拘置所
10年以上前に書いた作品です。
所々、「やっぱり幼い文章だな」と思うところがありますが、ほぼそのままにしてあります。
過去の作品と現在の作品を比べて、自分なりに成長を感じられるように…と(n*´ω`*n)
少し恥ずかしいですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
―1980年。
ある朝、椎名隆弘は拘置所内を歩いていた。鉄板をうつ、冷たい足音が響く。
椎名は、看守である。年齢は40を過ぎたころ。しかし、余程の鍛錬を積んできたのか、いかにも屈強そうな体躯をしている。
今、彼は、ひと月ほど前に連れてこられた囚人のもとを目指していた。
「おい」
野太い声が響く。
「起きているんだろう」
椎名は呼びかける。だが、鉄格子の中の男は、簡易ベッドに横たわったまま、何の反応も示さない。
「晴海」
名を呼んでみても、動く素振りすら見せなかった。
「朝飯だ。出ろ」
椎名は、いささかどすのきいた声で言った。
「鍵は開いている。お前以外は全員食堂に向かった。ここでは規則は絶対厳守だと言ってあるはずだぞ」
しかし、やはり返答はない。そんな彼を前に、椎名の口をついて、とんでもない言葉が飛び出してきた。
「まあ、お前などはこのまま飢え死にしてもらってもかまわんのだがな」
すると、それまで静かだった鉄格子の中から声が上がる。
「やはり起きていたな」
晴海はふんと笑うと、横たえていた躯を起こした。
「それが看守の言うことかよ。判決はまだだぜ」
「お前は死刑になる」
椎名は、はっきりと言い放った。
晴海の罪状は殺人である。警察官を殺したのだ。それ以前にも強盗殺人をやらかしている上に、窃盗と詐欺の常習犯でもあった。
「必ずな」
まるで、晴海を死刑に追い込まんとしているかのようだ。椎名の瞳には、確かに憎悪の色が浮かんでいる。それを見止めた晴海は、またもにやりと笑った。
「俺は相当嫌われているらしいな。あんたに何かしたかよ」
問われ、何かを言いかけた椎名だったが、結局、無言のままに晴海に背を向ける。
「お前との無駄話もここまでだ。早く出ろ」
しかし、晴海は起こした躯を、再びごろりとベッドの上に転がした。
「いい加減にしろ。これ以上、お前の勝手な行動にはつき合えん。さあ、早く出るんだ」
椎名の怒声が、狭い鉄壁の部屋に痛々しく反響する。
「いいじゃねぇか。俺はどうせ死刑だ。飢えて死のうがかまわねぇ…あんたもそう言っただろう」
「死刑だろうが何だろうが、お前はいずれ裁かれる。それまで囚人に勝手な行動をとらせないために俺がいるんだ。お前がどんな死に方をしようがかまわんが、ここで死ぬことは許さん」
椎名がそう言ってみても、晴海は一向に動く気配を見せない。
「これ以上そうしているつもりなら、厳罰を与えてやることになるぞ」
そこで、晴海は再びベッドの上に躯を起こした。
「わかったよ」
そう言うものの、晴海は依然としてベッドに腰を下ろしたままだ。何のつもりだと見遣れば、晴海は意外なことを口にした。
「なあ、あんたさ、俺と少し話さないか」
椎名は長いこと看守をしているが、晴海以上に何を考えているかつかめない奴を知らなかった。
「囚人と看守の必要以上の接触は許されん」
「誰も見ていないさ」
「いいか、晴海。俺はお前を食堂に連行するためにきたんだ。出る気がないなら、力づくにでも引っ張り出すまでだ」
「へえ。できるのかよ、たったひとりで」
すると、今度は椎名が、嘲笑というに相応しい笑みを溢す。
「なめるなよ。俺は格闘技が得意だ」
「そうかい」
