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アーカイブスの本マニア  作者: マオ
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四章・貫くのもほどほどに・4

「剣も魔術もダメなのか! どうしろっていうんだよ!?」

 テトが声を上げる。

 確かに言いたいことはルルにも分かる。剣は喰われ、魔術は意味がない。これでどうやって文字喰いを倒せと言うのか。呼び込んだ精霊も、もう少し対抗する手段を考えてくれればいいものを。

 物語ならば、この辺で空から光が差して、ナゾの声が弱点を教えてくれたり、強い魔術を唱えてくれたり、強敵を弱体化してくれたりするものだ。

 ルルは空を見上げてみた。暗いままで稲妻が走るだけだった。

 助けは期待できない。それだけは理解できる。本の精霊は文字喰いに近付くこともできないと言っていた。本の中の生き物は文字喰いに近付くことすら命取りになるのだろう。

 ふと、天啓のような考えがルルの脳裏をよぎった。本の精霊が自分たちを引きずり込んだ理由は? 現実世界の人間でなければならない理由は何か? 

 ――もしかしたら。思いついたので実験してみることにした。

「テト、あんたの剣抜いて、切ってみて」

「え!? イヤだ! 喰われるだろ! 俺これがなくなったら戻ったときに仕事ができなくなるじゃないか!」

 食いぱっぐれるとテトは腰の剣を押さえた。戦士である彼にとって、剣は大事な相棒である。気持ちもよく分かるのだが、まさか生身で実験するわけにもいかない。

「いいから。もし喰われたとしても、あんた今フトコロあったかいから、新しい剣くらい買えるでしょ!」

 本を魔術師ギルドに売っぱらったため、テトは結構な金額を手にしている。剣の一本や二本余裕で買えるだろう。にっこりと笑いかけて、ルルは畳み掛けた。

「それに、戻れるかどうかはテトにかかってるよ? あたしたちは、役に立てません」

「くっ」

 確かにそうなので、テトも反論してこなかった、魔術師二人が役に立たないし、ルルは一般市民。冒険者のテトが頑張るしかないのだ。

 彼も理解しているようなので、剣を引き抜いて走っていく。多分にヤケクソのようだ。

「うぉおおおぉおっ!」

 掛け声が捨て鉢にも聞こえた。文字喰いはドラゴンを喰うのに夢中らしく、ほとんど無防備だ。テトが剣を振り下ろす。

 文字喰いは――喰らいついてこない。剣が切り裂いた場所の文字が蠢き、痛がっているようにも見える。

 ルルは自分の予想が正しいと理解した。文字喰いは、現実世界の物を喰えないのだ。これこそ本の精霊が自分たちを引き寄せた理由なのだろう。

 文字喰いは形容しがたい雄たけびを上げ動き出した。ドラゴンから離れ、形を変えながらテトに向かっていく。ドラゴンの形をしていた体がぐにゃりと歪み、サイズはかなり大きいが人型になった。狙う相手の形を取る習性でもあるのか。

「テト、そのまま斬って、斬って! そいつ、現実世界の物を喰うことができないのよ!」

「なにぃ!?」

「見てて思ったの。文字喰いでしょ? 文字を食べるんでしょ? ドラゴンもお姫様も本の中の存在で、突き詰めれば文字! でも、あたしたちは違う。本の精霊が呼んだほかの存在で、文字じゃない! 精霊も、だからあたしたちを引き入れたんだよ!」

「「なるほど!」」

 ルルの説明に魔術師二人が声を上げた。彼らは背中に背負った武器に手をかけ、一歩を踏み出した。戦おうと思ったらしい。

 が、次の瞬間、文字喰いが鈍重に振り下ろした腕が地面をへこませたのを見て、止まる。

「……喰われないだろうけど、殴られたら死ぬ、かな?」

 オルトがルルを見る。ルルは頷いた。あの勢いで殴られたら。

「多分死ねるね……」

 即死コース一直線だろうと思う。ニズが即座に武器から手を離した。

「見学していましょう。テトくん、頑張ってください」

「テトさん頑張ってね!」

「そもそも、私とオルトの武器は途中で手に入れたものですから、喰われますよね」

「あ、そうか。そういえばそうだった。さすがニズ先輩」

「こんの役立たずーッ!」

 テトの絶叫も無理はないだろう。孤立無援もいいところだ。

「ガンバレ男の子―」

 ルルも応援してあげようと声をかけたが、彼は嬉しそうではなかった。まぁ、当然だろう。テトが必死で斬りつけると、文字が飛び散り、宙に溶ける。確実に攻撃は効果を発揮している。ちょっとずつ文字喰いは小さくなっていったが、あくまでもちょっとずつである。小さいナイフで大木を削っているかのようだ。ドラゴン並みの体躯を地味に削っていくのは気が遠くなりそうな作業で、しかも相手はおとなしく削られてもくれない。攻撃を避けながらなので、テトも大変だ。このままでは遠からず彼の体力が尽きるだろう。

