突然の魔法2
私の惨事にいち早く反応したのはナディアだった。すぐに大きめのタオルを持ってきて、全身を包んでくれた。
「大丈夫ですか、マナリエル様。どこかお怪我は」
「平気よ。がっつり濡れただけ」
「お身体が冷えてしまいます」
冗談めかして言ってみたけど、ナディアは安堵の息を漏らすことなく、温かい飲み物や替えのドレスの支度を手際よく指示していた。
それにしても、何で水が?
「マナリエル、何をしたんだい?」
お父様が思案顔で尋ねる。何を、とは何を聞きたいんだろう?魔法を使ったのは見て分かるよね?どうしてティスニー国で魔法が使えたのか?それは私にも分からない。何で水を浴びたのかも、別に浴びるつもりじゃなかった。
「えっと、魔法を使う真似をしようと思いました」
とりあえず、何をしたかは分からないから、何をしようとしたか答えておいた。
「真似?」
「はい、シルベニア国でなければ魔力が発動しないことは分かっていたので、魔力が解放された記念に真似事をしました」
「だが今、君は実際に魔法を使った」
「なぜ使えたのかは、私にも分かりません」
使えると思っていたら、わざわざ誕生日に水浸しになろうとは思わない。そう言おうと思ったけど、今はあーだこーだと寄り道するセリフは不要だと判断し、言葉を引っ込めた。
「ふむ。シルベニア国以外で魔力を発動できるなんて……いや、精霊と契約を交わしていれば可能だが……マナリエルは今日魔力が解放されたばかりだ。契約など……」
ブツブツとお父様が呟いている。
「私も、精霊と契約した覚えはありませ──」
そう言おうと思った時、気付いた。
視界の片隅で、ひょこっと手を挙げている少女がいる。
フゥちゃんだ。先生に指名されたい小学生のように、腕をピンと伸ばしていた。
「どうしたの?フゥちゃん」
尋ねると、フゥちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせた。あんなに張り切って挙手していた割には、みんなの視線が恥ずかしいのか、モジモジと体を捩らせている。
「あのぅ、私です」
「ん?何が?」
「マナ様の精霊、私です」
……。
静まり返った時って、やっぱ聞こえるんだね、シーンって。ありきたりな効果音が数秒間響いたような気がした。
んーと、ちょっと待ってよ。
「つまり、私はフゥちゃんと契約したってこと?」
「はい、そうですわ」
「記憶にございませんが」
「私も記憶にございません」
「……」
……ん?
「ドウイウコトデショウカ」
フゥちゃんはこてんと愛らしく首を傾げているし、誰か分かる人がいないかと辺りを見回してみるけど……もれなく全員首が傾いていた。
「フゥちゃん、だったかしら?あなたはマナリエルちゃんの精霊で間違いはないのね?」
お母様がフゥちゃんの前に立ち、ゆっくりしゃがんで目線を合わせた。そして、優しく手を握る。
「はい、間違いありませんわ」
「そう、あなたがそう言うのなら、そうなのね」
真剣な表情で言い切るフゥちゃんに、お母様は優しく微笑んだ。うふふ、と笑うお母様。だけどその質問の真意すら、理解できている人がいるのか、いないのか。
「では、マザーも自覚がないまま、本能的に契約を交わしたということなのか?」
あ、理解してるっぽい人がいた。ミカエラだ。
「詳しくどうぞ」
とりあえず、カモン説明。
「魔法を使うためには、精霊から力を借りるのが絶対条件だ。精霊がいない地、つまりシルベニア以外では魔法は使えない。これは分かるよな?」
「うん。でも精霊と直接契約を交わしていれば、他国でも使えるんだよね?」
私の質問に、ミカエラは軽く頷いた。
「そしてここはティスニーだが、お前は今魔法を使った。そしてマザーが契約をしていると言っている」
「そのあたりまでは理解した」
「精霊は、絶対に自分の主を間違えない。絶対にだ」
これを言いたかったんだと言わんばかりのドヤ顔をするミカエラは、とても満足げな顔をしている。
「契約した記憶がないのに、なんで絶対なの?」
「それは精霊の本能というしかないのかもね」
再びお母様がこちらを向いた。
「精霊はね、自分で契約を交わす主を選ぶの。でもそれは、精霊自身が決めるのではないとも言われているのよ」
「……つまり?」
「運命、かしらね」
どこかうっとりした様子で語るお母様。目線の先には、お父様。いや、あなたの運命の相手はお父様かもしれないけど。今は見つめ合う時じゃないからね?
「運命はね、決して抗えないの。出会ってしまったら最後。感情が燃え上がり、決して離れることはできないのよ」
……主旨変わってない?