それきり黙ってしまった。椎名は唇を噛む。晴海の思考が読めないことに苛立ちを感じたのである。
椎名は、晴海が話をしたいと言った時、自分を困惑させようとしているのだろうかと考えた。しかし、本当にそうなのかわからない。また、喧嘩を売っているのかと思えば、引き際がいやにあっさりしている。それと気になることがひとつある。先ほどの晴海の言動だ。まるで、死を望んでいるかのような雰囲気を含んでいたように思う。
囚人と看守が必要以上に接することは禁じられている。しかし、晴海の言ったようにここにはふたりきりだった。
椎名は晴海に尋ねた。
「なぜ、俺と話をしたいんだ」
椎名が自分と話す気になったことに満足したように、晴海は答える。
「あんた、俺が嫌いだろう。いや、憎んでいるよな」
その言葉に、椎名は目を見開いた。
「ここにきた時から感じていたんだ。あんたは俺を憎んでいる。違うか」
どう答えてよいものだろうか。しかし、まっすぐに向けられた晴海の視線からは逃れられない。椎名は、肯定するように首を振った。
「ああ、そうだな」
「やはりな」
「だが、俺はお前と他の囚人を差別した覚えはない」
「ふうん。仕事に私情は挟まねぇってわけだな」
「ああ」
「俺は、ちょっと気になっているんだ。あんたとは初対面のはずだな。なのに、何でそうも恨まれているんだい」
椎名は、それまで扉側に向きがちだった躯を晴海の方へ向き直した。そうして、向けた瞳には憎悪の炎が、ありありと燃え滾っていたのである。
「お前が、秋山信を殺したからだ」
椎名は言う。
「秋山、信」
「お前が殺した刑事だ」
「ああ、覚えているぜ。あの、若い刑事か」
「まだ30だった」
「俺よりひとつ年下だな」
「お前が奪った命だ」
「そいつ、あんたとどういう関係だったんだい」
感情に任せて暴れ出しそうだった椎名は、晴海の問いかけに落ち着きを少しだけ取り戻した。
「それを聞いてどうする」
「べつに。どうもしないさ」
おさまりきらない憎悪の念を鎮めようと、椎名はひと呼吸おいて話し出す。
「7年前まで、俺は秋山と同じ職場で働いていた。秋山が刑事になったばかりのころ、奴に警察官としてのいろはを教えたのが俺だ」
「じゃあ、あんたは秋山って奴の先輩にあたるわけだ。でも、妙だな。あんたは看守だろう」
問えば、椎名は少しばかり苦い表情を見せる。
「俺も、刑事だった」
「やめちまったのか」
「ああ」
「なんでさ」
「お前に言う必要はない」
椎名は、晴海の前をぐるりと歩き、
「秋山とは、ひとまわりも離れてはいるが互いに親友と思っていた。職場が違っても、それは変わらなかった」
と言った。
「つまり、あんたは俺が許せないんだな。あんたの親友を奪っちまったから」
椎名は、晴海に冷ややかな目を向ける。
「だが、俺はもうじき死ぬ。それで勘弁してくれよ」
随分と観念的な晴海の物言いに、椎名は俄かに眉を寄せた。
「まだ、判決は出ていない」
「死ぬんだよ」
晴海はすぐさま切り返す。
「お前は、生きる気がないのか」
問われて、晴海はふと笑った。その笑みは自嘲を含んでいるように、椎名には思えた。
「俺には、弟がいたんだ」
唐突に言う。
「俺たちは孤児だった」
うつむいていて表情はわからない。
「ガキのころは孤児院で過ごした。だが、そこはとんでもない魔の巣窟でな。俺たちは、毎日繰り返されるひどい虐待に耐えていた」
「だから、こんな生き方しかできなかったのだとでもいうつもりか」
「いや。弟は、孤児院を出てからもしっかり生きていた。生きられなかったのは、俺だよ」
「…親はどうした」
「さあな。顔も覚えちゃいない」
「違う。里親だ」