 そうなれば、ルルたちも戻れない。

 ルルは眉間にしわを寄せた。帰れないと、これから先出会うはずの本たちも読めない。

『古書の家』にも帰れない。『アウローラ』にもまだ出会っていないと言うのに。

 決心のときだ。皆で生きて帰るか、ここで死ぬか。

 考えるまでもない。ルルは死なせるのはイヤだったし、死ぬのもイヤだった。

 帰らなければならないのだ――どんな手段を使ってでも。

 彼女は口を開いた。この上もなくイヤだったが、命には代えられないのだ。唇から流れ出す言葉を聞いたニズが驚いている。

「ルルさん、それは……あなた、魔法を使えるのですか!?」

 そう、今彼女が唱えているのは『魔術』ではなく『魔法』だ。魔力を吸収し、拡散させて現象を起こす魔術ではなく、魔力を吸収し、固定することによって現象を確定する魔法である。

 ニズの問いに仰天したのはオルトとテトだった。

「ええ! ルルさん魔法使えるの!?」

「本当か!? 何で今まで教えてくれなかったんだ!?」

 彼らの言葉を聞きながら、ルルは呪文を唱え終わった。集う魔力へ確定の言葉を口にする。

「祝福舞!」

 柔らかい輝きが、文字喰いを(・・・・・)包んだ。

「ルル!? 向こうを回復させてどうする――」

 テトの声は、爆発音と煙に掻き消された。魔術師二人が目を丸くしているのをルルは感じ取った。無理もない反応だ。一般的に、魔法は回復と補助を司る。断じて煙や爆発が起こるようなものではない。分野違いでもそれくらいの知識はあるのだろう。

 煙が晴れ、文字喰いの姿が露になった。人型の肩の辺りがごっそり抉られたようになくなっている。

 男三人には何が起こったのかわからないようだ。それも当然である。状況を理解しているのはルルだけだ。

 彼女はかまわずに呪文を唱え始めた。それに今度はオルトが目を丸くする。

「ルルさん?? 魔術も使えるの!?」

 次に彼女が口にしたのはれっきとした魔術の呪文だ。見習いでもその辺は理解できたのだろう。ニズなど言葉もない。それもそうだ。系統が両極である魔術と魔法を双方使いこなすことができるものなどそうはいない。

 しかも、ルルのような若さで双方を扱うことができるものなど、ほぼ存在していないはずだ。

「炸爆陣!」

 解放の言葉が紡がれる。

 ……間があった。普通、発動は瞬間だ。先ほどニズとオルトが魔術を使ったときには、瞬間で発動し、無効化していたが、ルルが使った魔術は発動さえしていないようにも見えた。その理由をよく知っている彼女は、呻く。

「うあ、まず……っ! テト、離れて!」

「へ?」

「ニズさんとオルトくんは伏せる!」

「「え?」」

 焦って指示を飛ばす彼女の剣幕に、反射的にテトは文字喰いから離れようと走った。咄嗟に距離を稼いだ瞬間、文字喰いの胸部分がぐっと縮まったように見えた。

「あああ、伏せてーーーーっ!」

 ルルの悲鳴に、咄嗟に全員が伏せた、次の瞬間。

 無音の衝撃が炸裂した。音が『しなかった』のではなく『聞こえなかった』のだ。耳が聞こえなくなるくらいの衝撃が走り抜けるのを全員が感じていた。

 衝撃が消えた後、しばらく起き上がれなかったくらいだ。辺りには土煙が湧き上がっており、ほとんど何も見えない。互いの姿さえ視認できないくらいだ。

「……ルル……何、したんだ……?」

 一番頑丈なテトが起き上がったらしく、真っ先に訊いてくる。

「魔術……だけど……」

 なんとか起き上がり、彼女も答えた。

「普通の魔術では……こうはなりませんよ……何をどうしてこうなるのですか……?」

「死ぬかと思った……」

 魔術師組はぐったりと言ってくる。

「というか、お前が魔法も魔術も使えるなんて知らなかったぞ? 凄いことなのに、なんで今まで言わなかったんだ?」

「……見てわかったでしょ」

 テトの言い分ももっともだが、ルルとしても言いたくなかったのだ。魔術も魔法も使えない(・・・・)、などとは。

「? 分からん」

 立派に使っていたように見えるのだろう――彼から見れば。

「暴発するの」

「へ?」

「暴・発・するの! 魔法も魔術も! あたしが使うと!」


ええ、ルルは暴発魔術師ですw

まともに魔術・魔法が使えませんw

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