破天荒な者達3
「夫人の仰ることは理解しました」
では、こうしましょう。とロイは続ける。
「学園内で魔術大会を開催するのはいかがでしょうか。ちょうど来月には実技試験の期間に入りますし、それを対戦形式で行なえないか、学園長に提案してみようと思います」
ふむ、とスラスター夫人は口元に手を寄せる。
「それはもちろん、大会の結果は殿下の妃候補に反映されるということで宜しいですわね?」
「もちろん。先程もお伝えした通り、私が望むのは共にシルベニアを支えることができるパートナーであり、それには高い魔力は必要不可欠です」
「そうですわね……では、こうしましょう。その大会で優勝した女生徒を妃として迎える、と断言なされませ。殿下のご年齢ですと、早々に婚約式を執り行わなければなりません。せっかく学園側が主催してくださるなら、正式な審査も含めて執り行ってしまえばよろしいかと」
「ああ、それは良い案ですね。私も早く身を固めて皆を安心させたいと思っているんです」
最近は周囲からの視線が痛くて、と眉を下げて笑うロイ。スラスター夫人は何度も強く頷いた。
「それは仕方のないことですわ。殿下は尊き未来の王。どのような立派な妃を迎えるのか、皆期待せずにはいられないのでしょう」
そう言ったスラスター夫人の視線の先には、人形のように無機質に佇む美しきシャルロッタ。
「それでは、学園長と父には私から話をしてみます」
「お願いしますわね。あぁ、それと。この大会では召喚術は禁止としてくださいませ。他力ではなく、自分の力だけで強さを決めるべきですわ」
ロイが肯定するように頷けば、夫人は満足気に口角を上げた。
では、失礼致します。と、恭しく礼をとるスラスター夫人。背中を向け片手をあげれば、シャルロッタを囲う生徒達も従うように動いた。
「お待ち下さい」
それを引き止めたのは、ロイである。
「少しシャルロッタと話す時間をいただけませんか?彼女は学園の中でも極めて優秀な生徒です。一度シルベニアの未来について、二人で語り合ってみたいと思っていたんです」
その言葉にスラスター夫人は頬を緩め、淀んだ瞳が一気に光を集めた。
「まぁ!それは素晴らしいことですわ!贔屓ではなく、我が娘シャルロッタはサネル一族の中でも類稀なき魔力を持っております。きっと殿下のお役に立てることでしょう。少しと言わず、いつでもお側にお呼びくださいませ」
さぁ、行きなさいと顎で示せば、シャルロッタは素直に数歩前へ出てきた。そして今度こそ、スラスター夫人と取り巻きのような生徒達は、シャルロッタだけを残し去っていった。
やり取りを聞いていた大勢の生徒達は――特に女生徒は、すでに大会の話題でザワめいている。結果を示せば自分も婚約者になれるかもしれない、と浮足立っている者もいれば、私とシャルロッタを含めて誰が優勝するのかといった議論も聞こえた。本人の目の前で話すなよ、とは思うが、これは仕方がないだろう。
そんなことより。
すぐに一人静かに佇むシャルロッタの元へ向かう。
「シャルロッタ!」
近づけば、より頬の赤みが痛々しい。なぜこんなキレイな肌を傷付けることができるのか。見れば見るほど怒りのボルテージが上がっていく。
「誰にやられたの?」
自然と声は低くなる。
「マナリエル様がお気になさることではありません」
「あーもう!すぐそういうこと言う!」
「声を荒げないよう」
「〜〜っ!」
やっとできた大切な友人を守りたいだけなのに。もどかしさが募る。それでもシャルロッタは態度を崩さない。
「生徒にそのような表情を見せてはいけません。王妃たるもの、常に余裕はお持ちくださいませ。そして一人の人間に固執してはいけません。私のことは駒とお思いください。時には捨て置くことも必要です」
睫毛を下げるシャルロッタ。自然と拳に力が入る。
「大切な友人を助けることもできないで、一国の王妃なんて務まるはずがない」
目の前にいる人にさえ手を差し伸べない人間が、多くの人を救えるとは思わない。国政なんて分からないけど、目に映る人々が正しく満たされるべきであり、だからこそ、より多くの人を目に映すために視察は必要なのだ。
「あと私、駒は割と厳選するタイプだから。シャルロッタを駒にするつもりはないよ」
「おい、それ絶対俺入ってるだろ」
成り行きを見守っていたソウシがツッコむ。
私の言葉に、シャルロッタの目が一瞬光った、気がした。
「……なるほど。つまり私を助けてくださった暁には、迷わず王妃の座へお就きになるということですわね?」
「ん?え?」
「私を助けてくださるということですわね?」
「あ、うん。え?」
「ありがとうございます。では遠慮なく助けていただきます」
「ん?」
展開が理解できていない私に、シャルロッタは満足げにニコリと微笑んだ。ふと頭上から影が差し顔を上げれば、すぐ隣に楽しそうな笑みをしたロイが立っている。
「色々言いたいことはあるけど、とりあえずシャルロッタを引き止めてくれたことは礼を言うわ」
見上げているのか、睨みあげているのか、自分でも分からない。が、恐らくどう見ても謝意を述べている者の顔ではないだろう。我ながら可愛げがないとは思う。そんな私の表情にロイは機嫌を損ねることなく、むしろ上機嫌な様子で「どういたしまして」と返ってきた。そしてそのまま、シャルロッタへと視線を向ける。
「念の為確認させてもらうけど、シャルロッタは私の婚約者になることを希望するかな?」
「殿下がお望みとあらば、私に選択などございません。望まれることは万が一にも有り得ないと信じておりますが」
凛とした返答だが、副音声で『断固拒否』と聞こえた気がした。
「ふふ、そうだね。私が望むのは今までも、そしてこれからも一人だけだよ」
そう言ったロイが私の腰を引き寄せる。
「絶対負けないでね、私のマナリエル」
「は?そもそもロイがこんな提案を―――」
……待って。よく考えれば、この大会とやらでシャルロッタを優勝させれば話は簡単じゃない?
そう、そうよ。だって正式に大会が開催されれば、優勝者は自動的に婚約者ということでしょ?否応なしに。例え拒絶しまくっているシャルロッタであろうと。
今回は面倒な提案をしたロイに感謝しよう。
あ、でもな……シャルロッタはどうなんだろう。ロイと二人並ぶ姿は本当に似合うし、王妃としての素質は間違いなく私よりもある。本来なら王妃の席に無理矢理にでもぶちこみたいところだが、彼女は私の友人でもある。彼女の不幸は望まない。
シャルロッタは、ロイじゃ不満なのかな?それとも他に好きな人がいるのかな?
「マナリエル様」
「あ、はいっ!」
ふいに名を呼ばれ、反射的に姿勢を正す。声の主はシャルロッタである。
「もしやあなた様、わざと負けて私を優勝させようとしていませんか?」
ギクリ。
「やはり……」
何も返事をしていないにも関わらず、私の表情で理解するシャルロッタ。恐ろしい……。
シャルロッタは大きな溜息を一つ吐き、私を見つめる。その目のなんと冷ややかなことか。
「殿下。先程はご配慮をいただき、感謝いたします。このあと少々マナリエル様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。積もる話もあるだろうからね」
「ありがとうございます。それではマナリエル様、こちらへ」
「あ、はい」
NOと言うタイミングは完全に滅されている。私はただシャルロッタに従う犬だ。忠犬だ。
積もる話、恐ろしいワードである。




