突然の魔法1
「っはー!やっぱり自分の部屋が一番だわー!」
久しく感じる愛しのベッドにダイブする。遠くからナディアの嗜める声が聞こえたけど、このふかふかを前に飛び込まずにはいられないでしょ。
さすがに森の中を歩き回ったままの格好で誕生日を祝ってもらうのもあれだし、少し整えさせてもらうことにした。
きっと今頃シェフが私の好物をたくさん用意してくれているんだろうな。そんな想像をして、自然と垂れそうになる涎をぐっと飲み込んだ。
「さてと、みんな待ってくれてるだろうし、早く支度しないとね。何着ようかしら。誕生日だからあんまり質素ってわけには……」
そう呟いて振り向いた先には、ナディア含めメイド達がコスメセットや眩しいばかりのドレス、宝飾やリボンなど、とても気合いの入った顔をして見ていた。中にはソープやタオル、ブラシを持っているメイドもいる。
ああ、はい、まずは体洗えってことね。
この見慣れた景色に抵抗する気などない私は、完全に身を任せた。
なんだかんだ、彼女達に任せた方が早く正確であることは重々理解している。前世の記憶が戻ったことが原因かは分からないけど、どうにも私には公爵令嬢としてのセンスはないみたい。
こうして呆けている間にも体は磨かれ、今日の私に相応しいドレスを着せられ、メイクもそれはそれは美しく仕上げられていった。
目の前の鏡を見れば、スキルのごとし『絶世の美女』がそこにいた。後ろに映っているメイド達は、満足気な顔や誇らしげな顔、中には崇拝するような顔をしている者もいた。
「ありがと、これなら主役らしく見えるよね」
「マナリエル様は、飾らずとも世界の主役でございます」
「う、うん?ありがとう」
……何言ってるかよく分からないけど、親バカ発言だろう、多分。ナディアは『うちの子が一番です!』って世界中に宣言しそうなレベルには親バカ、いや、メイドバカだと思う。
「さ、マナリエル様。皆様がお待ちですから、参りましょう」
「はーい」
「伸ばさない」
「はいっ!」
「淑やかに」
「はいはいはいはいはいはい」
「……」
「はいはい、参りましょうねー」
これ以上のお説教はご勘弁。
*********
「では、改めて……」
「「「マナリエル、ミカエラ、誕生日おめでとう!!!」」」
みんなの声と共にグラスが上がり、食事が始まった。
「俺まで祝わなくても……俺は今日じゃないし…」
「今日じゃなくても最近15歳になったのでしょう?せっかくこうして一緒に過ごせているんだもの、お祝いさせてちょうだい」
甘えなれていないのか、居心地の悪そうにするミカエラに、優しく声をかけるお母様。イヤならすぐに帰るだろうに、まだここに居てくれているということは、きっとそういうことなのだろう。
「はぁー!たまんないねー!」
誕生日パーティーというだけあって、私の好物ばかりが並べられている。シーフードグラタン、アボカドとエビのピザ、ペスカトーレ、、ローストビーフ、生ハムのサラダ、キノコのマリネ、イチゴを使ったスイーツもたっぷり!
「アイちゃん、ありがとね!」
ちょうど食事を運んできたアイちゃんに声をかけると、「ん」と小さな返事が聞こえた。
彼はアイマック。厨房で働いているシェフの一番弟子。私はアイちゃんって呼んでるけど、主従関係のせいか年上なのに嫌がることはない。とにかくすんごい無口な少年だ。
あ、ちなみに彼のステースにも、しっかり薔薇の花がありましたよ。「ステータスオープン!」を知ってから、色んな人のステータスを覗かせてもらった。今のところ私最強。
薔薇があるということは、アイマックも間違いなく恋愛対象だろう。薔薇の色は、見事に真っ赤。
なんなの?普通白から始まって攻略してくんじゃないの?いつ攻略したか記憶にないけど、いきなりピンクや赤、つまり「愛してるよマイスイート♥️」な状態じゃ正直面白くない。恋愛はね、プロセスが大事なのよ!
「まずい?」
眉間のシワを誤解されたようで、アイマックが不安げに顔を覗きこんできた。
「そんなことない!私の好きなものばかりで最高の料理よ!」
「よかった」
大袈裟に手を振ってみせると、アイマックは安心したように微笑んだ。あれだよ、普段無表情な人の笑顔ってさ、反則だよね。心臓に悪いわ。こっちの薔薇が赤く咲き乱れるわ。
フロアを見渡すと、みんながこちらを見て微笑んでいた。それだけで心が温まる。幸せって、こういうものだよね。
「おーい!今日の主役だろ!何かしろー!」
ソウシがニヤニヤしながらそう叫んだ。くそ、あいつ。普通は主役を楽しませるために、何かしてくれるものだろ。だかしかし、そのノリ嫌いではない。
「はーい!マナリエル、水出しまーす♪」
こういう流れは乗ったもん勝ちなのよ!そう思って両手を高くあげた。魔力が解放されたんだから、ちょっと真似事を。まぁシルベニアじゃないから何も起きないんだけど……
ザパアァーーーーーー!!!!!
「……」
何か出ましたけど。
何?上からいきなり大量の水が。両手をあげたまま、水浸しの状態で放心する私を見守っていた人達も口をあんぐり開けて固まってる。
ポタ。ポタ。
ドレスや髪から滴り落ちる水滴。
「どうなってんの!?」




