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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はしかし傍観者でいたい
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婚約破棄2

 

 中庭に出て、二人でベンチに腰をかけた。

 すっかり日が沈み、見上げれば前の世界では見られなかったであろう星空が広がっていた。前世で暮らしていた場所は、決して高層ビルに囲まれたような都会ではなかった。かと言って、山や川に囲まれた田舎というわけでもなく。天気が良ければ星はポツポツと見ることはできた。

 それでも今頭上に広がる星の輝きは、前世で見たそれとは比べ物にならないほど眩しく、ファンタジーな世界に迷いこんだ気持ちにさせられる。


 まるで夢を見ているようで。

 いつか覚めてしまいそうな。

 それでも15年間生きてきた記憶は紛れもなく。

 その相反する感覚に、時折胸がギュッと締め付けられることもあった。そんな時は肺いっぱいに息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。そうすると、不思議と「この地で今、生きているんだ」と強く感じることができた。


 ふいに手に圧を感じて、ロイと手を繋いでいたことを思い出す。見上げた先にあるロイの瞳は何か言いたげで、でも何も言うつもりはなさそうで、覚悟を決めたような、けれど不安を隠しきれず、何とも表現し難い表情を浮かべていた。


「ふふっ、変な顔」


 思わず笑い声を漏らすと、表情が少しだけ和らいだように見えた。握る手も、少し緩んだ気がした。


「マナリエル。君は不思議な人だ」


「え、何が?」


 首を傾げると、ロイはその傾いた頬に優しく触れた。思わずピクリと肩が揺れる。

 自意識過剰ではなく、ロイは絶対に私を粗末に扱わない。婚約者としてなのか、ソウシの姉としてなのか。いや、そもそもロイは女性に対して紳士的なのかもしれない。私だけに限らずね。

 そう考えている間にも、ロイは触れた指先をそっと動かし、するりと頬を撫でた。なんだかくすぐったい。


「君は……自分の魅力をどこまで理解しているんだろうね」


 ロイの表情は優しいはずなのに、瞳がまるで「逃がさない」とでも言いたげに熱を帯びていた。

 この瞳から逃げられる──いや、逃げようとする女性は世界中で何人いるのだろうか。こんなイケメンに熱い視線を送られたら、ほとんどの女性は喜んで全てを捧げてしまうのではないだろうか。


「罪な男ね、ロイは」


 動くだけでスチルができそうな人間は、そうそういないだろう。この世界は恋愛ゲームと混同しているだけあって、特に男性キャラはいちいち顔が整っている。その中でも王子キャラとして存在するロイは、突出したイケメンだ。もう誰もが惚れる王道のイケメンだ。


「マナリエルの方が罪深いと思うけどな」


「まぁね、私もなかなか美人に成長したでしょ?」


 冗談混じりでニカッと笑ってみせると、ロイは「そうだね」と息を漏らして微笑んだ。意外とこの呆れ顔が好きなんだよね。


 横に並んで座り、二人で空を見上げる。心地よい夜風がふわりと髪を揺らした。


「ねぇ、マナリエル」


「んー?」


「好きだよ」


「どうしたの、今さら。私も大好きだよ?」


 またニカッと笑ってみせたけど、ロイの反応は少し違った。笑ってるんだけど、なんか悲しそう。

 あれ?私何か傷付けた?でも好きって言われて大好きって答えるのは、嬉しいはずだよね?ロイのことは、嘘偽りなく大好きだ。めちゃくちゃイケメンだし、ソウシのこと大事にしてくれてるし、私の良き理解者だし、大親友だと思ってる。


 言葉のチョイスを間違えたのかと一人で悶々と考えていると、ふいに影がさした。

 見上げれば、すぐ近くにロイの美しい顔。


「ロイ?」


「ごめん」


「え、」


 どうしたの、と聞こうとした時には、もう唇が塞がれていた。何をされたのか一瞬理解できずに固まったけど、この感触は覚えがありますよ。あれです、キスですね。やば、ロイの唇気持ち良すぎる……なんてうっとりしちゃうほど乙女ではありません。


(オイコラー!!何許可なくチューしとんじゃワレ!!)


 と言おうと思った口は現在開かないため、私の怒りはモゴモゴといった音にななかった。


「むーーー!んーー!!」


 長い!え待って、ちょっと苦しくなってきた。


「むむ!んももむ!(ロイ!死ぬ離して!)」


 すると思いが通じたのか、ふいに唇と唇の間に隙間が生まれた。


「はぁ……っ、ホント苦しいって」


 お互いの目しか見えないんじゃないかってくらいの至近距離。文句を言っても、ロイがどんな表情をしているのか分からなかった。でも、瞳から伝わる熱は冷めていないようだった。


 片手は私の後頭部をがっちりホールドしていて、もう片方の手で耳、首から鎖骨、さらに際どい胸元まで、じらすように撫でてくる。


「ロ、ロイ……ちょっと恥ずかしい」


 思わず身を捩ると、クスリと笑い声が聞こえた気がした。


「可愛い」


 そして舌で唇を舐められ、「あっ」と息を漏らすもすぐにまた唇は重なった。


 待って!ロイエロい!あ、駄洒落みたいになっちゃった。違う違う!

 さすがに恋愛偏差値のない私でも、これが女として求められている行為だと理解した。もはや文句を言う余裕などなく、顔は完全に茹であがっているだろう。

 ロイから受ける濃厚なキスは私にとっては衝撃的で、脳を溶かすんじゃないかというくらい気持ちよく、抵抗する力も尽きて、されるがままとなっていた。


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