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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はしかし傍観者でいたい
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母なる庭へ

 


 馬車に揺られて数時間が経過した。他国へ行く時は自動車は使えないみたい。まぁ自動車のない国だと、ガソリン補給とかできないもんね。そういえば私、何気にシルベニアに行くの初めてなのよね。というか、ティスニーを出ることすら始めてだわ。

 ……ちょっと待った。私って外出したことあったっけ?あれ?待って……ない。家の敷地から出たことないじゃない!


「まさかの初めての外出!?」


 思わず叫んじゃった。そりゃそうだよ!むしろ何で今まで気付かなかったのかしら!私、15年間も閉じこもっていたなんて。

 いや、閉じこもってはいなかった。ちゃんと外で散歩したり、剣の稽古をしたり、ガーデニングやジョギング、ピクニックや水浴び、ブランコや滑り台だって、幼い頃たくさん遊んだ。なんなら、乗馬だって、自動車でドライブもした。でもそれは、全部ユーキラスの敷地内だったのよね……買い物も向こうから来てくれてたし。全然気付かなかったわ。

 ロイとソウシが毎週会いに来てくれたから楽しく過ごしてたけど、よくよく考えれば私って閉鎖的な生活をしてたのね。なんてもったいないことをしてたんだ……よし、これからは外に出よう!たくさん出よう!ていうか、私からロイとソウシに会いに行けばいいのよね。


 そう覚悟を決めたところで、馬車の揺れが止まった。


「到着しました」


 促されて外に出てみると、目の前に生い茂った木々が密集していた。光が届かないせいで薄暗く、湿度が高いのか、冷気が肌を湿らせる。思わず二の腕を撫でた。

 風もなく、こんなに密集しているのに葉の擦れる音が全くしない。一言で言うなら、不気味だ。


「久しぶり!私が来た時と何も変わってないわね」


 可愛らしく弾んだお母様の声が、この光景と全くマッチしていない。そんなに怖がる場所ではないんだろう。というか、この人はもう40手前なのに、いつまで美少女なんだろう。もはや私と姉妹に見えるのではなかろうか。

 そんな私の視線に気付いていないのか、キャピキャピとはしゃいでいるお母様は、私を急かすように腕を引いた。


「マナリエルちゃん、ここはね、母なる庭(マザーガーデン)の入り口なのよ。ちょっとしんみりしちゃう雰囲気よね」


「そ、そうですね」


 ちょっとどころではないけど。しんみりどころではないけど。


「あのね、私達が付き添えるのはここまでなの」


「え!?」


「この森にはね、一人で入らないといけないの。魔力があれば、この森の先にあるガーデンに行けるはずよ。帰りはマザーが家まで送還してくれるから」


「もし魔力がなかったら?」


 まさか、永久に森を彷徨(さまよ)うとか言うんじゃないでしょうね。


「魔力がない人は別の場所に着いて、家まで送還されるらしいわよ」


「なるほど」


 どちらにしろ、ちゃんと送り届けてくれるってわけね。


「とりあえず森を抜ければいいってことですね!」


「マナリエルちゃんなら魔力はあるはずだから、心配ないわよ!」


 おお、笑顔でプレッシャーかけてくるね、お母様。


「大丈夫、魔力があろうとなかろうと、マナリエルは私達にとって最愛の娘であることには変わりないからね」


 そう言って、お父様は優しく私の頭を撫でた。ありがとう、お父様。


「では、お父様、お母様。行ってまいります!」


 声高々に宣言すると、森に風が吹き抜けて葉が揺れる音がした。振り向けば、そこにはなかったはずの道が現れている。

 なるほど、行く時はちゃんと道ができるんだ!鬱蒼と生い茂った森の中を進まなくちゃいけないのかと思ったから、正直これは助かった。これもマザーの魔法なのかな?


 そうして私は覚悟を決め、道を進んでいった。森へ一歩踏み込めば、すぐに入り口は閉ざされる。あとはこの道を進むだけね!



 *****


 一方、マナリエルを見送ったスタンレイとリリーは馬車に戻ることなく、閉ざされた入り口を見て立ちすくしていた。


「ねぇ、旦那様」


「なんだいリリー」


「旦那様が森へ入った時も、あのように道ができました?」


「ちょうどそれを君にも聞こうと思っていたよ」


「私の時は、道などありませんでしたわ」


「私もだよ、リリー」


「これは一体、どういうことなのかしら」


「魔力がなかった友人の時も、道ができた話は聞かなかったな。森はマナリエルを歓迎したということか?」


「何も起こらなければいいのだけど……」


 不安そうに森を見つめるリリーの肩を、スタンレイはそっと抱き寄せた。


「大丈夫、私達はあの子を信じて、屋敷で待とう」


「ええ、そうね。きっと屋敷のみんなも、あの子を迎える支度をしているはずだわ。なんたって、今日は誕生日なんだから」


 二人は微笑み合い、馬車へと乗り込んで森を後にした。

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