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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はそして世界を知る
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キミだけなのに2【episodeロイ】

 


「シャルロッタ、これは我々が聞いてもいい話かな?」


「もちろんでございます。お話しするなら今がベストなタイミングだと判断いたしました」


 シャルロッタは射抜くように、真っ直ぐこちらを見つめる。この話を我々にすることの意味を、聡い彼女が理解していないことはない。覚悟を決めたのだろう。


「潰していいの?サネル」


 意外にも声を発したのは、マナリエルだ。彼女は話を聞いていないようで実際に聞いていないのだが、それなのに本質を逃さないことに毎度驚かされる。


「はい。正確には、現在のサネルを、でございます」


 シャルロッタは強く頷き、胸に手をあてる。


「魔力を持つ者は常に気高く、世のためにそれを使い、またより高めるために日々精進していくべきです。それにより権威が生じることは当然のことであり、我々だからこそ成し遂げられることがあるのも事実。そういったサネルの思想には誇りを持っています。けれど、私は両親を尊敬することができません。魔力に関係なく、人の命は平等であるべきです。魔力がないことを差別の理由にしてはなりません。魔王を崇拝し、さらにはシルベニアを支配しようだなんて……恐ろしい計画です」


 しかし……。シャルロッタはそこで口を閉じた。彼女の中で、様々な葛藤が渦巻いているのだろう。


「好きなんだね、サネルのこと」


 躊躇う隙を与えないマナリエル。シャルロッタは戸惑いながらも、胸をきつく押さえて頷いた。


「サネルは行き過ぎたとはいえ、本来は誇り高き戦士です。クローリエ、オールディンと共に魔法使いの歴史を築き上げてきました。私は……サネルをあるべき姿に戻したいのです」


 そう告げる瞳は、隠すことなく灯火を見せる。


 なるほど。シャルロッタは当主となり、今のサネルを変えたい。しかし、当主交代を悠長に待っている場合ではなくなった。サネルの一部が本格的に王座を狙い始めた、ということなのだろう。


 自身の父であるサネルの当主を引きずり降ろす。もしかしたら、それ以上の覚悟もしているのかもしれない。


 さて、どうするか。


 ここまで聞いた以上、放っておくことはできない。必ず主犯格のみならず、全員炙り出す。しかし王族とはいえ、今の私にはサネルを追い込むほどの力はない。父がどれほど偉大な王であろうと、私自身はまだ大した功績も持たないただの王子だ。

 やはり、ここは一度王に判断を仰いだ方が良いだろうか……。



「大丈夫だよ、シャルロッタ」


 気が付けば、マナリエルがシャルロッタの手を両手で優しく包んでいる。


「私がサネルを潰してあげる」


 凛とした力強い声が耳を通り抜ける。彼女の声は、なぜこうも心に響くのだろう。その心地よさに、シャルロッタの表情が和らいだ。


「最初は注意喚起くらいの方がいいかな?いきなり襲ったら、こっちが有責になっちゃうよね?」


 ……ん?


 夜道で背後なら一発で仕留められるのになー!なんて残念そうに眉を下げるマナリエル。何を言っているのか、少し時間が欲しい。が、その間にも私の愛しい唇からは、ポロポロと盗賊のような言葉が溢れている。目眩を起こしそうだ。


「マナリエル、一旦ストップ。この件は私達だけで動くのは危険だ。一度持ち帰って王に話を―――」


「戦争始めるつもり?」


「!」


 細める彼女の瞳は、呆れの色を帯びている。


「シルベニア王が動けばどうなると思う?バレちゃぁしょうがねーってサネルの悪玉共もヤケクソ起こして、すぐにシルベニアは戦地となるわよ。魔法大戦なんて画面越しだけで十分だわ」 


 なんとも悪い表情だ。が、的を得ている。これはマナリエルが正しい。思わず自身の口を押さえた。


「動くのは、今ここにいる私達だけよ。あ、レイビーとイリスは使わせてもらうね。あとメガネには黙っといて、あそこの家、信用できないから」


 信用できないから。この言葉を放った時のマナリエルの表情……我々しかいない時で良かった。本当に。ソウシは「こいつ、悪役令嬢じゃなくてラスボスだろ」と呟いたおかげでロックオンされている。


 クイラックスに関してはミカエラの件がある。マナリエルがアルストラ家に対して警戒心を抱くのは当然だろう。むしろ、アルストラ家すら潰すつもりではないだろうか。


「あ、メガネの家も置いといて。私がやるから」


 やはり。やる、という言葉にうっすら殺意が見えるのは気のせいではないだろう。


「マナ。もうチンピラが金持ちの坊っちゃんに絡んでるようにしか見えん」


 そう言うソウシの口元は引きつっている。マナリエルは理解できないのか、目を丸くして首を傾げた。可愛い。


「え、男は女の上目遣いに弱いんでしょ?何でも言うこと聞いてくれるって」


「どこ情報だよ」


「サキ」


「そこ発信の情報は鵜呑みにしない方がいい」


 サキ。度々出てくる、マナリエルの前世の友人だ。恐らくソウシも親しかったのだろう。話を聞く限り、なかなか破天荒な娘のようだ。一度会ってみたいような、違う世界線で良かったと安堵するような、何とも複雑な気分になる。サキという人物は二人にとってただの友人ではなく、深く繋がっていた関係なのだろう。話す様子は、まるで家族のようだ。


