表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~  作者: 白梅 白雪
課金令嬢はしかし傍観者でいたい
1/111

プロローグ

 


「はい、全クリー。そっちは?」


「余裕」


 気だるそうにコントローラーを放り投げるソウシを横目に、私はベッドでゴロゴロと横になりながらスマホを眺める。またうたた寝して顔面に落とすぞ、と憎たらしい嫌味は無視に限る。

 画面では、壮大なラブバラードとエンドロールが流れていた。合間にゲーム中に入手したスチルが出てくるので、まるで本当に彼と激動の人生を駆け抜けた気持ちになる。


「はぁ、やっぱ王道は最後に取っておいてよかったわ」


 私がハマッているのは、スマホの恋愛アプリゲーム。いわゆる『課金してアイテムをゲットしないとスペシャルルートに行けない』やつだ。ハッピーでスイートでロイヤルなストーリーを見るために、いったいいくら注ぎ込んだだろう。……計算するのは止めておこう。


 いずれにしろ、このハマッていたゲームは一通りのキャラをクリアした。えもいわれぬ達成感とはこのことね。これは個人的なこだわりだが、私は割りと王道キャラは最後に取っておくタイプで、まずはあまり興味のない相手を先にクリアしておく。だって全クリが目的なのだから、最後は一番お目当ての相手で締めたいじゃないか。


「で、金に物言わせて男を手に入れた感想はどうよ」


 ソウシは小馬鹿にしたように、鼻で笑う。


「聞き方よ、あんたバカねぇ」


 私は思わず身を乗り出した。課金の何がいけないのか。だって、そのアイテムを買わないとハッピーでスイートでロイヤルなストーリーに進めないのだ。なんならスチルも手に入らないのだ。これまで必死に上げた経験値や好感度を見ると、ノーマルエンドで納得できるわけがない。

 そんなことは、きっと無課金派のソウシには説明しても理解してもらえないんだろうけど。そう思った私は、開いた口をきゅっと結び、もう一度ベッドへダイブした。


「そういうあんたはそれ何周目よ」


「覚えてねえよ」


 ソウシは私の2つ下の弟で、同じく腐人と化したゲーマーだ。ソウシは無課金タイプで、スマホのゲームでも課金はしない。今はテレビゲームのソフトに夢中で、それを何周も何周もクリアしていき、引き継いでいったスキルがやばいことになっている。

 ラスボスを一撃で倒せるレベルでスタートの村から始めていくのが面白いらしい。よく分からないけど。

 テレビを覗くと、またデータを引き継いで始めようとしている。主人公は主役らしい端正な顔立ちで、私好みの黒髪紅眼。うん、彼も攻略対象としていけるわ。

 けれど、スキルを見るとえげつなさに震えた。レベル865とか見たことない。魔法スキルもかなり高めだが、何より体力と剣術がMAX振り切ってるんじゃないかってくらいある。今回のゲームはかなりのめり込んだのだろう。周数を覚えてないわけだ。


「ん?なんだこれ」


 呆としているとソウシが眉を寄せた。目線の先は、テレビゲーム。もう一度最初から始めたのではないかと画面を覗きこむと、黒い画面に一言、メッセージだけが白く浮き出ている。


『生きたいですか?』


 たった一言なのに、心臓がきゅっと捕まれたような気味の悪さを感じた。幽霊を見た時のような、肝が冷えるあの感覚。幽霊見たことないけど。


「ねぇソウシ、いつもこんな───」

「マナ!」


 いつもこんなメッセージが出るのか、そう聞こうとした途端、ソウシが「YES」のボタンを押し、勢いよく私を抱き寄せた。抱き寄せたというより、まるで覆い被さるような強引さだった。少女漫画定番の強引なハグも、弟相手じゃキュンとしないわね。

 てか、こいついい加減お姉ちゃんって言えよ。



 それからどうなったのかは、覚えていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何気ない感じの会話で、仲いい姉弟ってこんな感じだよなぁ。って思うほど自然な会話ですね! これからの展開と繋げても全然違和感なくって、本当に凄いと思います! 文章の運び?というのですかね、そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