「いない。弟が引き取られていったその日に、孤児院を抜け出しちまったからな」
晴海は、幼いころのことを淡々と語った。
軽い口調で話す晴海の言葉がどこまで本当のことであるかはわからない。だが、それでも、とても仲のよい兄弟だったのだろうということだけは充分に伝わってきた。
「いくつの時だ」
「弟か」
「お前だ」
「9歳」
「どうやって生きてきた」
「それは、もう知っているだろう」
椎名は俄かに顔をしかめた。同情したのだ。先ほどまでの怒りも忘れて、晴海の境遇を哀れと思った。だが、それもほんの一瞬だけのこと。
「その歳で、すでに犯罪者だったのか」
「盗まなきゃ生きていけなかったんだ。それがいけないと言うなら、9歳児でも公然と働けるような環境を作ってくれよ、お巡りさん」
「盗みだけじゃないな。ペテンもやるそうじゃないか」
「ついでに、スリも加えといてくれ」
「反省の色はまるでなし、か」
「確かに、ろくでもない人生送ってきたよ、俺は。でも、後悔はしない」
言ってから、はっとしたように言い改めた。
「一度…いや、二度だけあるな。特に二度目は、俺の人生最大の悔やみだ」
ふと、椎名の脳裏にある疑問が浮かんだ。
「弟に会ったのか」
先ほど、晴海は「弟はしっかりと生きていた」と言っていた。
「会った。10年以上前に一度、それと今年に入ってから一度…たった2回だけな」
「なら、手紙でも出したらどうだ。面会くらいきてくれるだろう」
すると、うつむいたままの晴海から笑い声がもれた。
「こないさ」
その口調には確信が込められていた。
「なぜだ。弟だろう」
話しぶりから、弟とはとても仲が良いのだと思っている椎名には、晴海の答えが解せない。
「あいつはこない。こられないんだ」
「病床にでもついているのか」
「それなら、まだ希望があったろうがな」
「どういうことだ」
「もう生きてねぇのさ、あいつは」
椎名は言葉を失った。
「たとえ生きていたとして、あいつがきてくれるはずはないんだ。あんなことをしちまった俺には…」
「殺す気なんかなかったんだ」
晴海が口を開いた。
「あんたは、ふたりも殺しておいてって思うだろうけどな」
「その通りだな」
「俺は盗んだり騙したりするのに罪悪は感じない。けど、殺しは別だ」
「だが、お前は現にふたりも殺している。お前がどう思おうが、それは事実だ」
「…悪かったな」
「死を覚悟しての謝罪か。誰に謝る」
「ふたりに。それと、あんたに」
連れてこられた時よりも幾分かおとなしい晴海の態度に、椎名は少々戸惑った。晴海のことは今も許せないが、彼の生きてきた境遇を考えると、いつまでも恨み通せる自信はない。
「悪かった」
またもつぶやくように謝罪の言葉を口にした。
「ありがとう」
次に、さらに小さな声でそう言った。しかし、何に対しての感謝の言葉なのか、椎名にはまるで見当がつかなかった。
「13年前に、俺は、あるおばさんから小さな手さげ鞄を盗ったんだ」
晴海は再び話し出す。
「大事そうに持っているから、金目の物が入っているのかと思ってさ。だが、あんまり抵抗されて…。力まかせに奪ったら、鞄から手が離れた瞬間におばさんは、うしろにのけぞった。そして、そのまま地面に後頭部を強打した」
「立派な強盗殺人事件だな」
「そうまでして奪ったのに、おばさんの鞄には金目の物なんてほとんど入っちゃいなかった。あとで知ったんだ。おばさんにとっては、あの鞄そのものが大事だった。病気で先立った亭主が、自分のために選んで、買ってくれた物だったんだってさ」
「お前は、その婦人からふたつの大切なものを奪ったというわけだな」
「…人生、最初の後悔だ」
