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俺は誘われるままにのっそりと立ち上がるとシートの場所まで移動した。
スープを覗くと俺の大好きなビシソワーズだった。
上に浮いてるバジルが凄く食欲をそそる。
ハルトは料理を母親に教わった訳じゃあない。
どうも本を読んでいたら食べたことの無い料理名が沢山出てきてどうしても食べてみたかったらしい。
そこで考えた結果が調べるなり想像するなりして自分で作る!というものだったらしい。
好きこそ物の上手なれ。とはよく言ったもので今ではすっかり亡くなった母親より美味しい料理を作れるようになったと言っていた。
ハルトの母親はハルトが5歳の頃亡くなっている。
かなり豪快な母親で作る料理もワイルドだった。
少し掃除が苦手でハルトが代わりに炊事洗濯をやっていたお陰か当時から彼の家事スキルには目を見張るものがあった。
そんなハルトの母親がある日、キノコを調達する為に村の外に出た帰り巨大な野生オークに殺されてしまった。
滅多に出ることの無い野生オークが出てくるだけでも珍しい事なのに大きさも凄まじかった。
ハルトの母親はそこらの男より腕っ節があり普通のオークならば簡単に返り討ちに出来ただろう。
結界だって張ってある。
場所は村から相当近かったしきっと気も緩んでいたに違いない。
それでも大きさが大きさだった。
ハルトの誕生日には得意のキノコ料理を作りたいとほんの少しだけ村の外に出ただけだ。
その日からハルトは自身の誕生日を祝われるのを非常に嫌うようになった。
件のオークは、王宮より討伐隊が来て一帯に生息していた野生オークを一掃してくれた。
近くに巣が出来てしまっていたらしい。
討伐隊もボスオークの予想外の大きさに苦戦したみたいだったがなんとか討伐に成功してハルトの母親の葬儀にも参列していってくれていた。
そんなこんなで家事をしているとハルトは母親との楽しい時間とやらを思い出すららしい。
幸せな気持ちを思い出せるらしい。
なんともうらやましい限りである。
ちなみに興味はないかもしれないが俺の両親はこの村唯一の医者で村の外から行き倒れてた旅人の発熱が酷いからと隔離して治療を行った結果、伝染病を移されもがき苦しんで死んだ。
母親もそんな父親を看病して同じ病気で死んでいる。
二人とも俺に移させまいと隣の家に俺を預け、そして伝染病を拡散させなかった事を感謝されながら死んでいった。
なんというか人が良すぎて死んだのだ。
そんな良く知りもしない他人の為に死ぬなんてとんだくそばかだと俺は思っている。
俺はそんな親みたいな死に方はしたくない。
何よりも誰よりも自分の身の安全が一番だ。
俺には世話はしてくれても引き取ってくれるような優しい大人は居なかった為、8歳の頃から一人で暮らしてきた。
そんな俺を村人なりに俺の事を大事にしてきてくれた事には感謝しているが金や命の問題は別だと考えている。
もし自分の命を張らなければいけない直面に達したら俺は簡単に他者を切り捨てるだろう。