛立ちを見せている。


「さすがですね、シビルレマウス先生」


 首元にひんやりと当たっているそれに注意を払いながら話す。降参、とでも言うように両手を挙げてみせれば、彼はすぐに剣を降ろした。刃が当たっていた部分に手を当てれば、チクリと痺れが走った。紙で指を切ったような、そんな感覚だ。

 学園内外問わずこのシビルレマウスという男の実力はよく知られている。と同時に、かなりの奇人であることでも有名だ。王子に刃を向け、さらに傷を負わせるなどする人間はそうそういない。だからこそ、俺はこの人が嫌いではなかった。

 彼はこの学園の門番のような役割をしている。魔法使いでもあるが、剣士でもある。そしてどちらも引けを取らない達人クラスと言っても過言ではない。学園に不審な人物が現れないのは、門が立派だから侵入できないのではない。彼がここにいるから、侵入できないのだ。


「俺は教師として学園(ここ)にいるんじゃねぇ、先生はやめろ」


 剣を仕舞いながら、また気だるげに腰をかける。


「私はあなたから学びたいことがたくさんありますよ」


「お前に教えたいことは何一つない」


 ピシャリと言い放つ声に、思わず笑みがこぼれた。その拒絶する言葉に微かな喜びを見つけてしまうのは、もしかしたら俺はMの気があるのかもしれないと、一抹の不安を覚える。


 いや違う、これはマナリエルが原因だろうな。彼女の破天荒な振る舞いが数々と頭上に浮かび、こぼれる笑みは愛しさへ変わった。


「なんだ、惚れた女でも思い出したか」


「あれ、顔に出てました?」


「ふん、ガキが色気づきやがって」


 質問してきた割には、対して興味はなさそうだった。まぁ、人の色恋を楽しく聞くタイプではないだろう。「じゃぁ聞くなよ!」なんてマナリエルの声が聞こえてきそうだ。一度彼女を思い浮かべると、しばらく居座り続けてしまう。彼女ならどうするだろう、何て言うだろう、どんな顔をするだろう、そんなことでいっぱいになる。


 会いたい。先ほどまで一緒に過ごしていたのに、もうそう思わずにはいられなかった。


「惚れた女というか、婚約者なんですけどね。彼女ももうすぐ入学するので、よろしくお願いします」


「王子の婚約者ってことは、どっかのお姫様か。女ってのは面倒だ、特に温室育ちの甘やかされお嬢さんはな……って、何が可笑しい」


 令嬢に嫌悪感を隠さないシビルレマウスに対してか、温室育ちの淑やかなマナリエルを想像したからか、自分でもどちらか分からない笑いが込み上げた。


「いえ、公爵家の令嬢であることは間違いないんですけどね。会えばきっと、先生のイメージは覆ると思いますよ」


「はっ!女なんてどいつも同じだ」


「どこにでもいるような女性なら婚約者に選びませんよ」


 彼女だけは他とは違う。そう断言したくなるのは、やはり惚れた贔屓目なんだろうか。


「ふん、いいから早く部屋に戻れ。俺が伝達しといてやる、事務所は寄らなくていい」


「ありがとうございます。では、お休みなさい」


 頭を下げると、早く行けとでも言いたげに手で追い払った。マナリエルと彼はきっと合う。少し嫉妬してしまいそうだが、誰にでも好かれてしまうのが彼女の魅力だ。それを一人占めする権利は、今の俺にはない。

 これからきっと、学園は今より何倍、何十倍と慌ただしくなるだろう。自分は彼女が彼女らしくいられるよう、見守るだけだ。

 奇人だろうと、変態だろうと、そんなマナリエルを丸ごと愛していることを誇りに思った。


「早くおいで、マナリエル」

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