晴海は続ける。
「ついでに言うと、二度目の後悔はこの間だ。あんたの親友を奪った一件」
「最大の悔やみと言ったな。最初の事件と何が違うんだ。どちらも殺人だろう」
「あんた、秋山信に聞いたことはないか。刑事になった理由をさ」
突然の問いかけに、椎名はしばし思いを巡らせる。そういえば、刑事になりたてだった彼に、一度だけ聞いてみたことがあった。
「ある男に会うためだと言っていたが」
「俺だよ」
すかさず晴海は答える。
「そいつは仇を追っていたんだ。お袋を殺した奴を」
「待て。何を言っている。どういうことだ」
「そいつは、俺を追っていたんだ。最初に殺したおばさんは、秋山信の母親だった」
晴海は続けた。仇を追っていた秋山信と対峙し、なぜ彼を殺してしまったのか、その経緯を話す。
「信は、いろいろ語ってくれた」
13年前の事件の時、秋山はすぐ傍にいたのだ。母親と買い物にきていた彼は、買い忘れがあったと、ほんのわずかな間だけ母親から離れていた。
用を済ませて帰ってきた秋山は、母親が頭部から出血して倒れているのを発見した。状況を知ろうと辺りを見渡せば、逃げ去る晴海のうしろ姿を見たという。
彼が警察官になったのは、晴海に対する復讐心からであった。
「そして、あいつは俺の前に立った。立派な刑事になってな」
「秋山が、お前に何をした」
黙って聞いていた椎名が、尋ねる。
「会った瞬間、拳銃を向けられた」
晴海がそう答えると、椎名は牢屋の鉄格子につかみかかった。
「ふざけるな。たとえお前が仇でも、秋山は、刑事としての立場を忘れて発砲するような奴じゃない」
「わかっている」
晴海は言う。
「俺は奴が発砲したとは言ってない。拳銃を向けられたと言ったんだ。それに、おかしいとは思わないか。いくら刑事でも、むやみに拳銃は持たせてはくれないって聞いたぜ」
「…その通りだ」
「殺したあとで気づいたんだ。そいつが持っていたのは、ただのモデルガンだった。だが、俺は、奴が俺を殺しにきたのだと思った。俺は、生きたかった」
「どうやって秋山を殺した」
「ナイフで。あの時、ちょっとしたもみ合いになって…。気がついたら、俺の手にしたナイフがあいつの胸に突き刺さっていた」
椎名は思い出した。晴海を連れてきた刑事が言っていたことを。晴海は、秋山を刺したのち、逃げようともせずにその場に立ち尽くしていたのだという。その態度からも、晴海が秋山をわざと殺したわけでないことはわかる。晴海もまた、後悔していると言っていた。
しかし、そんな言葉は何の慰めにもなりはしない。むしろ、何か理由があって殺されたほうが、椎名にとって救いになるような気がした。秋山信もその母親も、確かな理由もなくして、早すぎる一生を閉じねばならなかったのである。
「最大の後悔って言ったのはな、奴が死んだあと、あることに気づいちまったからさ」
次の瞬間、それまで椎名が晴海に対して感じていたいくつかの疑問の答えが、いっせいに押し寄せてきた。また、なかなか先の見えなかった晴海の言葉も、その時、ようやくひとつに繋がった。
「俺の弟の名前さ…信っていうんだ。信は、22年前、秋山家に引き取られていった」
椎名は、しばらくの間呆然としていた。いったいどれほどそうしていたのだろう。ほんの一瞬だったのか、あるいは、かなり長い時間が経っていたのかもしれない。
晴海は、殺してしまってからふたつのことに気がついた。ひとつは、拳銃がモデルガンだったこと。もうひとつは、倒れる時に胸ポケットから落ちた警察手帳に、「秋山信」とあったこと。
