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聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はそして世界を知る
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会議2

 


 まずは何も知らないソウシに、私が披露目の儀で起こった出来事を簡単に説明することになった。事細かに説明をしても余計にややこしくなるだけだろう。あくまで簡潔に伝えるつもりだ。

 

「ざっくり言うとね、披露目の儀で私に精霊が近寄って来なくて、アイーシャが猫連れてやめてくださーいしたんだけど、フゥちゃんが大きくなって精霊めっちゃ寄ってきたのよ」


 ………。


「……会長。説明させる相手を間違えたかと」


 クイラックスは訝しげな顔で呟く。


「大丈夫だよ」


 ロイは変わらず穏やかな笑みで、まぁ見ててとクイラックスを促した。二人の視線の先は、口元を手で隠し真剣な表情をするソウシ。その口はしばしの沈黙のあと、なるほど、と呟いた。


「つまり披露目の儀ってのは、自分の存在を精霊に認知してもらうことが目的なんだな。で、同じ属性の精霊が寄ってきて、加護を受けたり、運が良ければ中級精霊と契約もできる、と。アイーシャってのが、マナリエルが言っていたヒロインってことか。庇うフリしてマナリエルに恥をかかせようとするなんて、いい性格してるな。中級精霊と契約できたなら、それなりの能力はあるんだろうけど。でもマナリエルから魔力を与えられたフゥが本来の姿を見せ、それによって聖獣王としてのマナリエルの立場が確立された。そしてマナリエルの呼び掛けで大勢の精霊が集まり無事解決。こんな感じで合ってるか?」


「だからさっきからそう言ってるじゃない」


「言ってないわ!!」


 間髪いれずにクイラックスの突っ込みが刺さる。まぁまぁと宥めるロイは、どこか楽しげだ。立ち上がる勢いのクイラックスを落ち着かせ、話は続く。


「マナの話で、精霊と聖獣は対等ではないってことは分かった」


 なぜだ、というクイラックスの唸るような呟きは無視する。

 そう。精霊と聖獣が対等ではないことは、あの日フゥちゃんが教えてくれた。つまりあの場にいた者全てが周知しているということだ。もちろん、アイーシャも例外ではない。


 そうね、と私は強く頷いた。


「精霊の上に聖獣が君臨し、その上に君臨するのが私。そこは披露目の儀でアイーシャも理解しただろうし、何かしようとすればビスタが止めるはずよ。さすがにもう対抗してくることはないと思うわ。……今さらだけど、我ながら最強じゃない?」


 冗談めかしてみたものの、ソウシの反応は予想に反していた。真っ直ぐこちらを見て、軽く鼻を鳴らす。


「聖獣王であろうとなかろうと、弟にとっちゃ姉は世界最強ですよ」


 その言葉が嫌味なのか好意的なのか、今は議論するのはよそう。口角を上げているソウシの目は、笑っていない。


「マナ」


 ふいに低くなるソウシの声に、ビクリと肩が揺れる。


「俺はマナが笑って生きてりゃ何だっていい。アイーシャって奴が突っかかってくる理由も可能性も、そんなのどうだっていい。俺が話したいのは、どうやってそいつを消すか、だ」


「消すって、ソウシ……」


 あまりにも予想外のワードが耳に届いた。それに続く言葉は見つけられず、喉元まで上がってきた空気は静かに下へ落とされた。


 私の弟はこんなことを言うような人間だったろうか。いや、そんなはずはない。いつでも明るく、誰にでも──ましてや女の子には優しく接することのできる子だったはずだ。驚きと同等の悲しみが生じる。


「ソウシ、一旦落ち着け」


 ロイの鋭い視線がソウシを刺す。しばらくお互い譲ることなく火花を散らしていたが、諦めたソウシが息を吐き、力が抜けたように椅子へ腰を落とした。


「悪い、感情的になりすぎた」


 そう言って呼吸を整えたソウシの表情は、いつも通り、ただの目付きの悪い生意気な顔に戻っていた。


「で、アイーシャの何を決める話し合いなんだ?」


 本気でそれ以外の選択肢を持っていなかったのか、さっぱり分からないとでも言いたげな表情である。


「アイーシャ本人というより、彼女の周辺で不穏な動きがある」


 そう発したのはロイであり、彼もまた神妙な顔つきをしている。不穏な動きとは、恐らく茶会でシャルロッタから聞いた件だろう。


「アイーシャに危害を加えようとした生徒が、次々とケガをしているんだっけ?」


 確認のために問えば、ロイは軽く頷いた。詳しく聞けば危害と言ってもピンキリで、それこそ遠巻きに嫌味を言っただけでも数週間は学園へ来れなくなるほどのケガをしているようだ。


