新たな計画2
あれから数日。変わらずソウシは私の傍へ寄ってくる。
私自身がソウシを邪魔に思っているわけではないし、純粋に会えるのは嬉しい。しかし、それによりシルベニア内が乱れることになるのは避けたい。弟といるだけで国揺らがすなよ、とは思うが、今のソウシは私の弟ではなく、一国の王子。一つの行動が大きな影響を与えるのは仕方がないのだろう。かと言って無理やり引き離すのも気が引けるし、レイビーとイリスもソウシと話すのは楽しそうだ。シャルロッタも少しずつ会話が増えてきている。ていうか、ソウシはなんだ。シスコンなのか。
しかし、ソウシのシスコン具合よりも、ぶっちゃけ国の分断よりも、気になっていることがある。
ロイだ。
自分で言うのもなんだが、ロイは私のことがめちゃめちゃ好きだ。なんなら『転生したら王子に溺愛されました』的なタイトルの本が一冊書けるくらい。いや、『転生少女はヤンデレ王子から逃げられません』とかになりそうだな。
そんなロイが、ここ最近大人しい。他の異性との噂が立っているのに、無反応なのだ。私とソウシの関係を知っている上に、性格を知り尽くしている幼馴染だ。私達の仲を疑うことはないだろうが、あの病み気質を持つ危険な王子が、この状況を楽しんでいるとは思えない。
最近王太子としての仕事が増えたのか、授業以外は学園にいない日が多い。だから会う時間がないのは当然な上、断罪回避のために婚約破棄を狙っているのだから、私に興味が薄れるのは喜ばしいことではないか。
しかし、私だって断罪ルートと王妃になる重圧さえなければ、ロイと結ばれたいと思うくらいには好きだ。しかし、命がけの恋愛に燃えるほど心が若くない。言葉の綾ではなく、文字通り本気の命がけ。そりゃ尻込みもするでしょ。
そんな感情も混ざり、婚約破棄と豪語しているくせに情けないが、ロイの関心が薄れるというのは予想以上に心に刺さっていた。
いいじゃないか、このまま他の子に興味が移ってくれれば。さすがに今更アイーシャとは無理だろうけど。いや、ヒロイン補正でここから挽回するのか?いやいや、ロイに限ってそんなことは……。
で、今。
私は生徒会室の扉の前にいる。
仕事が一段落したのか、今日は学園にいるという情報を聞きつけ、さすがに男子寮に潜り込むわけにもいかず、今がチャンス。妙な気恥ずかしさから、レイビーとイリスには「着いてきたら1年間無視する。気配消して着いてきても無視する」と脅し、完全に1人で敵陣に乗り込むつもりだ。
吸って。
吐いて。
吸って。
吐いて。
……。
もう一回吸って。
ガチャ。
「待ちくたびれたよ、マナリエル」
「!!」
扉を叩くのを躊躇っていると突然開き、御本人登場。顔を出したロイは、柔らかな笑みを浮かべている。
そのまま流れるような動作で抱き抱えられ、部屋へ入っていく。扉が閉まると同時にカチャリと閉まる音が聞こえたのは、オートロックなのか魔法なのか。
「久しぶりだね、会えない間は元気だったかな?」
「え?あ、うん」
「そうか、それはよかった」
ロイの笑みは変わらず柔らかい。大きめのソファに座らされ――と思ったら、なぜか寝かせられる。そしてなぜか、天井を背景にしたロイの笑顔。
「ロイ?」
「ん?」
「私、起き上がりたいなぁって」
「マナリエルのお願いは何でも聞いてあげたいけど、今はごめんね」
ロイの両手は私の手首をソファに押し付けている。力を入れて抵抗を見せるが、さすがにすんなり解かせてはくれない。まぁ私が抵抗している以上ロイも両手が塞がるわけで、このまま話をして隙を見て……
「!!」
安心したのも束の間。私の胸元に顔を近づけたと思えば、リボンをくわえ、そのままそっと引っ張るロイ。そんな簡単に解けたっけ!?とツッコミたくなるほどスムーズにそれは緩まり、鎖骨のエンブレムが露わになる。ロイがつけた、ロイの伴侶であるという証。
「いい眺め」
そう満足気に呟くロイの視線は鋭く妖艶で、最高に美しく、戸惑いや苛立ち、羞恥心を全て押し退けてお腹の奥がキュウと疼くのを感じた。
あかん、これは『禁断の花園〜あなたの手で開く初めての蕾〜』系のやつや。
ここでようやく気付いた。この人怒ってるわ。




