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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はそして世界を知る
102/111

対策【episodeソウシ】

 


「……で、どう思う?」


 マナが出ていったドアに視線を向けたまま、ロイが問いかける。言わなくとも答えなど分かっているだろうに。


「あいつがあれで引っ込む性格だったら、俺達は苦労してない」


 だろ?と同意を促せば、困ったように眉を下げてロイが笑った。


「彼女は身を引いたのではないのですか?」


 訳が分からないとクイラックスは問う。表向きはそうだろう。婚約者とその弟に諭され、そっと一歩下がる淑やかな令嬢。あの状況なら、そう見えてもおかしくはない。だが、あいつのあの態度はそんな穏やかなものではない。


「マナが身を引くなんてことは1ミリたりとも考えない方がいい。さっきのあいつの分かったっていう返事は、(お前らが私の行く手を阻む障害物であることは)分かったっていう意味だろうし、期待しているって発言も(良き好敵手(ライバル)として、どれくらい競り合えるのか)期待しているってことだ」


 つまり、協力し合えないなら容赦なく潰すぞというメッセージが込められている。そしてそれは脅しではなく、本気だから厄介な姉である。


「分かってはいたが、改めてすごい令嬢だな……」


 クイラックスがポツリと呟く。


「だろう?あんな素敵な女性はどこを探してもいないよ」


 クイラックスのあのドン引きしている顔を見てもなお、誇らしげに自分の婚約者を褒めるロイ。 


 あの逞しさや勇ましさ、高い攻撃力に低い忍耐力。姉としては横暴さはあれど頼もしく感じるが、正直恋愛対象として見ることはない。中身が姉弟だからというのはあるだろうが、恐らくその意識を取っ払ったとしても変わることはないだろう。決して自分のストライクゾーンは狭くないと思っているが、さすがに猛々しいゴリラを幸せにしてやれる自信はない。その部分でクイラックスと通じているということは、彼の表情を見れば分かる。もはやマナに心底惚れているロイに引いている様子だ。立場上言葉には表さないが、全ての表情筋を使って見事に感情を表現している。


 そんな視線を向けられていることに気付くことなく、ロイは思案げに眉を寄せた。


「いくらそれがマナリエルの魅力だとしても、今回は深入りさせたくない」


「ああ、俺もそうしたいと思ってるよ」


 猛々しいゴリラを打ち消し、見た目は華奢で絶世に美しい姉を必死に思い浮かべ頷いた。マナがどれだけ豪快な性格であろうと、守りたい気持ちが揺らぐことはない。恐らく、この感情の深さはロイ()にだって負けていない。例え重いとか狂っていると言われたとしても、この執着は失った経験のある者にしか分からないだろう。自身のマナへの愛情の中に黒い部分があることは自覚している。


 閉じ込めるわけにはいかないし、かと言って放し飼いをしてコントロールできる女ではない。


「仕事を与えるのはいかがでしょうか?」


 小さいながらも毅然としたクイラックスの声音に耳を傾ける。


「仕事?」


「はい。たとえ会長が王族の立場から命令を下したとしても、マナリエル様の行動を制限することは不可能に近いと推測いたします」


「うん、そうだね。私では彼女を止めることはできないな」


 だからなんでロイはそんなに嬉しそうなんだよ。


「マナリエル様は次期王妃になられるお方。正式な婚約式は卒業後に執り行われ、そのままマナリエル様は花嫁修業へ入ります。しかし、マナリエル様はそれを望んでおられるでしょうか」


「と、言うと?」


「他の生徒が進路を考え始める時、恐らく彼女自身も選択できる自由が欲しくなるかもしれません」


 それは想像できる。話を遮らないよう、一つ大きく頷いた。


「しかし、今から花嫁修行をすれば、卒業後に他の進路を選択する余地ができるのではないでしょうか。これはマナリエル様にとっても魅力的な提案のはずです」


「なるほど!交渉するってことか!」


 思わず立ち上がる俺の隣で、ロイは顎に手をあて小さく頷いている。


「王族の一部から多少の反論があるかもしれないが、社会経験をすることは王妃の立場からしても、国民を深く知るというメリットがある。その点は私が何とかできるだろう」


 マナが自ら無茶な行動を起こさない限り、レイビーとイリス(あの二人)が徹底的に守るはずだ。他者からのアクションは何ら心配していない。本人が動かなければ完全に安全な位置にいるんだ、あいつは。それなのになぜワシャワシャと動き回るのか。ため息をつかずにはいられない。


「助かったぜクイラックス、なんとかあいつを止められそうだ」


「お二人のお役に立つことができ、光栄でございます」


 礼を述べれば恭しく頭を下げるクイラックス。


 あとはマナが動き出す前に、こちらが準備を終えなければ。


「正式な花嫁修行となると、王命として出した方がいいな。兄さんは学園から出られないだろう。俺が今から城に戻ろうか」


「いや、その必要はないよ」


 そう言って微笑んだロイは、おいで、と優しく囁く。すると白い霧のようなものが揺らめき、それは美しい純白の鳥となった。恐らくロイが契約している精霊だろう。契約したことは知っていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだ。


「お呼びですか、ご主人様」


 純白の鳥が伸びやかな声で鳴く。中性的で艶のある声だ。


「ありがとうサリマン。今日は父と母に言伝を頼みたいんだ」


「何なりと」


「早めに取りかかれそうだ、と伝えてくれないか?それで伝わる」


「かしこまりました」


 サリマンと呼ばれた鳥は羽を広げ、そしてまた揺らめき霧となり消えた。


「これで明日にはシルベニア国王からの通達が届くはずだよ」


 そう言ってこちらを向くロイは、スッキリしたように晴れやかな笑顔をしている。


「え、今ので伝わるのか?」


 この疑問はクイラックスも感じているようで、無言でロイの返答を待っている。


「ああ、これで大丈夫。国王も王妃も常日頃からマナリエルを迎え入れる準備を整えているからね。むしろ卒業まで指折り数えているくらいだよ。たとえ今すぐマナリエルが入城したとしても問題なく快適に過ごせるだろうし、マナリエルがサインするだけで夫婦生活が始められる用意はできているよ」


 確かに、国王と王妃――つまり俺達の両親は、マナにご執心だ。ロイに側妃の話があまり来ないのも、然りげ無く二人が躱していると聞いたことがある。ロイだけでは他の候補者を退けることは困難だろう。マナが唯一として愛されることは俺の願いでもあるから、二人には感謝している。マナのサインだけで婚姻が完了するということは、すでにロイはサイン済みなんだろうという薄ら寒い推測は考えないようにしよう。

 そうだ、マナさえ動かなければ、この世界はあいつにとって安心安全なはずなんだ。


「明日のマナの反応が楽しみだな!」


 マナ、お前は心も体も傷一つつけることなく、笑顔で幸せだけの中で生きればいい。

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