「そして、そこには闇の痕跡がある、と」


 そう呟けば、こちらもロイから肯定の反応があった。闇、ソウシが小さく声を漏らし思考を巡らす。


「そのアイーシャって奴がやってるんじゃないのか?」


「それはあり得ない。闇魔法を使えば、光の力は失われる。ビスタがいる以上、アイーシャはまだ光属性だ」


「なるほど。じゃぁ誰かが守ってるってことか」


「クイラックス、その件の調査は進んでいるかな?」


 ロイが問えば、クイラックスは申し訳なさそうに眉を下げ、息を吐いた。


「いえ、残念ながら。闇の痕跡を辿ることはおろか、被害にあった生徒も何が起きたのか、一切記憶がないとのことでして……」


「そうか……記憶操作は闇の得意とするところだからな」


「そうなの?」


 それは初めて知ることだ。そんなことも知らないのか、と鼻で笑おうとするクイラックスをすんでのところで阻止する。君にターンは与えないよ。

 

「闇魔法は、人の記憶や感情を操作できる。呪いをかけ、精神や肉体を病ませることも可能だ」


「呪い……」


 そんなものが存在するのかと、ロイの説明に胸がざわりと騒ぐ。


「もちろん簡単に使えるものではない。術者にはリスクが伴うため、闇魔法は強い意思を持って使われ、誰かのために使うということはあまり考えられないんだ」


 ロイの言葉に同意する。闇魔法だなんてゲームの世界でしか聞いたことがないけれど、怨恨や逆恨みによる復讐であったり、それこそ愛する者を蘇らせるだなんて破滅ルートであったり、何にしても自己の欲求を満たすために堕ちていくパターンが多い。もしくは──、


「もしくは、誰か逆らえない者からの命令とか」


 私の思考と重なるように、ソウシが口を開いた。やはり考えることは同じね。どういうことかイマイチ理解できていないクイラックスに、精一杯【そんなことも知らないのか】という顔をして鼻で笑ってやれば、苦虫を噛み潰したような顔が返ってきた。


「逆らえない、というのは家格が上の者ということか?」


 ロイがソウシに問う。


「もちろんそれもある。が、それだけじゃ弱い。例えば王族のロイや俺が国民に命令したところですんなり従うとは思えない。闇堕ちした人間が普通の人生を歩めるとは思えないからな」


 確かにそうだ。命令されてすんなり従えることではない。もし私が従うとするなら……と思考を巡らせる。


「……大切な誰かが人質に取られているか、その相手に身を捧げるほど崇拝している、とか?」


「崇拝……」


 クイラックスが小さく声を漏らしたが、考え込んでいるようでそれ以上言葉を発することはなかった。ソウシは背もたれに背中を預け、大きく息を吐いた。


「犯人の可能性としては、光属性であるアイーシャを崇拝する人間。もしくはそんな人間に従うしかない状態の奴ってところか」


 フゥちゃんの発言を思い返すと、必ずしも光属性=聖女というわけではなさそうだ。しかし闇を払える力を持つ少女が特別な存在であることには変わりなく、ましてやそれがあんなに可憐な美少女となれば、崇めたくなる気持ちも分かる。


「誰が犯人であろうと、誰かがアイーシャを守ろうとしているということは間違いないわね」


 それが直接的であれ、間接的であれ。


「どのような理由であろうと、我が国で闇魔法の使用が禁じられている以上、犯人は必ず見つけ出す」


 ロイの強い声に、その場にいる全員が頷いた。

 それと同時に、やっぱり学園のトップ(エンダー)は給仕してる場合じゃないと強く思った。はよ戻ってこんかい。

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