「どういう経緯かはわからないが、あいつは俺のことを知っていたんだ。俺が兄であることを…。俺は、生き別れてから、ずっと信を探していた。幸せであってほしいと願っていた。なのに、俺がそれを奪っちまったんだ」
椎名には、もう言葉が見つからなかった。晴海はまだ何かを言っていたようだが、あとは鳴咽に紛れて聞き取れなかった。弟への懺悔の言葉でも紡いでいたのかもしれない。
椎名はようやく理解した。
なぜ、晴海が他の囚人とは違うと思ったのか。晴海からは、生きようとする意志が感じられなかった。そうかといって、自暴自棄になっているようにも見えなかった。
晴海は、受け入れていたのである。
晴海にとっては、弟との再会が生きる糧だったのだ。だから、何があっても生きたいと願ったのだろう。けれども、その想いが災いして、自らの手で弟を消してしまう結果となった。
椎名は思う。晴海は、たとえ死刑にならなかったとしても、判決が出たと同時に自らの命を終えようとするだろう、と。
「俺が刑事をやめた理由だが」
椎名の声に、晴海はわずかに顔を上げた。
「秋山が独り立ちするようになったころ、ひとりの新米がやってきてな。そいつの面倒を俺がみることになった」
その後、しばらくの沈黙が流れた。次の言葉を急かすように晴海が見遣ると、椎名は再び話し出した。
7年前、椎名は新人を連れて、ある殺人事件の犯人を追っていた。どこで手に入れたのか拳銃を所持しており、何人も撃ち殺してきた、凶悪な男だった。
椎名たちは、犯人の隠れ家らしき場所を発見し、張り込んでいた。付近への聞き込みの最中、新人が運悪く犯人と接触してしまった。刑事と知った犯人は発砲し、新人は倒れた。椎名は逃げた犯人を追った。決死の追跡により犯人は捕まったが、その翌日に椎名は辞表を提出したのであった。
「あいつが死んだのは俺のせいだ。経験を積ませようと、ひとりで調査にあてたのがまずかった」
「それで、辞表を出したのか」
「俺は、恐ろしくなった。あいつが撃たれた時、駆け寄るどころか、気がつけば犯人を追うことに夢中になっていた自分に。だが、誰も俺を責めなかった。犯人逮捕こそが刑事の務めだからだ」
最後に、
「俺は逃げたんだ」
時には仲間を見捨てでも犯人逮捕を優先させなければならない、刑事という職業から。再び、「逃げたんだ」…そうつぶやいて、椎名は項垂れた。
そこへ、鉄板をうつ複数の足音が聞こえてきた。徐々にこちらへと向かってくる。食事を終えた囚人たちが戻ってきたのだろう。
何年か経ち、晴海に判決が下った。絞首刑である。晴海の望んだ結果となったのだ。
椎名は上役に事情を話し、晴海の遺体を弟と同じ墓に埋葬してくれるよう頼んだ。それは許可された。
そして、10年の月日が流れ、椎名はふたりの墓前にいた。
「ありがとう、か」
昔、晴海がつぶやいた言葉を口にする。
「晴海。お前は、代わりに弟を守ってくれてありがとうとでも言いたかったのか。それなら、とんだ思い違いだな。俺は、秋山を守れなかった。秋山が仇を追っていたことも知らなかった。しかも、それが実の兄だったとはな」
椎名は空を見上げた。雲ひとつない晴れ晴れとした空を。だが、それとは逆に、彼の心は沈んでいた。
拘置所には、社会が引いた一線を越えた罪人たちが集まる。その数だけ、罪にもさまざまな形がある。
椎名は、50を過ぎた今も看守を続けている。彼は、かつてよりも、いっそうに囚人との間に距離をおくようにしていた。そうでなければ、この仕事からも逃げ出してしまいかねなかったからである。
「俺がこの仕事を続けていられるのも、あと数年だな」
椎名はそう言うと、晴海と信、仲睦まじくも哀しい最期を遂げた兄弟の眠る墓に背を向けた。