「ねぇ、ロイ。いいよね?」


 大きな瞳をこちらに向け、今度こそ愛らしい瞳で私を見上げるマナリエル。視線が絡むだけで愛情が溢れてくるのは、何年経っても変わらない。


「ああ、もちろん。全てマナリエルの望むままに」


 私はきっと、永遠に彼女の願いを断ることなどできないだろう。


「サネル潰す前にシルベニアが潰れるぞ」


 ソウシの冷静な言葉が聞こえた。


「マナリエルがそう願わない限りは大丈夫だよ」


 この返事に、ソウシとシャルロッタがどんな表情をしているかなんて、見なくても分かる。我ながら情けない男だ。


「私を愚王にさせないでくれよ、マナリエル」


「そうなったらこの手で捌いてあげるから安心して」


 間髪入れずに気持ちの良い返答が来る。少しニュアンスが違って聞こえたのは気のせいだろうか。裁いてくれるって言ったんだよな……なぜか命の危険を感じた。



「よし!今後の計画でも練るか!」


 ソウシの声を皮切りに、簡単な話し合いが始まる。


 まずサネルの次期当主であるシャルロッタは、当面は潜入捜査として現サネルに従うよう行動してもらう。内部からサネルの派閥を確認し、あわよくば反乱組織から声をかけられるよう仕向ける。


「ちょっと待った」


「はえーんだよ。話し合いが進まねぇ」


 序盤からマナリエルが手を挙げる。


「はえーんだよじゃねーんだよ。シャルロッタを危険な目に合わせるのは断固反対。なに、あわよくば反乱組織って。体小さくさせられたらどうすんの」


「影響受け過ぎだ、頭冷やせ」


「マナリエル様。私は問題ありません」


 シャルロッタが凛とした声で、余計なケンカへと発展しそうな二人を制止する。


「私は次期当主である前に、現サネルの娘です。私に害を与えるということは、すなわち現サネルの当主の怒りを買うということ。良くも悪くも、両親は私に依存している節があります。反乱組織のメンバーが私を狙ってくることは、まずありえないでしょう」


 むしろ、当主の座を狙うのであれば、今は大人しく従っているフリをした方が安全だ、とも付け加える。

 マナリエルはしばらく考え込んだあと、何か閃いたような顔を見せ、分かった!と頷いた。


「あれだよね、このままシャルロッタはシルベニアの妃候補としていた方が安全ってことよね?」


「え?」


 予想していない返答だったのか、シャルロッタにしては珍しくポカンと口を開けている。


「だってそうでしょ?シャルロッタが抵抗すればするほど、シャルロッタの両親は押さえつけようとしてくる。すでにビンタかましてきてるんだから。抵抗しない方が安全なら、嘘でもシャルロッタはロイの妃になろうとする意思をチラつかせておいた方がいい」


 ……至極真っ当な発言に、反論する言葉が見当たらない。それは恐らく他の二人も同じだろう。数秒の沈黙が流れる。


「よし、そしたら外面的には私とシャルロッタはライバル的な雰囲気出しておいたほうがいいわよね?仲良くお喋りしてる姿は怪しまれちゃうよね!うん、外ではライバルっぽくしよう!あ、でも寂しいからこっそり話そうね?」


 そうと決まれば、あの不快な用紙外してくるわー!と、そのままの勢いで部屋を出ていくマナリエル。恐らく先程の妃教育の掲示を破り捨てに行ったのだろう。

 王族、しかもシルベニア王自ら捺印した書面を破り捨てるなんて、マナリエルにしかできない所業だ。私ですら恐ろしくてできない。それほどまでに、彼女はシルベニアの王族に歓迎されている。何をしても許してしまいたくなるし、縛られてほしくないと自由を願ってしまう。これは彼女の特異的な才能だろう。マナリエルが昔言っていたスキル、自動課金(オートチャージ)のおかげなのかもしれない。


 それにしても。


「私と他の女性が結ばれることを想像して、何とも思わないのかな、マナリエルは」


 思わずため息と共に言葉が溢れる。


「あいつ多分、そういう想像力が乏しいんだよ」


 そっとソウシが言葉をかけてくれたが、労りや同情の色が含まれている。


 マナリエルからの好意は感じている。恐らく彼女も私を好いてくれているだろう。抱きしめた時、キスをした時、王家の紋章を与えた時、彼女が本気で抵抗すれば、私の意識を飛ばすくらいのことは容易いはずだ。私がそうであるように、いつだってマナリエルは私を受け入れてくれる。


 無自覚、なのだろう。


 シャルロッタの同情する表情に、再びため息が溢れる。


 私が求めるのは、キミだけなのに。

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