アクシデント
てくてくてく。
てくてくてく。
てくてくてく。
「……」
すたすたすた。
すたすたすた。
すたすたすた。
つけられてる。
「って、なんなの!?デジャブ!」
後ろを振り向いてもミカエラはいない。よーく見渡せば、遠くの木の上からひょっこり顔を出していた。
「なんでまた尾行してるのよ!」
「は?お前が着いてこいって言ったんだろ!」
「言ったよ!言いましたよ!でも尾行しろとは言ってない!」
「え、聞こえない!」
「降りてこいや!!」
森中に響いているんじゃないかと思うくらいの声量で会話する。どんだけ離れてるんだよ。そんでなんでまた木に登ってんだよ。
仕方なしという様子でミカエラが近付いてきた。静止画として見れば、イケメンが木に寄りかかって眉を寄せて見つめてくる。絵になるよ?あれだよね、イラスト集が出たら1ページ使って描かれるようなやつ。
でも今はそのポーズすら癪に触る。傾いている首に手刀くらわしてやりたいくらい。手がウズウズするわ。
「どうしてまた隠れるのよ」
そう言ってぐいと距離を縮めると、ミカエラは驚いたように一歩下がった。なんだ?
不思議に思って、また一歩近付く。すると、ミカエラもまた一歩下がった。また一歩、さらに一歩、じりじりと詰め寄って気付けばミカエラの背中は大木にあたり、壁ドン状態に。壁ドンといっても、私の方が背が低いから絵面的にダサいんだけどさ。
そのままぐいと背伸びをして顔を寄せれば、ミカエラは頬を赤らめてダラダラ汗を流している。視線は合わない。
もしかして女性慣れしてない?最初尾行してたのも、もしかして人を見つけたけど女だから声かけられなかったとか?
「可愛いとこあるじゃない」
思わず頬が緩む。ニコリと微笑むと、ミカエラの赤みが増した。指先でするりと頬を撫でると、もう茹でダコ状態。
「すごい真っ赤よ、ミカちゃん」
「……そういうお前もすげー顔してるけど」
「え?」
そうだろう、そうだろう。私の顔もミカエラに負けず劣らず全身真っ赤だろう。ついでに全身の毛穴から汗が出ているだろう。
「し、しょうがないでしょ!私だってこういうの慣れてないんだから!」
「じゃぁなんでするんだよ」
「ノリ?」
「……バカがいる」
呆れたようなため息を吐くミカエラ。ぐっと力を入れたものの、私の腕から逃れることはなかった。脱出できないミカエラは、私を軽く睨む。
「……なんでどかないの?」
「意地?」
「……」
しばしの沈黙後、また大きなため息が聞こえるかと思ったら、急に強い力で体を押されて視界が揺らいだ。気付けば立場は逆転。木の壁に追いやられているのは、私だ。
ミカエラがニヤリと勝ち誇ったように笑う。カッチーン。女が弱くて男が強い、そんな性別で負けるつもりはない。どれだけ鍛え上げてると思ってるんだ。この細く見える二の腕も、脂肪じゃなく引き締まった筋肉なんだからな。
グッ!
反撃しようとミカエラの服を掴んだ。このままひっくり返してやる───ガッ!
「あれ?」
ドサッ!!
「「…………」」
しまった。形勢逆転してやろうと思ったら、木の根に引っかかって躓いてしまった。
で、そのまま転ぶと思って、思わず掴んでいたミカエラの服を引っ張った。転倒の道連れにされながらも、とっさに私を庇って下敷きになるミカエラ。自然と地面に倒れたミカエラの上に私が乗っている状態となるわけで。
「「…………」」
倒れたついでに唇が重なっちゃったみたいで。
「「…………」」
お互い無言で起き上がり、体を離す。そして黙って服の汚れを払う。真っ赤になりそうなものの、もはやそれを通り越して無の境地だ。思考回路ショート寸前じゃなくて、ショートしちゃったやつ。
「……行こっか」
「ああ」
忘れよう。さっきの出来事は全て忘れよう。ミカエラも同意見なようで、二人でしばらく無言で歩いた。ノーカンだから、あれ。ファーストキスじゃないから、絶対。




