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アーカイブスの本マニア  作者: マオ
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一章・新しい本見つけた!・5

 そのまま奥まで進む。おそらく、問題の本はギルドの偉い人、アルジャードが出てきたのだから、偉い人しか行けないような場所に保管されているのではないかと予想していた。

 下っ端ではとても行けそうにないところ。重大機密保管場所とかわかりやすい名称の部屋があれば良かったのだが、そんな部屋はなかった。魔術師ギルドの重鎮は、そこまで愚かではないようだ。おかげでそれらしい部屋を探すためには、手当たりしだいに探し回るしかない。

 夜間だからだろうか、人の姿は廊下にはそれほど多くない。おそらく自室か研究室にこもっているのだろう。たまに警備なのか小間使いなのか、大小のゴーレムが動き回っているのが目に入る。擬似生命体で、魔術で作られるものだ。主に結晶などから作られることが多い。過去、生肉から作り出したら、擬似生命体ではなく、生き物に等しくなるのではないか、と研究を重ねた人物もいたが、肉が腐ってただならぬ異臭を発してしまい、周囲からの苦情が殺到、やむなく研究を断念したと言う逸話もあることをルルは知っている。

 ギルド内を歩きまわっているゴーレムは色から大きさから千差万別で、それを見ているだけでも実は結構楽しかったりする。今回は残念ながらそんな余裕はなく、資料閲覧室とは間逆の方向に行ったり来たりを繰り返し、そろそろ怪しまれるのではないかと心配になってきた頃、立派なゴーレムが二体立っている部屋を見つけた。

 綺麗な虹色に光るゴーレムだ。大きさはテトより一ヤール(一メートル)は大きい。頭が天井をこすりそうなくらいだ。重さを考えると、テトとルルを足して二乗してようやくつりあうかもしれない。ここまで巨大なゴーレムが、いかにも何かを守っていますといわんばかりに部屋の前から動かないのだ。中に何かがあるのは間違いない。これで誰かの護衛ゴーレムで、中にいたのはお偉いさんとかいう話だったら、即座に転換してそ知らぬフリで他を探そうとまで決めて、ルルは足を踏み出した。

『ココは立ち入り禁止デス』

『タダチに退去して下サイ』

 近寄るなり、二体のゴーレムは言葉を発した。ルルは思わず目を見張る。このゴーレムはかなりの実力を持った人物が作り出したものだろうと分かったからだ。彼女の知識の中でも、喋ることができるゴーレムというのはマレだ。実力のない人物が作ると、言語能力まで魔力が及ばないことが多い。よって、出来上がるのは、命令を聞きその通りに動くけれども応用のきかないゴーレム、となる。

 ためしに問いかけてみた。

「あの、道に迷ったんだけど、研究棟にはどう行ったらいいの?」

『研究棟はココからまっすぐ進んで二つ目の角を右デス』

 彼女の問いかけにゴーレムはよどみなく答え、指をさしてまで教えてくれた。案内機能までついている。きっちりとこちらの言動を受け止めている証拠だ。

言語を喋り、介するというだけで、製作者はかなりの実力があると判断できる。

「すごい。これ作った人、かなりの実力あるよ」

「え、そうなのか?」

 テトには見当がつかないようだ。ルルは彼に説明するために一旦ゴーレムたちから離れた。

「だってあれ、喋ってるもん」

「普通は喋らないのか? 幻想絵巻だと守護ゴーレムってけっこう喋るけど」

「普通程度の実力の人が作ると、言語能力まで魔力は回らないよ。ましてあそこのゴーレム、ちゃんと受け答えしてたよね? 道案内までしてくれたし。かなり上等なゴーレムだよ」

「ルル、詳しいな。魔術師でもないのに」

「い、いっぱい本読んだからね」

 上質なゴーレムは上質な製作者から生まれる。上質な製作者とは実力のある魔術師で、実力のある魔術師が作り上げたゴーレムが、弱いわけもない。

 そんなゴーレムが守っている部屋。絶対に何かある。

「あそこか、本」

「まだ決めるのは早いよ。物じゃなくて人を守っている可能性もあるから」

「あ、そうか……自分の警護にゴーレムを作り出すってこともあるもんな」

「確かめてくる」

「え」

 言うが早いか、ルルはテトを置いてさっさとゴーレムに歩み寄った。ちょっとゴーレムに小突かれただけで、彼女は簡単に死ねるだろう。もっともルルに死ぬつもりはなく、彼女は簡単な問いかけを口にしただけだ。

