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天竜族。
その存在は、人間の間で神様と崇められておりその昔、実際に存在していたと思い込まれている。
なんでもその種族は地上に人間を作り出し、地上を人間に適した環境へと導き、色んな事情とやらを経過して自分達は神となるべく天空へと住まうようになったという幻の種族ってやつらしい。
俺の村の連中は、代々そんな天竜族の族長と一番初めに作られたとされる人間の間の子孫だと思い込んでおり、それ由来の文献があると信じ込んでいる。
まぁこの世界の住人の殆どの認識として天竜族の子孫って言やぁ、言わずと知れたこの国の王族さまという説がもっぱらだけどな。
それでも村長曰く、信憑性には欠けると俺は思ってるがそのあるかないかよく解らない文献の存在と本当に賜っているのか賜っていないのか解らない村長嫡男にのみ与えられるとかいう天啓を守る為に王家直属の魔術師が毎年この村に確認に来ている事がその全てを肯定する証拠だそうだ。
その天啓の力とやらは王族の魔術師曰く確かに代々村長の嫡男に受け継がれどんどん強くなっている…ものらしい。
らしいというのも俺はその天啓というやつを本当に村長の嫡男になってるやつが受け継ぎ承っているのか良く解らないし魔術師も本当にそんな事をわざわざ確認しにこの村に来ているという事を正直疑ってるからだ。
まぁ、確かに王家の命令とやらでこの土地だけ他の村より結界が目に見えて色濃い事は素直に認めるし何かあるのかもしれないが天竜族の天啓も加護も恵みも俺達村人が承ってるものというだけではなく村の存在自体が勇者を守る為に必要な力として承ってると信じているのはちょっと薄ら寒いものを感じる。
ぶっちゃけて言えば村長の威厳を守る為に色々と都合よくありもしない脚色をつけて真実を捻じ曲げ、村長である威厳を保つ為の嘘かもしれない。
ひとつ疑問を呈するとすれば何故か偶然にも代々村長の家系には嫡男であるなしに関わらず男子しか生まれないともっぱらの評判であることくらいか。
文献様曰く、
『汝ら天竜族の子孫に人間の未来を托す。
これは長きに渡る契約になる。
代々 村長の嫡男にのみ、恵みや恩恵、繁栄などという名の天啓を加護と共に与える。
村長の御子は”男子のみ生まれるもの”と我々は強制力をつけた。
この天啓と加護の力は、族長の子々孫々まで受け継がれ、その生命の力を持って力を増幅していくものである。
この力は全て勇者の為のものである。
これより我が地上より離れし1000年の後、魔王が力を取り戻しこの村に勇者が生まれ育ち、我はその子を特定すべく村長たる男子に天啓を下すであろう。
勇者が見つかりし時点で直ちに村長である我等の子孫は、その天啓と加護の力を洗いざらい勇者に渡し返すべし。
変わりにその後も村のある場所、ある国のみ滅びぬ力を約束しよう。
勇者とは……』
と書かれているんだそうだ。
なんというか俺がこんなに信じていないのは、というのもその文献自体を目にした事はただの一度もないからだ。
この文献は俺らの村じゃあ赤子の頃から大人たちに丁寧に教えられ伝えられ、知らないものを探す方が難しい。
最後の勇者とは……の後の文章だが
ある大人曰く、大昔に盗賊が村を襲って大きな雷が天誅のように盗賊めがけて落っこちてきたり
ある大人曰く、凄くでかい魔獣が近くに巣を作って村を襲おうとしてきたと同時に突然竜巻が発生したとかいう事件があったり
ある大人曰く、数百年前に王族調査団と他国が文献欲しさに奪い合いした結果、大事な資料や文献もちょっとづつ壊れたり削られたりしていったり
ある大人曰く、まぁ色々ありすぎた所為に見るも無残に破れてしまって今となっては続き自体どんな内容なのか誰にも解らないという感じだったり……。
どれもこれも証拠もへったくれもない為、俺は知らない。
続きの噂に至ってはどうなのか解らない言い伝えか噂に過ぎない程度のこじつけかもしれないものばかりだけどともかく正式なその文献の続きを聞かないって事だけは間違いがない。
なんっつーか、大切なものなんだから写本とか作っとけよな……。