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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はそして世界を知る
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謙虚な令嬢

 


 その後も学園の方針や経営方法など、エンダー学園長不在にも関わらずスムーズに話し合いが進められたが、闇魔法の術者を見つけ出すことが最優先事項として今回の会議は終わった。やることが決まったなら、あとはもう行動あるのみ。


「よし、私はまずその術者って人を見つけてみせるわ!」


「「「待て待て待て待て」」」


「え、何?」


 張り切って宣言したそばからロイ、ソウシ、クイラックスからの制止の声が重なる。三人の驚きと焦りが混ざったような顔がこちらを向いているが、驚きたいのはこっちだ。


「何、じゃねぇよマナ。なんで危ない事件に令嬢が真っ先に突っ込むんだよ」


「マナリエル、この件は私達に任せてくれないか?」


 ソウシは呆れ、ロイは心配している様子だ。クイラックスは無言だが、バカなのかこいつは、と表情で見事に伝えてくる。


 後ろに下がってろ。そう言われて頷く私ではないことは、ロイとソウシなら長年の付き合いで分かっているだろう。一つ大きなため息を吐き、ソウシが口を開く。


「もちろん、マナが俺達の制止で止まるような謙虚で、清廉で、高潔で、慈悲深い、明哲な令嬢だとは全く思っていない」


「さすがに傷付く」


「だが今回は俺が動く。異論は認めない」


 ソウシの声が強く刺さる。なんだか、今ここで私が異議を唱えても単なる我儘のように聞こえそうだ。だからと言って、大人しくソウシだけに危険なことをさせようとは思えない。


「それなら協力して一緒に探せばいいじゃない」


 足手まといにはならない……と思うわよ、と少しばかりの謙虚さもアピールしておく。それでもソウシの表情が緩むことはなかった。あぁ、これは梃子でも動かないモードだ。


「確かにマナは強い。そう簡単に負けるとは思わない。なんなら絶対勝つとすら思ってる。けどな、無傷で勝つとは思えない。マナの戦闘スタイルは攻撃に全振りだからな」


 困ったように笑うソウシのその言葉に、思わず頷いてしまった。確かに剣道でも【攻撃は最大の防御】としていたし、それは今でも変わらない。相手からの攻撃は判定の旗が上げられない程度にズラし、気の抜けた瞬間を狙う。打突後の残心にも抜かりなく、常に攻撃態勢。相手が踏み込む前にスピード勝ちで一本を決めることも多かったが、強い選手が相手だとそうもいかない。そんな相手の間合いに入り込むような戦い方のため、アザは耐えなかった。


 相手は竹刀でも木刀でもない、とソウシは呟く。


「剣ならアザだけじゃ済まない。しかも今回は魔法使いが相手の可能性が高い。一発でも食らったらアウトの術でも出されたらどうする。間合いに入ることが命取りになるかもしれないんだぞ」


 ソウシの言うことが正論すぎて、逆接に続く台詞が浮かばない。今の私にできる抵抗といえば、口を真一文字に結ぶことだけだろう。


「………」


 口は固く結んだまま、過去の記憶にあるソウシを思い出す。どのシーンを思い浮かべても、この状態のソウシを動かすことは不可能に等しいとの結果が導き出された。彼は時折、こうして強く過保護を見せることがある。そしてそれはとても危ういものであるということを、私は知っている。


 もうこうなったら仕方がない。


「……分かった」


 小さく呟けば、ロイが安心したように肩の力を抜いたのが見えた。


「マナリエル、君に危害が及ぶようなことは絶対にさせない。必ず私達が闇の術者を見つける」


「ええ、期待しているわ。ありがとう」


 きちんと柔らかい笑みが作れているだろうか。そこに意識を向けたせいか、少しばかり言葉が早かったかもしれない。


「じゃぁね、ソウシ。謙虚で、清廉で、高潔で、慈悲深い、明哲な私は部屋へ戻らせていただきます」


 恭しく礼をとり、静かに退室する。


 バタン。ドアの閉まる音を皮切りに笑みを消し、今後の行動に思考を巡らせた。


「レイビー、イリス」


「はいはーい」


 一声かけるだけですぐに現れる二人に、今更驚くことはない。


「何々、闇の術師でも探すの?」


 なんてね、と楽しそうに笑うイリスに目を細める。やっぱり、どこかで聞いていたな。まぁある程度予測はしていたが。

 私の澄ました表情が肯定であると理解したのか、嬉々として上がっていたイリスの口角が、次第に引き攣ったように変わっていく。


「……ねぇ姫様、まさか……」


「さっき王子達の前で、この件には関わらないって約束してただろ」


 黙ってられないとでも言いたげに、レイビーの口調は速くなる。


「どこで聞いてたんだって問い質すのは止めておくけど、私は分かった、って言ったのよ。あの人達と一緒にいると、きっと私は動けない。別行動にした方がいいってことが分かったわ」


「まじかよ……」


「姫様ぁ〜、闇の魔術とかそういうのから遠ざけて守るために私達がいるのに、なんでわざわざ自分から突っ込もうとするんですかぁ〜」


 小さく呟きこめかみを押さえるレイビーと、腕にしがみついて情けない声を出すイリス。


「ゴメンナサイ」


「そんな詫びの欠片もこもってないクソみたいな謝罪いりません。で、王子達の協力なしにどうやって探すつもりなんです?」


「あれ?止めないの?」


 止められても引くつもりはないが、意外な反応に思わず確認してしまう。レイビーは眉を上げ、得意げな表情で私を見下ろしていた。


「お転婆なお姫様は好きなように動けばいい。俺達が守るんで」


「レイビー……」


 嬉しさと安堵で、自然と二人を抱きしめる。未知のものに対して過剰に恐怖心を抱く必要はないと思うが、不安がないと言えば嘘になる。彼らのように絶対的な味方がいることは、私が強くいられる理由の一つだ。


「二人とも、ありがとう」


 そう囁き、額を擦り寄せる。


「……あー、このまま俺だけのものにしてぇ」


 耐えるようにそう呟くレイビーの声と、危険すら感じるイリスの乱れた呼吸が聞こえる中、私は静かに計画を練り始めた。


 闇の魔術。危険だと分かっているからこそ、絶対にロイとソウシだけに背負わせたりしない。

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