『ココは立ち入り禁止デス』

『タダチに退去して下サイ』

 先ほど近寄ったときにしていた警告を繰り返してくる。同じ相手に同じ警告をしてくるあたり、記憶能力はさほど重要視されて作られていないのだろう。

 その辺に付け込む隙がある。彼女は矢継ぎ早に言葉を繰り出した。

「ここには何があるの?」

『答えるコトはデキマセン』

「答えなくていいよ。教えてくれればいいの」

『教えるコトはデキマセン』

「教えてくれなくていいよ。喋ってくれればいいの」

『喋る……』

「話してくれればいいよ?」

『本デス』

「そう、ありがとう」

 確証を得たルルは、にっこりとゴーレムに微笑みかけてテトのところに戻った。見ていただろう彼は目を丸くしている。何が起きたのか分からなかったらしい。

「なぁ、何で教えてくれたんだ?」

「種明かし。実はゴーレムは単純な命令しか聞けません。何故なら脳みそのない擬似生命体だからです。記憶能力に魔力を注げばその欠点も改善されるんだけど、そこまで記憶能力を重要視してないみたいだったから、今みたいに早い質問に対応し切れなくて答えちゃったわけ。さすがにあれだけ質のいいゴーレムだと応用もきいたみたいだけど、それも三つまでだったね」

「ああ、そうか。理解できた。要するに、早く話しかけて混乱している間に聞き出したんだな」

「そういうこと」

「本当に詳しいなー、ルル。どんな本にそんなこと書いてあるんだ? 俺も読んでみたい」

「え、ええと、アーカイブスに来る前に読んだ本だから!」

「なんであわてるんだ?」

「べべ、別になんでもないよ?」

 どもりながらもルルは考えている。あの部屋に問題の本があることは間違いないだろう。今アレだけ問題になっているのだ、これで違う本ということはないはずだ。

 一旦ゴーレムが守る出入り口から離れ、ぐるっと回って反対側の廊下で座り込む。本が置かれている部屋は分かったが、部屋への侵入方法が難問だ。何せ出入り口の前には強そうなゴーレムがいる。

 あれを撃破して入るというのは最初から却下。勝つことが無理なのは確実だし、戦闘など起こしたら大騒ぎになって人が集まってくる。そぅっと入って、そぉっと出て行きたいのだ。さて、どうすれば侵入できるだろう。

「窓はない、よな?」

「うん。ないね」

 周りを廊下で囲まれており、出入りできる場所はドアだけ。そんな場所だから保管場所に選ばれたのだろう。用意に侵入されないよう、何か変化が起こっても対処できるよう、無生物であるゴーレムに守らせているのもそういう理由のはずだ。

「テト、小突かれてみない? 死んだフリして痙攣(けいれん)したら誰か呼びに行……かないか。ゴーレムって、あそこを守れって命令されているなら動かないものだし」

「それ以前に、アレにちょっと小突かれただけで俺は死ぬぞ」

 ごっつんとされただけで死ねる自信があると、テト。それももっともな話なので、ルルはそうだよねと頷いた。そこまでの無茶をさせる気は、さっきまではちょっとあったが、今はない。

 作戦を考えなくてはいけなくなった。ドアに鍵がかかっている可能性もある。鍵を持っているのは当然偉い人だろうし、合鍵がそのあたりの部屋に転がっているとも思えない。

 ここまでが順調すぎたのだ。ルルは寄りかかっている壁に手を添えた。この向こう側に本があると言うのに、中に入ることが難しい。壁をさすっているルルを見て、テトも案をひねり出す。

「壁壊すか」

「どうやって?」

「……つるはしで」

「無理」

 一瞬でダメ出しである。つるはしなど使おうものなら、音がして即座に人が来る。大体、持ち込めるわけもない。

「あのゴーレムを何とかしないと入れない。ドアには多分鍵……これは魔術でも使えないと潜入は無理じゃないか?」

 テトの呟きに、ルルは眉間にしわを寄せた。魔術。

 本を救い出すためには、部屋に入らないといけない。

 魔術。魔術師。魔術師ギルド。屈強なゴーレム。

「……合言葉」

「は?」

「ゴーレムって合言葉に反応するの。合言葉が分かれば通してもらえるはず……作った魔術師が設定するから……ここのギルドの権威はリロンさんだったけど、あの人はゴーレム作成というよりは火属性の魔術の権威で……ここで一番ゴーレム作成ができる人って確か導師のアルジャードさんのはずだから……ってことは彼に関する言葉が合言葉……」

 ぶつくさと呟くルルを、テトが目を丸くして凝視している。

「ルル?」

「え、何?」

「詳しいな」

「あ! こ、これは別にたいしたことないよっ? アーカイブスに来る前にいたところでちょっといろいろあってね! ギルドの関係者と仲良く……仲良く……まぁ、あんまり聞かないでくれる……?」

「おおお、おう! 聞かない! 聞かないぞ!」

 据わった目で不穏に呟くと、何かを感じ取ったのか、テトはあわてた様子で頷いてくれた。あまり思い出したくない過去なので、説明するのも嫌なルルである。

「ええと、そういうわけで、合言葉。アルジャードさんに関係する言葉だと思うんだよね」

「そういうもんなのか?」

「多分。全く関係ない言葉を使うほうがマレ。関連性が高い言葉を連呼すれば、そのうち合言葉にひっかかるんじゃないかな」

「手当たり次第って言わないか、それ?」

 的を得たテトの言葉だ。そもそも深い知人というわけでもないので、アルジャードに関連する言葉というものが彼には思いつかないのだ。

 かといって、手当たり次第に単語を叫ぶと、合言葉に辿り着く前にギルドの人間に見つかりそうである。時間がかかりすぎる。

 ルルは少しの間考えた。できることはある。しかし彼女にとってそれはやりたくないことの筆頭でもあった。ここで悩んで時間の経過を許せば、ギルドの誰かに見つかり、外に出される可能性が高くなる。そうなると、本の無実も証明できなくなり、話題の本を読むこともできなくなる。

 彼女は決心した。

「テト、ちょっと目をつぶって耳を塞いでてくれる?」

「へ?」

「あたしゴーレムを説得してくるから」

「は?」

「いいから、目つぶって耳塞いでて。見たら今度から取り置きしてあげない」

「分かった、見ない!」

 彼は即座にルルに背を向けて耳を塞いだ。ありがたく思いながら彼女はゴーレムのところに行く。テトに聞こえないように口の中で声を発した。


「テトー、もういいよ。入れるから、こっち来て」

 ……テトが彼女に呼ばれたのは、それからすぐのことだった。

 目を開けて彼女の声がしたほうに振り返れば、ゴーレムが足音を立てて部屋の出入り口から離れていくのが見えた。

「なにやったんだ?」

 足早に近寄ってくるテトに、ルルは苦笑いするしかない。今は本当のことを彼に説明する気はないのだ。

「説得、かな」

「ゴーレムに?」

「中入ろ」

「お、おう」

 あっさりとテトの疑問を流してのけ、ルルはドアノブに手を伸ばす。鍵もすでに開錠してあった。どうやってやったのかは、やはり彼にはまだ内緒だ。

 頭の周囲に?マークを飛ばしているテトを連れ、室内に入ってドアを閉める。暗い部屋だったが、二人が入ると壁際の明かりがぼんやりと灯った。人の気配に反応する魔術がかかっている魔術具なのだろう。明かりに照らされて、部屋の中央に置かれたテーブルが浮かび上がる。 その上に、ヒモでぐるぐる巻きにされた本が置かれていた。

 これが問題の本か。

「ああ! なんて酷いことを! 表紙が傷むじゃない!」

 ルルが叫んで駆け寄る。恐れもなくヒモをほどき、念願の本を手に取った。

「さぁ、ナゾの本ちゃん、あなたの無実はあたしが晴らしてあげるからね!」

 やっと出会えた本の表紙を指で撫でる。そのとき、気がついた。本の装丁。見たことがあるような、ないような。覚えがあるような気がするが、見た覚えもない気がする。おかしな既視感に首をかしげて題名を確認しようとしたときだった。


『助けて……!』


 すがるような声がして、閃光が視界を埋めた。


ようやくあらすじの部分まで辿り着いたような気がします……;

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